物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~G(ガバナンス)編~
これまでE(環境)・S(社会)の観点で物流業界(もしくは荷主企業の物流部門)においてESGの取り組みが進んでいない理由とその解決策をお伝えしてきました。今回はESGの「G(ガバナンス)」にフォーカスして解説いたします。
➡【前回の記事】物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~S(社会)後編~
目次
物流業界において取り組むべきガバナンスの課題はなにか
物流業界において、ESGのうち取り組むべき「G(ガバナンス)」の課題の例として、危機管理体制の構築が挙げられます。
危機管理体制の構築とは、地震・台風などの自然災害や感染症発生時の物流停止リスクや、顧客情報の漏洩、物流事故、粉飾決算など、企業の持続的な経営の脅威となるリスクを未然に防ぐための取り組みを指します。
具体的には以下のような取り組みが挙げられます。
- ・水災害などの自然災害や感染症発生時の現場運営および従業員の行動計画策定
- ・従業員に対する各種研修(コンプライアンス研修、サイバーセキュリティ研修、交通安全研修など)
- ・コンプライアンス上問題がある作業や契約の見直し(例.契約にないドライバーの付帯作業)
- ・企業経営の透明性を担保する情報開示
では、なぜこうした課題への取り組みが進まないのでしょうか。その理由は企業における優先順位の違いにあると考えられます。
物流企業(もしくは荷主企業の物流部)では日々解決すべき課題が山積しています。多くの場合、着手するためのリソース(人・時間・お金)が不足しているため、企業経営から見た重要度・緊急度によって課題の優先順位づけが行われます。
課題の優先順位づけ
サイバー攻撃による顧客の情報漏洩を例とすると、サイバーセキュリティに対する優先順位は上場企業と未上場企業、中小企業と大企業で異なります。
サイバー攻撃は深刻な経済損失を与える可能性があります。どの企業にも起こりうるコンプライアンス上のリスクですが、物流会社で日々発生する課題と異なるのは、「いつ・どこで・どのように発生するか分からない」という点です。日本の物流企業は99%が中小企業と言われています(注1)。
中小の物流企業ではいつ発生するか分からないサイバー攻撃より、ドライバー離れひいては会社経営に直結するドライバーの給料未払い問題(ESGでいうS(社会))のほうがまず優先的に解決すべき課題として判断されます。そのため、サイバーセキュリティはドライバー給与支払いのような直近の課題を解決したあとに取り組もう、となることが多いと考えられます。
対して、大手物流企業では多くの場合、ドライバーへの給与支払いは問題なく実施できます。顧客の情報漏洩は株価や投資パフォーマンスに影響を与えます。したがって、会社の価値を損なう可能性のあるサイバー攻撃を今解決すべき課題として取り組む余裕があります。そのため大手物流企業ではサイバーセキュリティ研修など、従業員への教育に投資する可能性が高く、ガバナンスへの取り組みが進みやすいといえます。
このように、企業が置かれている状況によって課題の優先順位が異なり、中小企業の多い日本の物流業界ではガバナンスの取り組みが進みにくいと考えられます。
本記事でお伝えしたように企業が置かれている状況によってガバナンスへの取り組みは進捗度合いが異なります。単純な解決というのは簡単ではありませんが、コンプライアンスリスクを正しく認識し、各企業が自社の経営状況や経営課題の優先順位を考慮しつつ進めていく必要があります。
まとめ
E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)の観点において、物流業界でESG経営が進まない理由とその解決の方向性についてお伝えしました。これまでご紹介した通り、物流業界においてESG経営を推進するには、業界構造や他社との競争といった外部要因が大きく影響します。しかし本記事をきっかけに自社で取り組むことのできる課題を整理し、ESGロジスティクス推進のきっかけとしていただければ幸いです。
<参考文献>
注1:「日本のトラック輸送産業 現状と課題2022」/ 公益社団法人 全日本トラック協会
➡【前回の記事】物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~S(社会)後編~
次回につづく..
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参考文献
注1:国土交通省「自動車事故報告規則第二条」
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326M50000800104)
注2:帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2022年)」
(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220813.pdf)
注3:経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html)