物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~S(社会)後編~

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朝比奈 実央

船井総研ロジ株式会社
ロジスティクスコンサルティング部

小売業や卸売業、製造業(自動車、化学品、機械など)といった幅広い分野におけるコンサルティングに従事。特に物流コスト適正化や現場改善、物流リスク評価などを得意としている。

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前回は物流業界でESG経営が進まない理由の「S(社会)」における課題をお伝えしました。
今回は、なぜ物流業界でESG経営が進まないのか。それぞれの課題について、理由と解決策を解説していきます。

➡【前回の記事】物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~S(社会)前編~

コンプライアンス面での理解不足

まず、運輸・労働安全の課題が解決しにくい背景には、荷主側のコンプライアンス面での理解・認識が不足していることが挙げられます。例えば、2024年問題への対応です。

物流業界ではドライバーの長時間労働が常態化していることを受け、2024年の労働基準法の改正によってドライバーの時間外労働が年間960時間(月あたり平均80時間)に制限されます。この法律に違反した場合、物流企業には6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます。

2024年以降、自社の商品を運べなくなるリスクがあるため、荷主企業も対策を講じる必要があります。

例えば、長距離輸送を削減する拠点再配置、待機や手積み手降ろしなどドライバーの長時間労働の要因のひとつとなっている付帯作業改善です。

しかし、荷主のコンプライアンス意識が十分でなく、既存の商習慣がそのまま継続してしまっているケースが多く見受けられます。

このような背景があるため運輸・労働安全を推進するには、物流企業が管理者に運行管理やドライバーへの安全指導を行うだけでなく、荷主企業から物流企業へ指示している内容がドライバーや作業者の負担・リスク・コンプライアンスに影響を及ぼす要素がないか、客観的に見ていく必要があります。

物流にかかわる荷主企業・物流企業双方の協力があって、実現にいたるのです。

女性採用比率の低さ

次に、女性管理職が少ない一因には、女性採用比率の低さ(関連コラム「物流業界における女性登用の実態と今後の展開」)が挙げられます。力仕事であり男性中心の職場環境であることから、そもそも物流業界は建設業界に次いで女性社員登用の比率が低い業界と言われています。

物流企業においては、女性のキャリアパスを作成したり、ロールモデルを提示したりすることで、自社で女性がどのように活躍できるのか社内外にアピールし、女性管理職を含め、多様な人材が活躍できる環境を整えていく必要があります。

ダイバーシティの実現

上記では女性を例として挙げましたが、物流現場においては女性に限らず、年齢・国籍などのバックグラウンドの異なる様々な立場の人が活躍できる環境を整えていくことが求められています。

例えば、作業者の区別なくできる業務を構築するため、パワースーツやピッキングロボットなど、作業者の負荷軽減および省人化するための機器の導入が進んでいます。

このような機器の導入を検討する際は、業務効率や投資対効果などの観点だけではなく、ダイバーシティ経営に資する設備投資になりうるかという点も考慮していく必要があるのではないでしょうか。

まとめ

これまでご紹介してきたように、ESGとは全く新しい概念というわけではなく、具体的にやるべきことを整理していくと今まで各企業で取り組んできたことと共通点が多いことが分かります。

荷主企業の物流部もしくは物流企業では、特にドライバーの労働環境など、「S(社会)」に関する課題の優先順位は低くなってしまう傾向にあるというのが実態です。しかし、将来的にドライバーの確保ができなければ物流会社の存続は困難であることは間違いありません。

ESGに取り組もうと考えている企業は、自社物流の現状を今回お伝えした観点から振り返り、自社の立ち位置や今後の進め方について検討していただければと思います。

【前回の記事】物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策~S(社会)前編~

次回につづく..

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参考文献

注1:国土交通省「自動車事故報告規則第二条」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326M50000800104
注2:帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2022年)」
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220813.pdf
注3:経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html

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朝比奈 実央

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