失敗しないマテハン導入の基本構造とは|プロが解説!物流改善の実践手法

井上真希

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井上 真希

船井総研ロジ株式会社 ロジスティクスコンサルティング部
チームリーダー チーフコンサルタント

製造業・小売業・ECを中心とした荷主企業に対して、物流倉庫の改善提案・在庫の適正化・管理の提案を行っている。また、物流子会社の評価や在庫管理・分析を得意とし、分析を軸にした物流改善にも従事。近年は、サステナビリティ・ESG領域における専門的な物流コンサルティングにも取り組んでいる。​

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前回のコラムでは2023年の物流業界に変化をもたらすカギをお伝えしました。
【前回の記事】2023年物流業界は大転換期となる!

今回は人手不足が続く物流業界で導入が進むマテリアルハンドリングの活用ステップ、また、導入までに取り組むべきことを皆様にお伝えします。

マテハン導入が求められる市場環境

マテハン導入が求められる背景には物流業界の人手不足が挙げられます。厚生労働省が発表している有効求人倍率を見ると2022年3月は全産業で1.13でした。昨今人手不足が問題となっている物流業に関連するドライバー職は同月2.15と全産業の1.9倍の数値を記録しました。(図表1)

(図表1:出所:経済産業省「国内電子商取引市場規模調査」)


物流業界の人手不足にはドライバー不足が大きく提示されることが多いですが、今回はドライバーではなく、倉庫作業の求人倍率に注目します。2022年3月において1.25とドライバーと比較すると低いが、全産業と比較すると1.1倍ほど高い数値となっています。


倉庫業務では、荷下ろしや検品、ピッキング、仕訳、梱包といったさまざまな業務が発生するため、人手不足では労働時間の増加や事故などのリスクに繋がりかねません。倉庫業務における働き方改革や安全対策を強化するには、倉庫業務を省人化して、オペレーションを改善することが重要です。
倉庫・物流センターで作業者不足が発生している原因は大きく3つあります。

倉庫・物流センターで作業者不足が発生している原因

  • ① マルチテナント物流センターへの貨物集中
  • ② EC物流センターの増加
  • ③ 作業者の高齢化・女性比率の高さ

マルチテナント型センターは、大規模かつ複数企業向け物流センターであるため、多くの作業者が必要となります。1棟錬稼働するだけでも数百人、規模によっては千人を超す作業者が従事しています。2019年の新規施工は70万坪を超えて前年(2018年)実績から1.6倍に伸長しました。その要因はECの普及です。

首都圏を通過しないで全国への幹線輸送が行えるメリットから、多くのマルチテナント型センターが圏央沿いや主要な環状線上に立地しています。当然密集しているとそのエリアに多くの倉庫作業者が必要になるため作業者不足に陥り、結果的に取り合いが起こります。EC市場の拡大も倉庫作業者不足に大きく影響を及ぼしている要因の1つです。(図表2)

(図表2:出所:経済産業省「令和3年度電子商取引に関する市場調査)

毎年EC市場は拡大しており、2021年には20兆6,950億円の規模にまで到達し、EC市場規模は5年前(2016年)と比較する1.5倍ほど高い数値を記録しました。ECが拡大すれば当然物流センターで入出荷作業御を行う労働力も必要となります。

とりわけECでは多品種小ロットの取り扱いが多い為、大ロットで出荷する製造業のような作業工程は異なり、ピッキング、梱包といったパート・アルバイト従業員で行える軽作業を行う労働力が多く必要となります。EC市場の拡大は宅配会社のみならず、物流センターにおいても人員不足の要因となり、作業者の取り扱いに拍車をかけています。

マテハン導入のステップ

マテハンを導入するためには、確実な目的、シミュレーションによって、明確なゴールが見えてないと成果を得ることが難しいです。マテハン導入は、正確な段階を踏んで行っていくことで、失敗に陥るリスクを回避もしくは軽減することが可能です。マテハン導入のステップは以下の通りです。(図表3)

(図表3)

STEP1:【why】なぜ導入するのか

プライオリティとしては、まず「なぜマテハンを導入するのか?」社内で目的を明確にすることです。導入の目的を担当者という個人単位でなく会社全体で明確に定めることが重要です。これまで当社へ相談があったマテハン導入の目的をご紹介します。

  • ●庫内作業社の雇用が安定せず、出荷できないリスクに対応したい
  • ●過去に導入したマテハンが現状の業務フローに沿わなくなってきたので、見直したい
  • ●作業者を減少させることで荷役作業単位を削減したいので、荷主としてマテハンを購入し、委託会社に使用してもらいたい

なぜ導入するのかを社内で意見を出し合い、優先度と重要度に仕分けて整理しながら社内で共通の尺度を持つことが大切です。

STEP2:【where】どこに設置するのか

どの工程にマテハンを設置するのかを決めなければなりません。これには数値的な分析が必要です。まず、自社の現状を定量的な観点から正確に把握する必要があります。

STEP3:【What】何を設置するのか

マテハン導入における数値分析・現場調査で必要な視点はモノの滞留がどの工程で発生してるのかに着目することです。モノが滞留しているということは、前後工程のつなぎ方に問題があり、庫内業務に障害が出ている可能性があります。どの工程に導入するかを決定後、どの程度のスペック(能力)が適切であるか検討する必要があります。

STEP4:【When】いつ導入するか

最も失敗事例として多いのは、マテハンをいつ導入するのかを先行して決めているケースです。当然スケジュールを立てることは必須ですが、スケジュールありきのマテハン導入では最適を物流センターになることは難しいです。スケジュールを決める際には、マテハンメーカーと調整を重ねて余裕を持った組み立てが必要です。また、システム連動テストと作業者への使用説明、練習期間を長めに設定することが望ましいです。

STEP5:【How much】予算はいくらか

社内申請では、マテハン導入による費用対効果や償却費用を提示する必要があるかと思います。金額の試算は論理的根拠に基づいた算出が必須であり、いくつかの挿入パターンに応じてシミュレーションしておくことが望ましいです。コストシミュレーションは製品機器・システム開発費用といった導入費用とメンテナンス費用等を含めたランニングコストに区別して行う必要がある。マテハンメーカーに全て設計を委ねて、算出したコストシミュレーションの数値だけが社内で飛び交うことにならないよう注意が必要です。

マテハン導入には高度で特別なステップは必要ありません。本稿で紹介したマテハン導入の基本構造が各段階でしっかりと固められているかが、重要です。

次回につづく..

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