輸配送の改善が企業に与えるインパクト ~物流改善を進めるための実践ノウハウ(3)~
ロジスティクス最適化のコンサルティング事業を展開する船井総研ロジ株式会社の物流コンサルタント7名で『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』を執筆しました。
運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約しています。
本稿では、同書から一部を抜粋しお届けします。
輸配送は物流機能の中でも、最も注目される機能の一つです。理由としては以下の3つがあります。
1.物流コストの5割が輸配送コスト(運賃)を占める
2.物流業界の話題として「運賃値上げ」「ドライバー不足」といった、輸配送に関係するテーマが多く取り上げられている
3.改善すべき潜在的なテーマが多くある
それぞれについて、くわしく解説していきます。
1.物流コストの5割が輸配送コスト(運賃)を占める
物流コストを削減するうえで、どのような手順で検討を進めますか。まずは、自社の物流コストを知ることから始める必要があります。「物流コスト」とはどの範囲を対象とするか明確にします。例えば製造業であれば、工場で生産した製品を外部倉庫へ移管する際の運賃、外部倉庫で発生する倉庫料(保管料、荷役料)、外部倉庫から得意先へ配送する際の運賃、このような費用が物流コストとして計上されることが多いでしょう。
物流コストの対象範囲を明確した次には、物流機能ごとにコストの集計を行います。運賃、保管料、荷役料といった区分です。物流コストの5割を占める輸配送コストにおいては「運賃」と一括りにせず、外部倉庫や工場間を移動する際に発生する運賃と、得意先へ納品する際に発生する運賃と分けておくとよいでしょう。
輸配送区分としては大きく以下に区分されます。
・社内物流・・・「売り」が発生していない物流
・販売物流・・・「売り」が発生している物流
社内物流は売りが発生していない状態、つまり外部倉庫への在庫補充や工場間の移動に関わる運賃です。販売物流は売りが発生している状態、得意先へ製品をお届けする際に発生する運賃です。
どちらも荷主企業の営業行為として必要なことではありますが、輸配送コスト削減のポイントとして、物の動きを可視化することで、無駄な動きに対して運賃が発生していることが見えてきます。
「物流コストの5割が輸配送コスト(運賃)を占める」という事実に対して、みなさんはどのように感じますか。得意先へ製品をお届けする大事な要素を担うための輸配送ですが、実はそこにムダが多く存在しているのです。実際にはムダと感じていません。
まずは、ムダを理解することから始める必要があります。ムダになる可能性がある事象としては、担当者の個人的な理由で発生している条件、大分昔に得意先から要望を受けた条件、前任者から引き継いだ条件などがあります。
ムダというのは本来対応しなくてもよいことにお金をかけていることが見受けられます。ムダな行為に対して、どの程度物流コストに影響を及ぼしているのか把握されていますか。外部への支払い費用だけでなく、社内における見えない管理費(人件費)にも影響を及ぼしているのを把握されていますか。
第1節「輸配送区分」、第2節「輸送手段とその使い分け」に本件の詳細について記載しておりますので、ぜひご覧ください。
2.物流業界の話題として、輸配送に関係するテーマが多く取り上げられた
物流業界というと「トラック輸送」のイメージが根強いことから、物流業界における課題としては輸配送に関わることが多くあげられています。その中でよく耳にする物流企業からの「運賃値上げ」「ドライバー不足」はなぜ起きているのでしょうか。
「運賃値上げ」と「ドライバー不足」は密接な関係にあります。ドライバー不足ということは仕事量に応じたドライバーが不足しているため、必要な人員を採用しなければなりません。採用するためには当然コストがかかります。外部の採用サイトに募集要項を掲載するための広告費用やトラックドライバーという職業を選んでもらえるよう、給料も水準をあげる必要があります。採用費用や給料をアップするための原資はどこにあるのでしょうか。
当然のことではありますが、物流会社の収入要素である輸配送で得た運賃です。運賃から会社を維持するための経費(車両購入・メンテナンス・保険料、人件費、事務所費など)をカバーしなければなりません。もちろん物流企業もコストを抑える取組はしています。
しかし、そもそも物流業界における給与水準が全産業と比較すると約20%も低いという実態があります。つまり、運賃値上げは会社を維持するために必要な行為でもあり、ドライバーを確保する、給与水準をあげ、選んでもらえる仕事にするためには必要なことなのです。
「運賃値上げ」は輸送の過程においても大きく明暗が分かれます。2017年大手宅配会社の値上げにより、物流業界における運賃値上げが一気に加速したのはみなさんの記憶にも新しいと思います。
物流会社が運賃を値上げするというのは、ドライバー確保という観点においてももちろんですが、単純に負担がかかる仕事であるということもあります。つまり、時間がかかる、手間がかかる、負荷がかかる、こういった作業が発生する場合、物流企業としても効率が落ち、本来見込んでいた生産性や収益が確保できない可能性があります。
結果、現在の人員では対応できず「ドライバー不足」に陥ることになります。
宅配会社を例にとると、再配達率の高さが配送効率に影響をしています。大手宅配会社が値上げを発表した際に、一部の配達指定時間を撤廃したことがまさに関係しています。細かく配達時間を設定していることと、再配達の頻発により、1日に配送できる個数(軒数)が落ちてしまいます。
そのために、物流企業側もサービスの見直しをして、可能な限りコスト抑制に努めているのです。
第3節「運賃の構造」、第4節「運賃の妥当性検証とコスト削減のためのポイント」に本件の詳細について記載しておりますので、ぜひご覧ください
3.改善すべき潜在的なテーマがある
1.物流コストの5割が輸配送コスト(運賃)を占める
2.物流業界の話題として「運賃値上げ」「ドライバー不足」といった、輸配送に関係するテーマが多く取り上げられている
これまでに解説した上記のことから、必然的に輸配送は改善の切り口が多く存在しているのです。しかしながら、そのことに気づいていないことが多いのが実態です。
具体的にどのような改善ができるのでしょうか。突然、改善のテーマが思いつくわけではありません。自社の物流コストの実態を知ることと同様、自社における輸配送の実態を理解することが改善の切り口を見つけるためには必要です。
輸配送においては、数台自社便を保有している荷主企業もいますが、大半の荷主企業が物流企業へ輸配送を委託しています。外部委託をしていることで陥りがちなのが、業務のブラックボックス化です。
ブラックボックス化されていては、改善のしようがありません。そうならないようにするためにも、外部委託をしている内容については荷主企業も把握しておく必要があります。
まずは、実態を理解したうえで、自社に合った輸配送の構築や、輸配送を担ってもらえる物流企業を選定し、一緒に創り上げていく必要があります。
輸配送の改善すべきポイントとしては、輸配送管理をするKPIを持つことです。新たな輸配送網を構築して終わりではなく、継続して輸配送管理(コスト、効率、品質)を行うためには、判断するための数値を計測して、評価を行う必要があります。管理の判断軸としては以下があげられます
得意先ごとに発生している運賃
売上に対して過剰な物流コスト(運賃)が発生していないか?
1軒先ごとに発生している納品時間
1軒先の納品に対して、どれぐらいの時間が発生しているか?
1運行(1便)あたりの積載率・実車率
効率よく積載され、運行されているか
これらを管理、定点観測するうえで、輸配送における改善すべき課題が見えてきます。結果、コスト抑制につながります。 第5節「配送構築のステップ」、第6節「輸配送管理におけるKPI」に本件の詳細について記載しておりますので、ぜひご覧ください。
さいごに
『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』の出版を記念したセミナーを開催いたします。経済環境の変化が激しい中、経営戦略から物流戦略にどのように落とし込んでいけばいいのか? 自社の物流コスト水準に応じた、物流戦略策定の方向性を解説するセミナーです。
2021年上期の振り返りと下期に向けた注力ポイント、市場相場との比較とコストに影響する物流委託業務の実態から、コスト競争力を高めるためのヒントを船井総研ロジの物流コンサルタントが解説します。
ご興味ある方は、ぜひご参加ください。
物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ
運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約した物流管理者必携の一冊。
当社の現役コンサルタント総勢7名が、昨年夏、通常のコンサルティング業務にに励みながら、約1カ月という短期間で執筆しました。
※書籍紹介ページへジャンプします
- ・第1章 抜粋コラム「物流管理の在り方 」
- ・第2章 抜粋コラム「物流拠点の最適化」
- ・第3章 抜粋コラム「輸配送の改善が企業に与えるインパクト」
- ・第4章 抜粋コラム「調達物流の問題を見えづらくする商物分離」
- ・第5章 抜粋コラム「物流システムとは」
- ・第6章 抜粋コラム「物流 自動化の課題」
- ・第7章 抜粋コラム「物流DXとは」