物流拠点の最適化 ~物流改善を進めるための実践ノウハウ(2)~
ロジスティクス最適化のコンサルティング事業を展開する船井総研ロジ株式会社の物流コンサルタント7名で『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』を執筆しました。
運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約しています。
本稿では、同書から一部を抜粋しお届けします。
目次
物流拠点と経営戦略の関係性
経営戦略と物流戦略は密接に関係しています。どのような顧客を対象に何をどれだけ売るのか?マーケティングの内容が商品をいつ、どこに、どれだけ届けるのか?という物流の条件を決定する必要があるためです。もう1つの視点として、商品の品揃えも物流の運営に大きな影響を与えます。
物流戦略策定時に求められること
たとえば、同じ広さの倉庫でも、その中で1,000アイテムを取扱う倉庫と10,000アイテムを扱う倉庫では保管、入出荷作業の設計と運営に必要とされる業務能力の難易度は全く異なります。このように「必要とする物流処理能力」と「実際の物流体制が発揮する物流能力」のギャップを生まないためにも、物流戦略策定時には経営戦略を具体的に把握して検討することが求められます。特に今後の販売施策と在庫保有施策は理解したうえで、物流のキャパシティと能力設定に反映することが肝要です。
しかし、販売計画や在庫保有施策が物流に与えるインパクトを反映するためには、物流業務を想定した具体的な影響内容と影響度合いを測らなければなりません。荷主企業の物流部門は物流を先読みし、現場への影響を想定できるノウハウを保有することが求められます。
経営における物流担当者の大事な役割
また、この先の販売施策や環境変化が物流に与える影響を社内にわかりやすく伝えることも重要です。これから10年間に起きる日本国内の物流環境の変化はどの荷主企業にも例外なく、非常に大きな影響を与えることが予測されます。
しかし、その影響とリスクの大きさを理解している経営者層がどれだけ存在するのでしょうか。そのリスクと影響を社内に共有することができなければ、経営の舵取りを誤ることにもつながります。物流担当者はそのリスクをいち早く経営層に伝えるべきであり、今後の企業の在り方を左右する大事な役割を担っているといえます。
(関連するコラム「物流環境変化と企業リスク」)
物流拠点の最適化と配置
物流拠点の配置はサービスの軸で決まる
物流戦略は拠点配置によってその骨組みが決まります。拠点計画のステップはいったいどのように決まるのでしょうか。つい物件探しから始めてしまいがちですが、その逆で、先ずは顧客分布から見なければなりません。合わせて納品条件を決めることで、利用配送網が決まり、顧客から拠点の距離が決まります。そのためにも、自社の物流サービスの軸を決めて、以下の項目を明らかにすることが非常に重要な取り組みといえます。
- ・いつ?=納品サービス(リードタイム)
- ・何処に?=顧客の分布状況
- ・どれだけ?=納品サービス(量)
- ・誰が?=納品サービス(配送網)
- ・どのように?=納品サービス(付帯条件)
(関連するレポート「拠点計画と運営マネジメント」)
最適な物流拠点設計を実現するには
顧客と拠点の距離が決まれば、それぞれのエリアに配置するべき拠点の位置が決まり、それにより、カバー顧客数と拠点の規模もおのずと見えてきます。その際に在庫に対する経営の方針を反映することになります。在庫政策によって、同じ出荷量を担う物流拠点でもその規模感が異なるためです。
拠点の場所や規模感と提供する物流サービスが決まれば、その拠点が保有すべき機能も見えてきます。今後の倉庫作業員不足や人件費高騰の対策として、省人機械導入を検討することも今後の拠点設計では大事な視点です。書籍の中では「最適な物流拠点数は?」「物流拠点はどこに置くべきか?」「拠点配置検討の手順は?」など、実際の拠点配置検討で必ず躓く問題点を取り上げています。その検討課題に対してコンサルティングの現場で活用される拠点配置検討のステップと検討項目をピックアップして、みなさまが同様の検討をする際に有効な着眼点を伝えています。
(関連コラム「拠点集約か分散か」)
拠点計画策定に不可欠な外部環境の検証
拠点配置を検討する際に忘れてはならない視点がいくつかあります。それは下記の項目です。
拠点配置最適化の視点
- ・商品調達の発地と物流拠点の距離
- ・BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)から見たリスク
- ・倉庫作業員の雇用面から見た周辺環境
- ・路線便、宅配便の集荷拠点との距離 ・高速道路、主要幹線道路との位置
全ての面で最高の立地を探すことは困難であるため、優先順位付けが重要といえます。その要素が欠落することでリードタイムが守れない、集荷時間が前倒しになるなど、納品サービスに破綻をきたすものがある場合は、当然優先しなければなりません。自社倉庫の特徴と実行しようとしている物流サービスを客観的に見て、倉庫が抱えるリスクを洗い出すことも並行して行わなければなりません。
求められる物流BCP対策
物流BCPとは、何か有事が発生した場合に物流を止めない、もしくは可及的速やかに復旧させる事前の想定計画のことです。近年のロジスティクス・物流BCPにおけるリスク対象は地震だけでなく、台風をはじめとした風水害、降雪のリスクを考慮しなければなりません。BCP対策はコストUPと直結することが多いため、各企業がBCPに対する考え方を社内検討のテーブルに上げ、その方針を決定づけておくことが肝要です。会社の考え方を明確にすることで物流が用意するリスク対策も決めやすくなります。国内物流戦略における自然災害は、もはや想定外ではなくなっているのです。
物流BCPに関連するコンテンツ
・コラム「変化する物流BCP」
・コラム「物流BCPが変わった!」
・コラム「物流センターのBCP対応の変化」
3PL活用のメリット・デメリット
昨今の物流拠点運営を語るにおいて、3PL(サードパーティーロジスティクスプロバイダー)の活用は必ず検討に上がる話となっています。
荷主と物流会社の「パワーバランス」
3PLの活用メリットは多岐に渡り、特にコスト削減施策として採用してきた荷主企業も少なくありません。しかし、国内物流環境が激変し、パワーバランスが変化した今、そのデメリットやリスクにも目を向けるべきです。3PLを否定するのではありません。もし今まで物流業務を丸々業務委託してきた企業があるとすると、取り巻く環境が多く変化するため、そのままの状態では継続できないリスクが高く、コストUPリスクが高いため、委託内容を精査する必要があるという警鐘です。
(関連するコラム「物流企業の付き合い方」)
物流業務のブラックボックス化
業務委託の性質上、物流を業務委託してしまった企業には物流業務ノウハウが欠落することになります。その結果、物流業務の内容がわからなくなる(ブラックボックス化)ことが懸念されます。現状が見えなくなると、何が問題、課題なのかもわからなくなるため、物流における高度化の動きが働かなくなるのです。そうなると委託先企業による改善活動に期待することになるが、コストダウンなど、委託先企業の収入減につながる提案は期待し難いでしょう。
自社業務から業務委託に切り替えた瞬間のコストダウンは効果あるかもしれないが、その後の継続的な取り組みは期待できません。これからの国内物流環境変化のような大きな改革を必要とする時期にはその適応力に弱さが露呈することになります。物流環境の変化に対応するための施策検討が進まず、具体策に動くことができていない企業が増加している実態にも目を向けなければなりません。
(関連するレポート「5年先を見据えた拠点のあり方」)
物流管理レベルの向上
上記のようなことにならないためにも、物流業務委託を進める中で下記の3つの取組みは押さえるべき項目です。
物流業務委託時の注意点
- アウトソーシングのメリットとデメリットを整理
- 物流要件を正確に定義した提案依頼書の作成
- 物流コンペによるパートナー企業の選定
※それぞれの取組みにおける詳細な解説は書籍でご紹介
物流業務を管理するためのKPIを管理し、効率やコストのインジケーターが悪化した場合にはその対策を図るノウハウを保有しなければなりません。3PLの業務評価も含め、何を管理することが効果的なのか?や、悪化した運用を改善するための実行策を検討できるだけの物流業務ノウハウを取り戻すことが、これからの荷主企業に求められているのです。 書籍では管理の具体的な項目などを記載し、これからの荷主企業の管理の在り方を提言しています。
物流BCPに関連するコンテンツ
・コラム「物流コンペの全体像」
・ダウンロード「物流コンペ3つの掟」
さいごに
『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』の出版を記念したセミナーを開催いたします。経済環境の変化が激しい中、経営戦略から物流戦略にどのように落とし込んでいけばいいのか? 自社の物流コスト水準に応じた、物流戦略策定の方向性を解説するセミナーです。
2021年上期の振り返りと下期に向けた注力ポイント、市場相場との比較とコストに影響する物流委託業務の実態から、コスト競争力を高めるためのヒントを船井総研ロジの物流コンサルタントが解説します。
ご興味ある方は、ぜひご参加ください。
物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ
運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約した物流管理者必携の一冊。
当社の現役コンサルタント総勢7名が、昨年夏、通常のコンサルティング業務にに励みながら、約1カ月という短期間で執筆しました。
※書籍紹介ページへジャンプします
- ・第1章 抜粋コラム「物流管理の在り方 」
- ・第2章 抜粋コラム「物流拠点の最適化」
- ・第3章 抜粋コラム「輸配送の改善が企業に与えるインパクト」
- ・第4章 抜粋コラム「調達物流の問題を見えづらくする商物分離」
- ・第5章 抜粋コラム「物流システムとは」
- ・第6章 抜粋コラム「物流 自動化の課題」
- ・第7章 抜粋コラム「物流DXとは」