物流業界における女性登用の実態と今後の展開

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田代 三紀子

船井総研ロジ株式会社 執行役員 兼 コンサルティング本部 副本部長

製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い、物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして、脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。

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女性の活躍が注目されております昨今、物流業界の場合、女性登用の実態はどのような状況になっているのでしょうか?今回、弊社独自で実施しました「物流業界における女性登用に関する調査」より、女性登用の実態、そこから見える問題点・課題点、今後の物流業界における女性社員登用の方向性について述べていきます。

1.はじめに

「物流業界で、女性の営業職は珍しいですね。」
最近では少なくなりましたが、物流業界で営業職として活躍する女性が初めて訪問するお客様から、このようなフレーズを言われることが度々あります。かつて物流企業で営業職に携わっていた私自身も、同じような経験があります。この言葉を聞くと、やはり物流業界で女性が活躍するイメージは、世間に浸透していないことを、身を持って感じます。

そもそも物流業界において女性が少ないのは、力仕事であり時間が不規則といった理由から男性中心の職場となっていました。しかし、昨今では消費の主導権を握る女性の社会進出が加速し、消費者目線で新たな商品やサービスを打ち出すことは、荷主企業だけでなく物流業界においても必要となっています。よって、今後さらに社会にとって女性の登用が注目されます。

今回、当社独自で実施しました「物流業界における女性登用に関する調査」より、物流業界の女性登用実態、問題点・課題点、今後の物流業界における女性社員登用の方向性について述べていきます。

2.物流業界における女性社員登用の実態

(1)全産業の中で物流業界における女性社員比率は最低ランク

まず、物流業界において女性社員の就業者数はどのくらいいるのでしょうか。総務省が発表している「労働力調査」より、産業別男女の就業者比率を見ると、「建設業」(14.8%)に次いで、「運輸業・郵便業」(18.6%)は女性比率が低い産業となっております。
女性が少ない業界において、徐々に女性社員の登用が進み、人数も増えてきておりますが、前述のとおり、過去の経緯で物流業界は男性中心であったことから、依然として男性比率が高いのが現状です。 

(2)物流企業における女性従業員の比率は…?

当社独自で物流企業の方々へ「物流企業における女性登用に関する調査」を実施しました(※1)。その調査においても、従業員に占める女性社員の比率が21~50%と答えた企業が最も多い結果(40.4%)となっております。(下記集計結果 1.女性社員比率 参照)しかし、従業員に占める女性社員の比率が50%超であると答えた方は、7.0%いました。それらの企業は、アパレル、日雑品といった商材に特化した物流業務を行っている物流企業でした。取扱商材(一般消費者に身近なものであるかどうか)や荷姿(重量物ではなく、手で持ち運べるサイズおよび重量)は従業員における男女比率を左右する要因の一つでもあります。

(3)物流企業は、女性社員を積極的に登用している

そもそも、物流企業は女性社員の登用に対してどのように考えているのでしょうか。(下記グラフ 2.女性社員の登用状況参照)
女性社員を「積極的に登用している」と答えた方は全体の約半数であることが分かりました。しかし、「わからない」と答えた方が約30%いることも分かりました。これは企業としての活動状況が従業員へ浸透していない、または興味がないといったことが考えられます。会社全体としての取り組みを成功させるためには、トップダウンで従業員へ周知させ共通認識を持つことから始まります。

(4)「アイデアの提案」「業務改善」「効率化」を期待

それでは、女性社員を積極的に登用する理由はなんでしょうか。女性社員を「積極的に登用している」と回答された方を対象に選択方式で調査を行ったところ、以下の結果となりました。(下記グラフ 3.女性社員を積極的に登用する理由 参照)

選択肢の中で「③女性ならではのアイデア提案による業務改善・効率化を期待している」(26.7%)の回答が最も多い結果となりました。これまで長く男性社会であった物流業界において、男性のみのアイデアや発想だけでは、今後の市場の変化に対応するには限界がきていると感じているのではないでしょうか。世界でも、日本においても、男女の人口の比率は、ほぼ50%ずつの構成比となっております。男性目線になりがちなところに、女性の違った目線を入れることにより、同業他社との差別化、新しいサービスの立案、職場環境の改善等、これまで注力できていなかった面を強化することができるのではないでしょうか。一人暮らしの女性が自宅で荷物を受け取る際、同性である女性宅配員に届けてもらったほうが安心する、といった意見があるように女性だからこそできる、物流のサービスもあります。

市場の流れの変化も女性が活躍の場を広げるチャンスにもなります。EC市場が急速に成長する中、大型物流施設が相次いで竣工しております。その中で、業務を行う人はパート社員の女性が多くを占めております。その女性たちを束ねる責任者は男性ではなく、女性の方が向いているかもしれません。男性の責任者ですと、ひいきにしたつもりはなくても、特定の人と少し仲良くしただけで、「あの人だけ特別にしている」と他の方から思われてしまったことが、実際にありました。女性が多くいる場所には、女性の責任者を配置し管理することによって、組織力を高めることにもつながります。

(5)体力勝負といわれる物流業界で、女性が働くことは難しいのか?

次に女性社員を「積極的に登用していない」と答えた物流企業において、その理由を調査しましたところ、以下の回答となりました。(下記グラフ 4.女性社員を積極的に登用していない理由について 参照)

女性社員を積極的に登用していない理由として、「職場環境」(46.2%)が圧倒的に多いことが分かりました。具体的には重量物の取扱があり、体力的に厳しいといった意見です。体力面においては、どうしても男女の差がでてしまうところです。確かに普通に考えると女性より男性のほうが、力があると思われていますが、男性だからといって必ずしも重量物を取り扱うことが得意かといわれると、個人の差もあるためそうであるとは限りません。そこに、無理に女性を投入するのではなく、まずは重量物を取り扱う環境を整えることが重要です。今ある環境や設備で対応できる人のみに仕事を任せていると、特定の人に業務負荷がかかり、業務が属人的になってしまいます。また、今後働き盛りで、体力もあり、企業にとって都合のよい人材が継続的に確保できるといった保障もありません。女性の育児休暇取得のみならず、働き盛り世代においては、高齢化社会に伴い自分や配偶者の親、または近くに身内がいない親戚等の介護のため介護休暇を取得し、職場を長期不在にしてしまうこともあります。最悪の場合、職を辞する可能性もあります。

これからは性別・年齢・国籍問わず幅広い方も活躍できる職場を企業側が率先して整備する必要があります。整備をするためには、当然ながらコストがかかります。しかし、そのコストを惜しんで人手不足に悩むか、最初の投資は今後の安定した人材確保のためと考えるのかは、企業によって考えは様々でしょう。これまでの考え、やり方を変えるのは非常に難しいことですが、時代の流れに合わせて柔軟に対応していく力も必要になってきます。
回答結果の「その他」として、“男女問わず成果主義で平等に評価をするため、女性のみ積極登用はしていない”といった意見がありました。優秀な人材を確保したいということであれば、男女の区別をする必要はないということです。

3.女性社員を登用するための企業側の心構えとは?

人手不足が騒がれる中、これまでと同じような採用計画では、企業における人材の先細りは否めません。それでは、男性だけでなく女性も登用するためには、企業側はどのようなアクションを起こしたらよいのでしょうか。

まずは、企業として女性を積極的に採用していることをアピールすることです。物流業界においては、特に男性をターゲットとして採用しているわけではないのですが、働いている人のうち男性が圧倒的に多く、業務内容が男性目線になりがちです。そうすると、必然的に採用情報としてホームページに掲載されている社員紹介の写真は男性ばかり。これでは、女性が物流の仕事に興味をもっていても、男性ばかりの職場ということで、応募をためらってしまうかもしれません。結果、物流業界という土俵に女性があがってこないのです。就職活動をするうえで重視する点として、自分の興味ある企業や業界を調べることはもちろん行いますが、どのくらいの女性が働いていて、実際にその企業において女性が活躍しているか、ということも女性が企業を選ぶうえでの重要な要素の一つとなっています。

また、女性社員がたくさん在席し活躍していても、その情報を世の中に発信しなければ、誰も興味を持ってくれません。情報発信するツールとして、自社のホームページを有効活用する必要があります。物流企業において、トップページの情報以外で、ホームページを頻繁に更新している企業はあまり見受けられません。インターネットで何でも情報が入る世の中において、検索エンジンで調べると、たくさんの情報を見ることができます。就職先として物流業界に興味を持っている女性に対して、たくさんの情報の中から、自社のホームページにうまく誘導させるような仕組み作りも必要になってきます。

4.サービスを商品とする「物流」は、最後の襷を受け取ったランナー

目に見えないサービスである「物流」を提供するにあたり、一番大事なのは「人」の存在です。生産者(メーカー)は商品を企画するにあたりアイデアを出し、そのアイデアをもとに研究開発部門が試行錯誤を重ね、商品化を進めます。パッケージのデザインをし、商品が完成すると、営業の方がお客様へ売り込みます。成約いただいたお客様からの注文により、最後にお客様のもとへ商品をお届けする役割を担うのは物流です。商品をお客様へお届けするまでに携わっている人の苦労や時間を物流事業者が背負っています。消費者がその商品に抱く印象は物流を担当している人の印象で決まります。そのようなことを踏まえたうえで、物流業界において男女を意識する必要はあるのでしょうか。

5.最後に

スポーツの世界において、男女でハンディキャップが付与されるように、性別による区別というのは必要です。しかし、その区別を過剰に意識したり、差別をしたり、言動が変わってしまうということが問題なのです。性別による違いを認め、お互いの良い面をうまく引き出すことで、相乗効果を発揮していければよいのではないでしょうか。

※1:「物流企業における女性登用に関する調査」
<概要>
集計期間:2016年1月~2016年10月
回答人数:114名
アンケート対象者:物流企業の担当者

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田代 三紀子

船井総研ロジ株式会社 執行役員 兼 コンサルティング本部 副本部長

製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い、物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして、脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。

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