物流オピニオン 2021.04.16

調達物流の課題解決と商物分離 ~物流改善を進めるための実践ノウハウ(4)~

物流管理において見落としがちな調達物流に焦点を当てます。(写真:PIXTA)
物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ|船井総研ロジ株式会社


ロジスティクス最適化のコンサルティング事業を展開する船井総研ロジ株式会社の物流コンサルタント7名で『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』を執筆しました。

運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約しています。

本稿では、同書から一部を抜粋しお届けします。



調達物流についてはどこか置き去りになっている

荷主企業の物流部門担当者と話をすると、販売物流や社内物流には物流改善のメスを入れる発想がある一方で、調達物流についてはどこか置き去りになっていると感じることが多々あります。

自社拠点からお客様・消費者までの配送の効率化や倉庫の集約といった販売物流、自社拠点または倉庫間の無駄な社内間転送を削減する社内物流に関する物流改善は、コスト抑制の余白ありと判断され物流部門による指揮のもと取り組まれています。

しかし、調達物流となると各社動きが鈍くなってしまうのが実情ではないでしょうか。そこには解決すべき問題があるのは明白です。本章では物流管理において見落としがちな調達物流に焦点を当てています。

要点①:調達物流はこれまであまり注目されてこなかった領域である。背景には日本の商習慣と荷主企業の組織の在り方が影響しており、商物一体が色濃く残っている

要点②:確立されている調達物流の代表例はミルクラン方式とVMI方式が挙げられる。しかしどちらも特定の業界でのみ発展してきており、全業界において確立されているわけではない

要点③:調達物流管理のメリットは「全体最適が見込めること」と「仕入れ品の価格と物流費が明確化されること」である

商物一体:日本の商習慣と荷主企業の組織の在り方

調達物流がこれまであまり問題視されてこなかった理由には、長きにわたって継続されてきた日本の商習慣に1つ目の要因があると言えます。どういうことかというと、調達物流という言葉そのものを認識していたとしても、そこに物流費がかかっているという認識が極めて薄いのです。

つまり、調達物流に係る物流費は原材料(または資材)の調達価格すなわち商品価格に包含されており、原材料そのものの価格とその原材料を送り届けてもらう配送費とを切り分けて考えられていないということです。

言い換えれば、商物分離ができていない状況と言えます。これは原材料を供給する側が悪い、調達する側に問題がある、という事ではなく、これまでの日本社会におけるモノの売り方と買い方が影響しているのです。

このような背景があるからと言って調達物流改革を諦めるのではなく、販売物流や社内物流と同様に現状の把握を行い、原材料の価格と原材料調達に係る物流費を明確にすべきです。

明確にしたうえで原材料調達にあたって、「1回の発注に対して物流費がいくらかかっているのか」「1個あたりの物流費がどれくらいか」などの視点から物流改善に踏み切るべきだと言えます。

物流改革に踏み切るというのは、物流体制の変更や切替えを断行するだけではありません。現行の体制が効率的または合理的であるかを判断するには、まず現状を把握して他の方法と比較する必要があります。比較をすることで初めてその選択を行う俎上に載ると言えます。

調達物流問題が遅々として進まない理由

この調達物流問題が遅々として進まない理由の一つには、調達物流の捉え方が売買の立場によって正反対に写るという点があります。例えば一次加工メーカーXがaという原材料を調達して加工を施しa’を製造し、二次加工メーカーYに販売するとします。この場合、Xは物流費が包含された原材料aを調達し加工します。次にXからYにa’が販売されることになりますが、Yにとってa’は調達になるので商物分離をしてa’の商品価格とa’を輸送するためにかかった物流費を分けるようにXに要求したとます。この時にXの立場としてはどう考えるでしょう?

Yにとっての調達物流であっても、Xにとっては販売物流になります。販売物流は皆様も普段から取り組まれているように、より効率的に、より合理的に、より安価に輸送する物流体制の構築を進めており、長年の取引関係の中で物流体制の構築が出来上がっているかもしれません。

それにもかかわらず、ここに来て突然Yが調達物流の見直しで調達する原材料の資材費と物流費を分離して自社都合の物流合理化を図ったとしたら、すでにXが構築していた販売物流体制が崩壊してしまう恐れがあります。

そのような危険性がある事を分かったうえで、Xが容易に商物分離を受け入れてくれるとは到底思えません。ただし「販売ロットが小さいために物流コストが過剰にかかってしまっている」「納品時間や納品形態において購入者側の要望が細かく対応に苦慮している」「輸送距離が非常に長くて運送会社に断られることがある」など、すでにXにおいて物流が課題と認識されている場合はこの限りではありません。

もちろん、Yが提案する新たな物流体制がXにとっても合理的で手間のかからない持続性の高い体制である可能性もありますので、一概に調達物流改革が無謀であるとか不可能であると断言することはできません。Y提案の物流体制への切替ありきではないにしても、現体制と比較するためには調達物流の可視化が非常に重要になります。

荷主企業における組織体制の在り方

調達物流に物流管理が及ばない2つ目の要因としては、荷主企業における組織体制の在り方が挙げられます。荷主企業の物流部では主に販売物流と社内物流を管掌しており、調達物流は調達部や資材部などといった部門が管掌していることが多いと言えます。

このような組織体制では全社物流の最適化は一向に進まず、それぞれの部分最適しか望めません。そこで物流部と調達部の垣根を越えた全社の物流を一元管理するSCM本部などといった部門を組成することで、この課題の解決に繋がると言えます。

そして、このSCM本部は会社全体そしてサプライチェーン全体を俯瞰した物流最適化を実行出来る組織となります。

例えば、原材料を大阪から調達して東京の工場で加工し、大阪の顧客に製品を販売している企業があったとします。調達物流の管理と販売物流の管理が別部門で行われていた場合には、それぞれが帰り荷の無いまま(これを片荷と言います)輸送を行っている可能性がありますが、原材料調達から製品販売までを一元管理することができれば1台のトラックを往復で活用することができるため、調達と販売の双方でコストダウンを見込むことができます。

まとめ

これまで述べてきたように調達物流改革は取引先との交渉や社内の組織再編などが必要であり、明日からすぐに着手できるものではありません。しかし、一つ一つ問題点を正しい手順に沿って解消することで、改革着手の道筋を作ることができます。

特定の業界に限られますが、調達物流を含めたサプライチェーン全体を俯瞰して物流改革を行っている事例として、ミルクラン方式とVMI方式が挙げられます。詳細は本章に記載していますが、どちらの方式もメリットとデメリットが存在します。各社の属する業界環境、取引先と顧客との関係性、物流業界における情勢など、様々な外部要因と内部要因を加味したうえで自社にとって最適な調達物流改革を進めることが肝要になります。

さらに、商流および物流はグローバル化しており、調達物流は国内調達だけではなく海外調達にまで拡大しています。本書内では保税倉庫を活用した国際VMIのフローと注意点、海外調達における輸送モードの特徴、貿易条件のインコタームズ、海上輸送に関する必要費用項目、国際物流におけるリスクについても分かり易く解説しています。  

本章を読み進めて頂くことで調達物流管理の重要性を理解いただけると思います。社内で物流改革を求められている担当者、社内物流と販売物流だけを管理されている物流部の担当者、調達部門の担当者、他社・他業界での取り組みを知りたい方は是非、本書を手に取っていただければと存じます。

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当社の現役コンサルタント総勢7名が、昨年夏、通常のコンサルティング業務にに励みながら、約1カ月という短期間で執筆しました。

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Pen Iconこの記事の執筆者

普勝 知宏

船井総研ロジ株式会社 チーフコンサルタント

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