物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~S(社会)前編~

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朝比奈 実央

船井総研ロジ株式会社
ロジスティクスコンサルティング部

小売業や卸売業、製造業(自動車、化学品、機械など)といった幅広い分野におけるコンサルティングに従事。特に物流コスト適正化や現場改善、物流リスク評価などを得意としている。

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物流業界でも「ESG経営」に取り組むニーズが高まっていますが、他業界に比べると、実行できている企業はあまり多くないようです。今回は、ESGの「S(社会)」の部分にフォーカスして、 物流業界でESG経営が進まない理由をご紹介します。

➡【前回の記事】物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~E(環境)編~

物流業界において取り組むべき「S(社会)」の課題とはなにか

物流業界において、ESGのうち「S(社会)」の取り組み課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

「E(環境)」は地球温暖化対策としてのCO2排出量削減を筆頭に、取り組むべき方向性が分かりやすい一方、「S(社会)」や「G(ガバナンス)」は「E(環境)」ほどのイメージがしづらいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、物流業界において取り組むべき「S(社会)」について、2つのテーマをピックアップしてお伝えいたします。

1. 運輸・労働安全

まず物流業界において取り組むべき「S(社会)」の1つとして、労働安全衛生が挙げられます。労働安全衛生とは、言い換えれば「働きやすい環境づくり」です。

例えば、ドライバー・倉庫作業員に手積み・手降ろし作業といった負担の大きい作業を強要していないか、集荷先・納品先の都合により一方的な待機が発生していないかなど、荷主の都合で労働者に過度な負担がかかるような業務実態があれば、負担軽減の取り組みをしていくことが求められます。

次に、危険のない、安心安全な職場環境が整備されていることも重要となります。
真夏の暑い倉庫、真冬の極寒倉庫での作業は作業者の健康を害する可能性があり、作業の生産性にも影響を及ぼすため、改善しなければなりません。

そのほかにも、事故が発生しやすい箇所の把握と対策を行うことで、労働者の事故防止に取り組む必要があります。

最後に、ドライバーの労働環境改善も労働安全衛生に含まれます。

長距離トラックのドライバーは拘束時間が長く過酷な労働環境になるおそれがあります。ドライバーの拘束時間を短縮するために長距離輸送の削減を目的とした拠点配置の検討や、輸送モードの見直しなど、2024年問題に向けてドライバーの負担軽減の取り組みを進める必要があります。こうした物流業界に携わる労働者の職場環境を安全・健全に保つことがESGへの取り組みのひとつであると言えるでしょう。

2. ダイバーシティ

次に取り組むべき課題として、ダイバーシティ経営が挙げられます。「多様な人材を生かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供する」という経済産業省の定義(注3)にもある通り、企業におけるダイバーシティ経営では、性別や年齢、国籍等関係なく、多様な人材が活躍できる環境を整えることが求められています。

今回はダイバーシティ経営の一環として女性登用を例として挙げると、物流業界 では他業界と比較しても女性管理職が少ないと言われています。

帝国データバンクが発表している「女性登用に関する企業の意識調査(2022年度)」によると、物流業界における管理職に占める女性の割合は6.9%となっており、業界全体平均の9.4%とより低い結果となっています。また、建設業界に次いで低い結果となっています(図1、注2)

(図1:帝国データバンク資料より船井総研ロジ作成)

ここまでが物流業界でESG経営が進まない理由の「S(社会)」における課題です。
次号では、なぜ上記に関するESG経営が進まないのか。それぞれの課題について、理由と解決策を解説していきます。

参考文献

注1:国土交通省「自動車事故報告規則第二条」
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326M50000800104)
注2:帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2022年)」
(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220813.pdf)
注3:経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html)

【前回の記事】物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~E(環境)編~

次回につづく..

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