ワクチン輸送の実態と課題

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普勝 知宏

船井総研ロジ株式会社 ロジスティクスコンサルティング部
チームリーダー チーフコンサルタント

製造業や通販企業などの荷主企業に対し物流の改善提案を行い、物流拠点の見直しや物流業務委託先の再選定(物流コンペ)を進めてきた。物流拠点の見直しでは、コストやリードタイムだけでなく拠点BCP等のリスクも加味した提案を行っている。
また、物流業務委託先選定ではRFPの作成支援・コンペ事務局などを実行し、定量・定性両面での物流会社評価を行う。現在は物流現場の作業生産性向上や保管効率向上、5Sの導入による倉庫管理の改善に注力しており、各社の物流現場に合わせた改善手法の提供を行っている。​​

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本稿ではワクチン輸送の概要を理解するとともに輸送における課題を示していきます。

ワクチンの温度管理と厚生労働省の対応

厚生労働省は医療機関で冷凍保管が必要なワクチンを適正に保管できるように-75℃のディープフリーザーを3,000台、-20℃のディープフリーザーを7,500台確保すると発表しています。

また、医療機関では、ディープフリーザーでの保管の他にー75℃程度の超低温での保管を行うために、保冷ボックスとドライアイスを用いた保管が可能となっています。その際に必要となるドライアイスを国が一括で調達し、医療機関等に供給することを検討しています。

厚生労働省「第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会 資料」p.18
厚生労働省「第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会 資料」p.18

ワクチン供給企業について

日本政府と正式に契約を締結し、ワクチン供給が決まっている企業は下記3社です。(2021年1月末時点)

1.ファイザー社(米国)
2.モデルナ社(米国)+ 武田薬品工業(日)
3.アストラゼネカ社(英国)

ファイザー製のワクチンが最も早く接種を開始しました。2021年2月12日に日本国内に輸入され、同月14日の承認を経て各自治体に輸送されました(厚生労働省による正式承認した後、まずは医療従事者1万~2万人を対象に、首都圏や大阪府、兵庫県、福岡県、愛知県など全国約100ヵ所の病院で先行接種がおこなわれる)。このワクチンは-75℃(±15℃)で保管することが義務付けられており、保管期間は6ヶ月と定められています。

一方、モデルナ製ワクチンの保管温度は-20℃(±5℃)、保管期間はファイザー製と同じく6ヶ月となっています。アストラゼネカ製のワクチンは2~8℃の保管温度が定められており、前出の2社とは異なり冷凍輸送ではなく冷蔵での輸送が求められています。

厚生労働省「第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会 資料」pp.22-23
厚生労働省「第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会 資料」pp.22-23

製薬メーカーによって輸送にかかる制限は様々でありますが、ワクチンの輸送には様々な物資が必要とされており、各社の開発競争や出荷競争が激化していると言われています。

例えば、政府が調達するとしている80リットル程度の小型低温冷凍庫では1台で約1万7000回接種分のワクチンが保管できます。また、輸送時には断熱材入りの保存容器にドライアイスを詰めて輸送することが想定されていますが、このドライアイスの生産も政府がメーカーに増産要請を行っており、各社生産体制の見直しを進めている状態です。

ワクチン輸送会社と選定基準

ファイザー製ワクチンについては、-75℃を維持しながら海外工場から国内倉庫・基幹病院まで輸送が必要であるため、ノウハウと経験のある輸送業者に委ねられます。この輸送には日独大手運送会社3社が中心となって輸送することが決められました。

一方、基幹病院から各地の接種会場までの輸送は輸送先が多岐にわたることから、医薬品卸業者にも、その輸送が委ねられています。医薬品物流の特徴の一つとして、複数の卸業者と取引のある医療機関が多く存在するということが挙げられます。

したがって、事前に取り決めをしておかないと、どの卸売業者がどの医療機関にワクチンを納品するかで混乱が生じる可能性があります。そのため、あらかじめ地域ごとに新型コロナウイルスワクチンの流通を担当する卸業者を指定するとしています。

ワクチン卸業者の選定方法

卸業者の選定方法としては、次の4段階があります。

1.医薬品卸売業連合会が卸各社の意向を確認する
2.候補となる卸が複数社ある場合は、都道府県が地域を分割して地域と卸の組み合わせを調整する
3.都道府県・都道府県医師会・卸各社の3者で都道府県内の流通体制について協議した上で、地域を担当する卸売業者を決定する
4.必要に応じて決定した内容を補正する

厚生労働省「第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会 資料」p.31
厚生労働省「第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会 資料」p.31

ワクチン輸送の課題

このように、ワクチンが国内に持ち込まれてから国内倉庫を経由し接種会場まで輸送するにあたり、複数のプレーヤーが携わることになります。ファイザー製ワクチンであれば超低温冷蔵庫から取り出した後(5日に1度のドライアイス再充填で)10日程度、モデルナ製ワクチンの場合は冷蔵保存(2~8℃)へ移行後30日間といった保存期間も定められているため、指定温度を維持したまま各地の接種会場へ輸送するには適正な温度管理とシームレスな輸送体制の構築が重要となります。綿密な接種計画を実現するための精緻な輸送スケジュールの策定・配送体制の構築・配送の実現力が課題となるでしょう。

ワクチン輸送の今後

海外ではファイザー製ワクチンが過度に低い温度で保管され使用できなくなるなどの輸送上のトラブルが出ていることも報じられています。またワクチンの構造上、振動に弱いため走行距離の短縮化や走行道路の基準を設けている国もあります。

厚生労働省は今後、ワクチンを安全に輸送する指針を作成し、ワクチンに衝撃や振動をできるだけ与えないようにすることなどを自治体や医療機関などに示す方針です。

今回のコロナワクチン輸送において物流業界では、接種計画に基づいた輸送計画と輸送体制の確保、安全輸送に対する取り組みが急務となります。当然のことながら、ワクチンは非常に貴重なため保管中および輸送中の異物混入や盗難・すり替えといった被害から守られなければなりません。

サプライチェーン全体の安全性を確保するために、鍵付き車両での輸送といった初歩的な取り組みだけでなく、RFIDやGPSデータロガーなど先進技術の活用や迅速な導入が医薬品輸送のカギを握ると言えるでしょう。

今後、冒頭の3社以外のメーカーによるワクチン配送が行われるとなった際に遅れを取らないためにも、現段階から十分な輸送体制を確保するとともにデジタル技術の活用が喫緊の課題であると言えます。

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