物流戦略を成功に導く拠点設計とは|プロが解説!物流改善の実践手法

井上真希

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井上 真希

船井総研ロジ株式会社 ロジスティクスコンサルティング部
チームリーダー チーフコンサルタント

製造業・小売業・ECを中心とした荷主企業に対して、物流倉庫の改善提案・在庫の適正化・管理の提案を行っている。また、物流子会社の評価や在庫管理・分析を得意とし、分析を軸にした物流改善にも従事。近年は、サステナビリティ・ESG領域における専門的な物流コンサルティングにも取り組んでいる。​

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前号に続けて、物流マネジネントの在り方をお伝えします。
今回の着眼点は、物流戦略を成功に導くための「拠点設計」です。
【前回の記事】物流管理による業界習慣の大転換

経営戦略における物流戦略の関係性

経営戦略と物流戦略は密に関係しています。

経営戦略の中で物流戦略のマーケティングの方向性をバックアップするためのものとして位置付けられています。特に得意先への納品サービス及び商品の品揃えの変化は、自社の物流に大きく影響を与えます。

物流は後方支援とよく言われておりますが、販売条件が成立した情報をもとに動き出します。営業活動時に販売条件として取り決める「リードタイム」「納品ロット」「受注締め時間」「納品付帯作業」などの納品サービスは、販売と物流をまさに直結させています。

物流に対する消費者ニーズは下記4つの条件が挙げられます。

  • ・できるだけ早く→最短のリードタイム
  • ・欲しいタイミングに→複数回
  • ・欲しい分だけ→最小限の量
  • ・欲しい状態で→品質が良い


その一方で商品を売る側は、できるだけ効率よく納品したいと考えており、売る側ニーズは下記4つが挙げられます。

  • ・発注から納品先までの時間に余裕がある→長いリードタイム
  • ・できるだけ少ない回数→最小限の配送回数
  • ・できるだけ大量→最小限の配送回数
  • ・できる限り納品時の荷姿で→バラでなく、ケース配送


物流の効率だけを考慮すると消費者ニーズと相反するサービスを提供することになります。双方の相反するニーズをサービスとして実現するのが戦略となります。

昨今では、物流会社にとって『扱いづらい商品』『運びづらい荷物』は敬遠されるだけでなく、高単価を設定されたり、追加料金を支払っても運んでもらえなかったりと「配送拒否」される傾向が強くなっています。現在では「いかに安定的に納品先まで荷物を届けることができるか」を重視する荷主企業が増えています。

こういった観点から、納品先までの安定した配送を確保する上で課題となるのは『荷姿』や『運送形態』の他に、『配送距離』が挙げられます。長距離輸送は物流会社にとって運行管理上のリスクも大きいため、敬遠されやすい傾向です。さらに、配送単価(運賃)の値上げ要請は続くことが予想されますし、同時に配送リードタイムの維持・短縮、遅配や残貨の排除といった配送の品質が厳しく求められます。

また、ECの需要が高まり、BtoCでは上記のような要求はさらに強く、配送時間指定や高度な梱包品質が求められます。こういった外部環境の変化やプロダクト・事業のライフサイクルを把握し、自社の物流戦略を柔軟に変化させる視点を持つことが重要です。

現状と将来目標のギャップを明確にする

物流戦略立案において、もう一つ重要なことは、将来目標と現状とのギャップを正確に把握しておくことです。現行の物流体制をもとに物流戦略を計画しても数年で破綻しては意味を成しません。経営目標から物流戦略に求められるキャパシティを算出して、現状のキャパシティとのギャップを数値で把握しておくことが肝心です。正確な数値で把握することで現状に対して補完すべきキャパシティ能力値が明確になり、やるべきことが一気に明確になります。(図表1)

(図表1)

拠点計画の作り方

物流拠点計画策定のステップは大きく5つに区分して検討します。拠点計画の5ステップは下記の通りとなります。(図表2)

STEP1:顧客分布の分析

物流を考えるときには、「どこにどれだけ届けられるのか」から考えます。出荷実績データをもとに地図上にマッピングすると納品先の偏りが視覚的に理解できるようになります。販売は常に変化を繰り返しています。マッピングすることで、意外な偏りが見えるかもしれません。

STEP2:顧客に提供する物流サービスの決定

現行サービスを棚卸しし、得意先のニーズに沿ったサービスを明確にして、不要なサービスを止めることで、物流戦略の幅を広げることができます。

「競争優位になる本当に必要な物流サービス」「過去からの取引習慣で続けているサービス」は何かを精査する必要があります。

STEP3:配送手段の決定

配送手段を決定する視点は、「受注締め時間から得意先納品までの制約時間」「1件当たりの納品物量(ケース/件・kg/件)」の2つです。配送便によってリードタイムやコストが大きく異なるため、1件当たりの納品物量は重要なポイントとなります。

STEP4:物流拠点設置エリア、規模、機能の決定

物流拠点を設置するエリアは基本的に納品先に近ければ近いほどコストパフォーマンスが高くなります。しかし、物件は何処にでもあるわけではありませんし、都市部近郊になればなるほど、賃料は高くなります。カバーエリアに必要な拠点能力を図った上で規模を決定する必要があります。

STEP5:物流拠点内の作業設計

物流拠点に求める入出荷や在庫保管能力が決定されるとそれを実行するための保管と倉庫内作業の具体的な設計が可能になります。

(図表2)

物流拠点設計は各企業の経営戦略・物流戦略・販売戦略に基づくため、コストとリードタイム観点から「拠点集約」「拠点分散」のそれぞれのメリットとデメリットを整理する必要があります。また昨今では拠点を選定するにあたって人材確保の視点も重要になっています。外部環境の変化を捉え、自社の「拠点設計」を講じなければなりません。

次号へ続く…

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