2022年物流業界国内市況と2023年の課題|プロが解説!物流改善の実践手法
前回のコラムでは”効率的な物流管理とシステムの活用”についてお伝えしました。
【前回の記事】効率的な物流管理とシステムの活用
今回は、今年の物流業界を振り返り、2022年国内市況と今後の課題についてお伝えします。
目次
物量は2019年対比90%
物流業界は新型コロナウイルス感染症によって大きな打撃を受けた業界です。国土交通省が公表している貨物流動量はコロナ前年を100とすると、2020年は20%も落ち込みました。翌年の2021年は10%程度回復し総量42.5億トンです。今年上期の物量は、ほぼ前年並みでしかないため、いまだコロナ前と比較すると90%程度の物量で推移してします。
ドライバー不足問題は解決していない
2017年ぐらいからドライバー不足が陸運業界の問題として顕在化しました。統計的にはもっと前から減少傾向がみられていましたが、大手宅配会社の労働争議が社会問題として取り出され、それまで鳴りを潜めていた陸運各社から一気に“ドライバー不足”は深刻な課題として噴出しました。それから運賃市況は急展開を迎えることになります。
長らく、荷主が圧倒的に優位な立場で運賃交渉を行ってきた物流業界でしたが、形勢は逆転します。今思えば、筆者は2017年に勃発した、くだんの労働争議が物流業界の転換点だと思います。
では、物流業界はなぜドライバー不足に陥ってしまったのでしょうか。
その答えは、トラックドライバーは全産業平均と比較すると労働時間は20%上回り、平均所得は20%下回っていることが大きな原因のひとつだと捉えています。トラックドライバーは長時間労働のわりに、荷主企業の皆さんが思っている以上に給料が少ない実態です。
大型車から小型車までの平均年収は430万円。地場と言われる域内業務の場合、朝6時前後に家を出て帰宅するのは18時から20時ぐらいが一般的です。繁忙期になると22時を過ぎることもあり得ます。
中長距離輸送となると、1日中ほぼトラックの中で過ごします。拘束時間は16時間を超過することもありえます。法令で定められている休息期間継続8時間も守られていない場合もあります。
このような環境下で、多様化した職業群の中で現代の若者はトラックドライバー職へ就業しない傾向が続いています。ドライバー不足は未だ続いていますが、前述の通りコロナ時代は輸送貨物量が落ちているため、荷量と輸送力の需給バランスが輸送サイドへ不利益な状況となっています。なので、物流事業者は値上げも条件改定も言いだし辛い環境です。
令和時代もドライバー不足問題は何ら解決していない事実を理解して頂きたいと思います。
ECは引き続き絶好調
EC市場は相変わらず続伸しています。
2021年のEC市場は20.7兆円(107.4%)とコロナ禍においても伸長しています。今年度は同程度以上の水準で成長していると思われます。そんなにECが伸びているのだから、物流業界もその恩恵があるでしょう?とよく言われます。たしかに、EC物流センター運営(オペレーション)に関わる市況は活発ですね。
- ・物流センター・倉庫などの物件(特に不動産ファンドが手掛ける大型のマルチテナント型)
- ・WMSなどの情報システム
- ・物流センター運営(オペレーション)
- ・マテハン(納期はかなり遅れている)
- ・人材派遣ビジネス
そして、我々物流コンサルティング業もおかげさまで上記の支援を求められた引き合いが多数あります。
一方、輸送はどうか?
まず一般貨物輸送は、メーカーから卸売業のセンター・倉庫への輸送と卸売業からEC物流センターへの輸送が大盛況となっているようです。しかし、ラストワンマイルと言われるエンドユーザーである家庭や企業への配送は、ほぼ大手宅配会社とAmazon自社ネットワークの独占状態となっています。ECにおける宅配市場は約1兆円規模ですが、業務用トラック(いわゆる緑ナンバー)を利用しているのは宅配大手3社(ヤマト・佐川・郵便)の自社便と軽貨物事業者です。そのため、ラストワンマイル市場は大盛況です。この分野は出前などのフードデリバリーも重なり、人材争奪戦を繰り広げています。
近年では、「ギグワーカー」と言われる、フリーランスのドライバーも存在します。彼らは、軽四輪車両を駆使して日中は宅配を行い、夜間はフードデリバリー。土日はミニ引っ越しなどを引き請けて休みなく働いている人も少なくはありません。短期間、身を粉にして働いてその後の資金を一気に貯めている若者もいます。
令和時代は、プロトラックドライバーと宅配ギグワーカーの人材争奪戦がうかがえます。
原油高が中小運送事業者の経営直撃
運送事業者にとって、燃料コストは経営に直結する重要なコストドライバーです。その燃料価格が一昨年よりずっと上昇しています。円安と原油高で輸入商品である燃料は、危機的なダブルパンチに見舞われています。数値的な影響は値上がり前から比べると約130%アップ。コロナ禍の2020年12月から値上げトレンドが始まりました。(図表1)
月別 軽油価格トレンド
調査期間:2020年11月-2022年11月
じわりじわりと値上がりし、再ピークは本年7月ですが、世界情勢(紛争)やOPECプラスなどの減産施策によっては再上昇する可能性はあります。
中小運送会社の事例
ある中小運送業の事例をお伝えします。関西~関東の往復輸送を手掛けるこの運送会社は、1台平均で180万円ぐらいの運送売上があります。この中で約40万円が燃料コスト(22%)。値上がり前は約28万円でした。1カ月になんと12万円もコストが上昇しました。年間にすると144万円になります。約50台を保有するこの運送会社は、年間7,200万円も燃料コストが上昇したことになります。
これでは、中小運送事業者の経営は逼迫するのも当然です。 荷主企業としては、この実態を理解し燃料サーチャージ制の導入などを真剣に考えて、早期に対策を打たないと、最悪の事態もあり得ることを想定してください。
2024年問題の対応二極化
2024年問題の対応については、ほぼ二極化となっています。既に①対策済②対策を実行中③未着手と3段階に分けて考えると、大手陸運業は①及び②。中堅は①②と一部③。中小零細陸運業は②と③だが、中長距離輸送を専門としている事業者は大多数が③と見ています。以下当社が分析した図表2を参照。
第四階層である上場物流企業や特積み(路線会社)・物流子会社は既に80%以上が対応済です。非上場の特積み会社の一部が対応中ですが、来年度には仕上がるとみています。
第三階層である地場大手・中堅物流企業は約60%が対応済。一部中長距離の部門や専門会社ではまだ課題が残っていますが、なんとか2023年度中には対応できるとみています。
第二階層の中小地場運送業は、約40%程度の対応。地場なので、300㎞を超える輸配送はあまりなく、比較的に時間管理は図りやすいでしょう。メーカーの配送を手掛けている企業は、1日の拘束時間が長くても、土日祝日が休日のため調整が可能です。
しかし、CVS(コンビニ)やスーパー、ファストフード店などの店舗配送便は365日稼働が多く、かなりタイトなスケジュールで運行をしています。この運行スケジュールを変えるには、自社だけの自助努力では難しく、荷主が一体となってコースや店舗などの配車計画の見直しを図らないと難しいでしょう。また宵積み体制で片道100㎞以上を担当地域としたルート配送も同様に改善が必要です。
最後に第一階層の零細地場・中小中長距離輸送企業がかんり深耕な問題です。この層は、自社では歯が立たない領域が多いものです。運行回数を削減すると売上に直結し、経営が悪化します。運送売上(運収)を落としてしまうと、現行のドライバー賃金を維持できません。といって、残業削減を行って運収が減った分、ドライバーの賃金を下げてしまうと、たちどころにドライバーは散ってしまいます(退職)。
この層の中小零細運送業は、最低賃金+歩合という給料体系が大半です。たくさん乗務してたくさん運んで、運収が上がればドライバーの給料も上がります。もしくは、そのやり方で現行の賃金が維持されています。
賃金とは、本来時間に対して労働対価が報酬として支払われるものですが、運送業界では長く歩合給もしくは、最低賃金+歩合の賃金体系が一般的です。ドライバーの労働時間(残業時間)を削減することは、運収を下げることになります。なので、運送事業者は運賃を上げないと2024年の総残業時間規制を守ることは極めて困難な事態です。この低運賃と長時間労働が続くといずれ破綻します。
さいごに
荷主企業や元請け物流業はこの実情を十分に理解して、サステナブルな社会(持続可能な社会)における健全な取引関係を構築して欲しいと切願します。
今年も大変お世話になりました。
2023年4月から60時間を超える残業の5割増しが適用されます。そして本丸の2024年4月から残業の総時間規制です。荷主も物流会社も、来年は忙しい一年になりそうですね。
次号へ続く…
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