物流システムとは ~物流改善を進めるための実践ノウハウ(5)~

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西村 和洋

船井総研ロジ株式会社 エグゼクティブコンサルタント

製造業、小売チェーン店、通販企業などの荷主企業の物流改善(委託先企業選定、物流業務設計)、コストダウン、物流拠点戦略の策定などに従事し、特に、IT(情報システムの戦略、設計、構築など)を得意とする。ロジスティクスのコストダウンと品質アップの実現を、物流フロー改善・業務改善・情報システム改善等の多方面の視点から提案している。​​

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物流システムとは ~物流改善を進めるための実践ノウハウ(5)~
複雑化するサプライチェーンを最適化するための手段としてSCMシステムの発展が著しくなっています。(写真:PIXTA)
物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ|船井総研ロジ株式会社


ロジスティクス最適化のコンサルティング事業を展開する船井総研ロジ株式会社の物流コンサルタント7名で『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』を執筆しました。

運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約しています。

本稿では、同書から一部を抜粋しお届けします。



はじめに

グローバルサプライチェーンが浸透するにしたがい、複雑化するサプライチェーンを最適化するための手段としてSCMシステムの発展が著しくなっています。関税制度の変更、目まぐるしく変化する新興国マーケットなどに迅速に対応し、サプライヤーから最終目的地であるカスタマーにつながる一連のサプライチェーンを最適化するためにはサプライチェーン関連の物流システムを効果的に活用する必要があります。

1節から3節にてサプライチェーン関連物流システムの機能について説明し、4節から5節にて運用面での活用方法、6節にてシステム会社の選定方法をまとめました。

1.サプライチェーン関連システム

サプライチェーン関連システムとは、SCM(Supply Chain Management:サプライチェーンマネジメント)を実行するためのシステムであり、狭義ではサプライチェーン計画系システムを指します。

広義にはOS(Ordering System:受発注システム)、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)やTMS(Transport Management System:輸配送管理システム)、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)や基幹システムなどの業務管理システムを含んだものとしてとらえることができます。

SCM計画系システムは、サプライチェーンの計画およびその結果分析を担います。実行は基本的にはERP/基幹システムが担当しますが、倉庫や輸配送についてはWMSやTMSがERP/基幹システムが不得手とする実オペレーションや実績に対する分析および一部計画領域を担っています。サプライチェーン関連システムにおいてサプライチェーン計画系システムは、サプライチェーン全体の最適化に関わりますが、OS、WMS、TMSはサプライチェーンの一部分についての合理化を目的としているといえます。

2.サプライチェーン計画システム

サプライチェーン計画システムには予測系機能と最適化系機能が含まれています。予測系では需要予測、入出荷物量予測などがあり、最適化系では作業員配置、配送ルートシミュレーション、最適拠点配置などがあります。

需要予測システムでは今後想定される需要を過去の販売実績や各種経済指標などを用いて予測します。有効とされる予測モデルは数十種類あり、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用した手法も存します。

利用にあたっては自社の需要変動をより正確に予測できる予測モデルを用いる必要がありますが、複数の予測モデルで予測し、最も適合度の高いモデルを自動で選択する機能を有するシステムも存します。

3.サプライチェーン実行管理システム

サプライチェーン実行管理システムには業務の区分に合わせて、OS(受発注システム)、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)などがあります。

WMSには、入荷管理機能、出荷管理機能、在庫管理機能があります。出荷管理機能では出荷作業の各工程(引当、ピッキング、検品、梱包、納品書発行など)の管理を行います。在庫管理機能では在庫数量の管理に加え、SKU管理、ロケーション管理、ステータス管理などの機能を有しています。

TMSには、配送管理機能、動態管理機能、貨物追跡機能があります。動態管理機能はトラックに設置したGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を利用して、走行中のトラックの位置や速度を管理しています。

近年は位置や速度情報だけではなく、冷蔵/冷凍車であれば荷台の温度、急加速や急ブレーキを検知してアラートを表示するなど、輸送品質・安全品質の向上にも活用されています。

4.サプライチェーン改善につながるシステム活用とKPI管理

倉庫・物流センターで管理するKPI項目は、サービス品質KPI、作業生産性KPI、コストKPIが主要なものとなります。サービス品質を規定するKPIとしては、誤出荷率が主要なものとなります。

作業生産性KPIとしては、入荷、格納、ピッキング、検品、梱包などの工程別に標準作業時間との乖離を管理します。コストKPIについてはP/L(損益計算書)面からのコストとB/S(貸借対照表)面からの在庫回転率を見ていく必要がありますが、物流部門にて発注もしくは生産依頼を行っていない場合は在庫回転率改善活動が難しいためP/L面からのコストを主に見ていくことになります。

また、コストを按分するにあたっては、物流ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)を活用して按分することが望ましいといえます。物流ABCを活用すれば倉庫・物流センターで発生する顧客別物流費を算出することができます。

これに輸配送費を加えれば顧客別の物流費をほぼ正確に算出することができ、さらに顧客別粗利から顧客別物流費を引くことで物流費を除いた顧客別収益が算出できるため、不採算顧客を可視化することが可能となります。

5.WMSの効果的活用事例

業務改善は必ずしもシステムを併用する必要はありませんが、システムを併用することでより大きな効果を上げることができる改善方法、つまりはシステムの得意分野というものがあります。物流現場で発生する問題点の解決にシステムを活用するメリットが大きい領域は、業務効率化、業務品質向上、情報共有・公開の3領域となります。

業務効率化とは、作業手順を簡略化することと同義ですが、システムを活用する場合は「運送会社の送り状レスの仕組みを利用することで倉庫での送り状発行作業を廃止する」などの様に作業自体を廃止することが可能な場合が多くあります。

物流現場での業務品質向上とは「判断」を「作業」に置き換えることで具現化されます。「判断」は長期の習熟が必要であったり基準が人によってばらつきがあったりと、品質向上には課題の多いプロセスですが、「当該貨物の荷札を選ぶ代わりにその場で発行された荷札を取るという作業に置き換える」といったように「判断」を「作業」に置き換えることで、短期で習熟でき作業手順書にもとづくばらつきのない「作業」へ「判断」を置き換えることができます。

情報共有・公開とは、簡略化もしくは廃止することができない作業について、必要な人が自身でできるようにする(セルフサービス)ことになります。「基幹システムに送り状番号を登録することで、顧客からの配送状況の問い合わせに誰でも回答することができる」などが事例になります。

6.物流システムベンダーの選び方とシステムコンペ

システムベンダーを選択するときは、システムベンダーの事業継続力、取り扱いパッケージの規模感、ベンダータイプ(専業、総合、事業会社系)を考慮して選定することが望ましいといえます。

システムベンダーの事業継続力を重視する理由としては、物流システムは導入すれば終わりではなく継続して保守が必要であり、機能追加をする場合も導入ベンダーに依頼をする必要があるためです。

物流システムは一般的に5年から10年程度利用することから、システムベンダーの事業継続力を無視した選定はリスクがあるといえます。

システムコンペは、①応札参加企業の選定、②RFPの作成、③提案評価の順に進めてゆきます。提案評価においては求める要件とパッケージシステムの有する機能がどの程度一致しているかが重要な視点となります。要件とパッケージの比較は、フィット&ギャップともいい、次の基準で評点を付けてゆきます。

・パッケージ標準機能として有している・・・1点

・パッケージ標準機能として不足があるので、カスタマイズが必要・・・0.5点

・パッケージ標準機能に無いため新規開発(アドオン)が必要もしくは対応不可・・・0点

最後にテスト工程について触れておきます。テスト工程はシステムテスト工程と運用テスト工程に分かれます。システムテスト工程では、実機を利用して性能、信頼性、運用性、セキュリティーなどシステム全体の検証を行います。

運用テスト工程では、実機、実環境、本番データを利用した利用者による仮運用を行う中で、機能、性能、信頼性、運用性、セキュリティーなどの妥当性を確認していきます。運用テストはユーザー教育もかねて行うことが多いため、参加者はシステムを利用するすべてのユーザーが対象とすることが望ましいといえます。

すべてのユーザーゆえ専任化が困難なため通常業務と並行して実施することになりますが、残業対応となることが多くなります。繁忙期を避けてテスト計画を作成するなど、ユーザー並びに部門長、総務部門等の了解と協力を取り付けておくことが重要といえます。

さいごに

『物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ』の出版を記念したセミナーを開催いたします。経済環境の変化が激しい中、経営戦略から物流戦略にどのように落とし込んでいけばいいのか? 自社の物流コスト水準に応じた、物流戦略策定の方向性を解説するセミナーです。

これからの物流戦略(物流改革大全 出版記念セミナー)|船井総研ロジ株式会社

2021年上期の振り返りと下期に向けた注力ポイント、市場相場との比較とコストに影響する物流委託業務の実態から、コスト競争力を高めるためのヒントを船井総研ロジの物流コンサルタントが解説します。

ご興味ある方は、ぜひご参加ください。

物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ

物流改革大全 改善を進めるための実践ノウハウ|船井総研ロジ株式会社

運送コスト増大、コロナ禍、DX。ますます需要が高まる物流の効率化。改善のためにまず何をしたらよいのか。物流改善の具体的方策を集約した物流管理者必携の一冊。

当社の現役コンサルタント総勢7名が、昨年夏、通常のコンサルティング業務にに励みながら、約1カ月という短期間で執筆しました。

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西村 和洋

船井総研ロジ株式会社 エグゼクティブコンサルタント

製造業、小売チェーン店、通販企業などの荷主企業の物流改善(委託先企業選定、物流業務設計)、コストダウン、物流拠点戦略の策定などに従事し、特に、IT(情報システムの戦略、設計、構築など)を得意とする。ロジスティクスのコストダウンと品質アップの実現を、物流フロー改善・業務改善・情報システム改善等の多方面の視点から提案している。​​

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