物流オピニオン 2021.04.21

物流 自動化の課題 ~物流改善を進めるための実践ノウハウ(6)~

マテハン導入に必要となる保管設計・業務設計の手法を事例を交え具体的に解説します
物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ|船井総研ロジ株式会社


ロジスティクス最適化のコンサルティング事業を展開する船井総研ロジ株式会社の物流コンサルタント7名で『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』を執筆しました。

運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約しています。

本稿では、同書から一部を抜粋しお届けします。



1.   マテハン導入が求められる市場環境について

(1)  有効求人倍率の推移

 日本国内で急激にマテハン導入が求められてきた背景には、人手不足があります。当社では倉庫・物流センターで作業者不足が発生している原因を下記3つだと考えます。

  • マルチテナント物流センターへの貨物集中
  • EC物流センターの増加
  • 作業者の高齢化・女性比率の高さ

(2)  マルチテナント物流センターへの貨物集中

マルチテナント物流センターとは大規模物流施設の開発・運営手法であり、複数企業向けに設計・施工し、後から賃貸契約するテナントを募集する汎用タイプの物流センターのことです。

マルチテナント型センターは、大型規模かつ複数企業向けの物流センターであるため、多くの作業者が必要となります。マルチテナント物流センターが1棟稼動するだけでも数百人、規模によっては千人を超す作業者が従事することになります。そして、マルチテナント物流センターは、ファンドや商社が物流不動産投資市場の拡大を想定して積極的に投資を行っているため、年々都市部郊外を中心に増加しています。

首都圏を通過しないで全国への幹線輸送が行えるというメリットから、多くのマルチテナント型センターが圏央道沿や主要な環状線上に立地しています。当然密集しているとそのエリアに多くの倉庫作業者が必要になるため作業者不足に陥り、結果的に取り合いが起こるのです。

(3)  EC物流センターの増加

 EC市場の拡大も、倉庫作業者不足に大きく影響を及ぼしている要因の一つです。毎年EC市場は拡大しており、EC市場の拡大は物流に大きな影響を与えます。ECが拡大すれば当然物流センターで入出荷作業を行う労働力も必要となります。とりわけECでは多品種小ロットの取扱が多いため、大ロットで出荷する製造業のような作業工程は異なり、ピッキング・梱包といったパートアルバイト従業員で行える軽作業を行う労働力が多く必要となります。EC市場の拡大は宅配会社のみならず、物流センターおいても人員不足の要因となり、作業者の取り合いに拍車をかけているのです。

(4)  就業者の年齢構成・女性比率

 物流業務(道路貨物運送業・倉庫業)にかかわる就業者の年齢構成を見てみると、40~54歳の割合が全産業と比較して高く、4割を超えます。一方30歳以下の割合が全産業と比較すると低い数値となっています。

 この年齢構成と女性比率も、倉庫業の人手不足に影響していると考えられます。倉庫作業は軽作業とはいえ、ピッキングする工程で歩行・商品の摘み取り時の屈伸動作などの動きがあるため、高齢者または女性にとっては体に応える業務です。そのため、倉庫作業者の応募状況は体に負担がかからない商品を取り扱う物流センターの方が集まりやすい傾向があります。

2.   前提条件整理(ハード・スケジュール・コスト)

 マテハンを導入すれば倉庫作業者はすぐに減少させられるのでしょうか。結論から言うと、マテハン導入は簡単なものではなく、導入を行う前には、行うべきステップがあります。そのステップをしっかりと行っていなければ、いかに最新のマテハンを導入したとしても失敗するリスクがあります。

 段階を踏んで行っていくことで、失敗に陥るリスクを軽減することができます。マテハンを導入したがうまく稼働していないといった現象に陥っている倉庫は、しっかりとしたステップを行っていない可能性が高いと考えられます。

(1)  なぜ導入するのか?“Why”

 最初に行わなければならないことは、なぜマテハンを導入するのかということを決めることです。

重要になるのは、マテハン導入目的を担当者という個人単位ではなく、社内全体で明確に定めることである。そして、それがぶれないようにすることが必要です。

(2)  どこに設置するのか?“Where”

 目的が定まった後、次に行うことはどの工程にマテハンを設置するのかを決めることです。これを検討する際には、数値的な分析が必須である。逆に言うと、現状分析をして数値的な検証を行わなければどこにマテハンを導入するのかを定めることができません。

(3)  何を設置するのか?“What”

 どの工程に設置するのか現状分析で抽出したら、それぞれの工程へ何を導入するのかを絞り込んでいきます。

 また、現状分析を行い、問題・課題のある工程に対してすぐにマテハンを導入するという行動に移るのも避けた方がよいでしょう。倉庫内業務のカイゼンを行うことで最適化できることであれば、多額の費用を支払い、マテハンを導入するのは避けるべきです。マテハンを導入することが目的にならぬよう、常にカイゼンしていくという視点を持って現状分析を行うことが必要です。

そして、物流データのみの現状分析でマテハン導入を検討していくことも避けるべき点です。

(4)  いつ導入するのか?“When”

 マテハンの導入目的が社内で明確になり、現状分析で導入する工程・機器を選定した後、いつ導入するのかという検討に入ります。

実は、このスケジュールが先行して決まっているケースが、最も失敗事例として多いのです。

 スケジュールを検討する場合は、始めからマスト条件のスケジュールにはせず、マテハンメーカーと調整を重ねて導入には余裕を持った組み立てが必要です。

(5)  予算はいくらか?“How much”

 マテハン導入目的を明確にし、何をどこに導入するかを決めた後、スケジュールを組み立てと共に社内で調整・確認するのが、予算取りです。

 社内申請では、マテハン導入による費用対効果や償却費用を提示する必要があるでしょう。金額の試算は。論理的な根拠に基づいての算出が必須であり、いくつかの導入パターンをシミュレーションしておくことが望ましいでしょう。コストシミュレーションは、製品機器・システム開発費用といった導入費用とメンテナンス費用などを含めたランニングコストに区分して行う必要があります。

3.   保管設計・業務設計・システム設計の三位一体

(1)  前提分析条件

まず始めに、導入するマテハンに対してどの商品を利用対象とするかを決める必要があります。

もちろん物流センターを全自動化するということであれば全商品を利用対象とするため、対象物を決める分析自体不要ということも考えられます。しかしながら、日本国内では全自動化された物流センターはほぼなく、マテハン導入する場合、そのマテハンを利用する対象物を設定することが多いのが実態です。マテハン利用対象物を設定するためには、物流データを様々な角度から分析することが必要です。

(2)  保管設計

 現状分析を行った後、導入マテハンのスペックを設定します。

先述の商品別保管物量分析により導入マテハンの必要キャパシティを算出します。荷姿別に保管方法が異なる場合は、導入マテハンの使用方法別に区分して設定を行います。保管設計を行う上では現状分析によりどの時点の数値を用いて設計を進めていくかが重要となります。

(3)  業務設計

 マテハン導入後の業務設計を行うには、現状工程を誰が、どれくらいの生産性で行っているかということを可視化する必要があります。

 現状のヒトで行う作業工程と生産性を可視化した上で、導入するマテハンを利用した場合の工程を検討します。

(4)  システム設計

 保管設計・業務設計の後に行うのがシステム設計です。

マテハンは倉庫業務を管理するWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)と情報連携を取って稼働しています。そのWMSとの情報連携を行う際、マテハンをより効率的に動かすためにWCS(Warehouse Control System:倉庫制御システム)を介しています。

 WCSは倉庫内設備を制御することに特化したITシステムのことです。マテハン機器を遠隔制御し、最適なスケジュールでの倉庫内作業を可能にするシステムです。WMSから発信された入出荷在庫情報についてWCSを介してマテハンに指示が出されることで自動的に効率よく倉庫内作業を行うことができます。WMSの情報をどのようにWCSに取り込み、マテハンを制御していくかが、マテハン導入を検討する上で重要になります。

(5)  保管設計・業務設計・システム設計の三位一体

 現状分析から保管設計・業務設計・システム設計を検討していくことで最適なマテハンを導入する下地を作っていくことができます。反対に言えば、3つの設計を検討していかなければ偏った設計となり、どこかでほころびが発生するリスクがあります。しっかりとした現状分析が前提としてあり、保管・業務・システムの3面による設計により初めてマテハン導入の成功が見えてくるということになります。

さいごに

『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』の出版を記念したセミナーを開催いたします。経済環境の変化が激しい中、経営戦略から物流戦略にどのように落とし込んでいけばいいのか? 自社の物流コスト水準に応じた、物流戦略策定の方向性を解説するセミナーです。

これからの物流戦略(物流改革大全 出版記念セミナー)|船井総研ロジ株式会社

2021年上期の振り返りと下期に向けた注力ポイント、市場相場との比較とコストに影響する物流委託業務の実態から、コスト競争力を高めるためのヒントを船井総研ロジの物流コンサルタントが解説します。

ご興味ある方は、ぜひご参加ください。

物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ

物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ|船井総研ロジ株式会社

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当社の現役コンサルタント総勢7名が、昨年夏、通常のコンサルティング業務にに励みながら、約1カ月という短期間で執筆しました。

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Pen Iconこの記事の執筆者

安川 洋介

船井総研ロジ株式会社

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