宅配で急成長している時流企業インタビュー -ラストワンマイルのプロ編- 【前編】ドライバーのあるべき心構えと新人育成のコツ
目次
はじめに
各社がラストワンマイルの人材不足に悩む今日、今回は現場で働く人の声を聞くべく、1日200件以上の配達を実現しているドライバーなど、優秀なドライバーが集う株式会社吉祥寺総合物流の二瓶直樹社長・阿部拓也営業本部長にお話を伺いました。
同社は今後全てのドライバーが持つべき心がけや教育・配達のコツ、物流に関わる全企業が知っておくべき最新時流・信念・ルールを大切にしながら業務に取り組んでいます。 現在、特にラストワンマイルの配達において都内全域で活躍され、ラストワンマイルの価値向上を目指して躍進なされています。荷主企業からの案件数が日々増加する中、ダイバーシティに適応した採用で、ドライバー数も増加しています。
彼らの活躍にはいったいどのような秘訣があるでしょうか?
配達を自ら行いながらラストワンマイルの新人ドライバー育成
現在の業務内容について教えてください
〈阿部本部長〉
「現在はプレイングマネージャーとして、自ら軽ワゴン車で配達する時もあれば、会社の事務所で仕事をする時もあります。具体的には週に3~4日程、自ら軽ワゴン車に乗り個人宅配達員として活動しています。その他にも営業本部長として営業活動やドライバーのサポート・教育といったマネジメント業務も行っています。ドライバーのサポート業務では、特に新人ドライバーに同乗するなど、OJTで新人教育を行っています。」
アルバイトで初めて関わり、「好き」を活かして宅配業務を始めた
現在も時に1日約200個の宅配を行っている阿部様ですが、どのような経験を経て現在まで至るのでしょうか
〈阿部本部長〉
「宅配業は25歳の時に始めました。初めて宅配に携わったのは大手宅配会社の宅配業務でした。当初は7月限定で繁忙期のアルバイトということで仕事を始めました。短期のアルバイトのつもりでいたのですが、そこの所長さんから「引き続き残って、うちの社員として働いてほしい」という話を頂きました。もともと地図を読むことが得意だったこともあり、配達の仕事が好きで運ぶことにやりがいを感じていました。その仕事をする前もバイク便をしたり、デリバリーの配達をしたり、他の人は1日約30~40個配達するところ、気がついたら僕だけ100個以上は配達していたこともあります(笑)。
しかし社員としてしばらく働くうちに、物流業界の変化で集配先が減ってきてしまい、ドライバーとしてのやりがいが減少し、インセンティブが減ってくるという状況に直面しました。この状況は、正直やばいと感じていましたね。そんな時に同僚から、大手宅配会社と業務委託契約をして個人事業主として一緒にやらないかという誘いを受けました。これは面白そうだと思い同僚の誘いを受け、3名で個人事業主として宅配を始めました。起業後はトラック10数台、ドライバーも20名程度まで大きくなっていきましたが、その後は運送単価や事業方向性等の面で各人の方向性が異なるようになってしまい、一度全てを見直すことにしました。
そこからまた一人で宅配の仕事をやっていこうと大手ECのネットスーパーの仕事を受託し、配達の仕事をしていました。そこで出会ったのが吉祥寺総合物流社のベテラン女性ドライバーでした。その繋がりでたまたま二瓶社長にお会いしてお誘いいただき、約半年後に入社しました。それで、現在に至ります。」
二瓶社長と阿部本部長は偶然の出会いだった?
<二瓶社長>
「そうですね。取引先の仕事をしていると現場で色々なドライバーと一緒になることがあります。その中で、当社のベテラン女性ドライバーから「社長!すごくいい子がいるから会ってくれない?」と紹介を受けたのが今の阿部本部長でした。その後、彼がニコニコして会いに来たのを覚えています。そこで感じたのは「答えは現場にある」ということでした。机上の空論は本当の答えではなくて、色々な現場に行くことで答えや成功のきっかけを見つけることができると今でも感じています。そこで僕は、阿部本部長というとんでもない宝物を現場から頂いたと思っています。「運」というのは足を運ばなければつかむことはできません。」
運送業ではなくサービス業の心
ラストワンマイルの宅配における考え方、心がけていることは?
〈阿部本部長〉
「宅配の仕事は、ただ配達するだけではないと思っています。宅配業は配達した先に受け取る人が待っていて、もはやサービス業と言えるからです。なぜサービス業と言えるかというと、受け取る方の性格は十人十色、どのようなミスでお客様の機嫌を損ねてしまうか全く分かりません。なので、どんな時もお客様に対して笑顔でいること、印象のいいドライバーであることが大切だと僕は考えています。常にお客様と良い関係を作っていると、こちらのミスを許してくださることも多くあります。日頃からドライバーが不愛想でお客様と良い関係を作れていなければ、些細なミスでもクレームを入れられてしまいます。そのような悪循環に陥らないために日頃からお客様にとって気持ちのいいドライバーでいることが必要な心掛けだと感じています。 しかし、中には「笑顔を作るのが難しいです」というドライバーもいます。そのような人でも、できるだけ不愛想にならず印象よく仕事ができるように教育をしています。
この仕事では失敗は必ず起こります。自分のせいでなくても、物流全体の流れに影響され時間指定に間に合わないことなど、全体的な要因でお客様に迷惑をかけてしまうことが必ずあります。それでもお客様は全体の流れを知るに知りえないわけですから、ラストワンマイルのドライバーに責任があるのではと感じてしまいますよね。その時、日ごろからの対応や態度をドライバーがよくしていれば許して頂けるケースもあります。常に、そのようなサービス業意識を心掛けるというのがラストワンマイルでは大切なんじゃないかと思っています。」
近況や悩み、疑問や思いを聞く
配達業務は精神的に強いものが求められると感じますが、新人ドライバーのケアはどのような事をされていますか?
〈阿部本部長〉
「新人ドライバーは入社して1ヶ月程経過すると沢山の疑問や質問が出てきます。この時に適切な答えや指導を行うことが教育という面での僕の義務であると感じています。心がけていることは2,3ヶ月ペースでドライバーと直接会う機会を作りコミュニケーションをとることです。もし会えない場合は電話などで彼らの近況や悩み、疑問に思うことを聞くようにしています。
先日も15名ほどのドライバーと集まって2時間ほど日頃の仕事に対する思いの丈をぶつけてもらいました。その場で挙げられた助言や意見を集約して全体最適で改善と成長を促すことが僕の役目だと思っています。弊社の営業所は各所にあり、弊社の社員はオーナードライバーとして独立している方々なのでなかなか会えない方も多く、会う機会を意識的に作るようにしています。
また、全てのドライバーと常に僕がコミュニケーションをとることは難しいので弊社ではチームリーダーを各所に配置し、ドライバーの声が確り経営層に届けることができる体制と環境を作り上げています。」
信頼と実績からなる価値のあるドライバーを育成する
ドライバー同士の情報共有を3ヶ月に1度行っているのはどのような理由がありますか?
<二瓶社長>
「完了報告<報連相>は毎日の義務としてLINEで全員から報告して貰っておりますが、毎月情報共有の場を作っているとマンネリ化してしまいます。なので、3ヶ月に1回が一番良いペースだと考えています。但し、このドライバーの集まりに加えてマネージャー会議は毎月行っています。
阿部本部長も含めて現在6,7名いるマネージャーは経営スタッフとして毎月の情報を共有してもらっています。 当社の阿部本部長は現場では「あべちゃん」とよばれる人気者です。集荷に関しては当社の関与する部分ではないのですが、お客さんから「商業貨物も手伝ってほしい」と要望があっても、嫌な顔を一切せずに引き受けるのが阿部本部長です。商業貨物はお客様からよっぽど信頼を得ていなければ扱えないものですからね。
このような信頼関係もあり彼は1日最多300件の配達をしたという記録を持っています。普通のドライバーでは、なかなかこの記録は超えることができません。また、価値のある配達は簡単にはできないと思っています。「精神力」と「イメージ力」が宅配には必要ですね。彼が特に優れているのは「イメージ力」です。地図が頭の中に入っていますし、その家の家族構成までも頭の中に入っています。だから、配達先のご家庭に何時に行けば人がいるかということもイメージして配達することができます。普通の人にはこれがなかなか難しい。そのような価値ある配達は、おそらく簡単にはできないでしょう。」
阿部様の実績と信頼が、御社の既存ドライバーの定着グリップに繋がっていると
<二瓶社長>
「そうですね。阿部本部長を含めマネージャー陣は現場に足を運び仕事の状況を聞いたり、時には現場のドライバーと飲みに行ったりなど積極的なコミュニケーションをとっています。細かい気遣いのおかげで若年層のドライバーが長く続いてくれています。タイミングが合わず、なかなかコミュニケーションをとれないドライバーとは個別に連絡をとって話を聞くなど気遣いを怠っていません。阿部本部長を含めて経営陣は、縁の下の力持ちとして動いてくれている部分が多いですね。
また、すぐに覚えようという気持ちが大切です。阿部本部長の新人教育の方法は「見て覚える」という方法です。いつも新人には「見て覚えてください」と言っています。そして、2日目には反対に、新人さんにやらせてみて「わからないことがあれば何でも聞いてください」とサポート役に回る。昔、山本五十六が言っていましたが、「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めて見せれば人は動かじ」という言葉そのままの教育だと思っています。なかなか自分では言えない部分もあると思うので僕が自慢しておきます。」
見て覚える、とは言え段階的に覚えていけばいい
ドライバー教育において工夫されている点を教えてください
<阿部本部長>
「本当は教える側も、一気に教えたいと思っていますがこれはなかなか難しいことです。宅配は単純に考えればA→Bへ荷物を運ぶだけです。でも実はその運ぶ間に、やらなければならない細かな業務が100とあります。これを一気に教えるのは非常に難しいので「初級編」「中級編」「上級編」と僕の中でSTEPを分けて教えています。
また、そのドライバーのレベルに合った内容の教育を行うようにしています。まだ配ったことが無い新人ドライバーに「質問はある?」と聞いても「何を質問したら良いかすら分からない」という状況になります。大抵、仕事を続けて1,2週間で質問が山ほど出るようになります。その時に「初めの2週間で生まれた疑問点をまとめておいてね。」といつも伝えています。」
人生で1度だけ、2週間の我慢をしてほしい
新人ドライバーが宅配個数を伸ばすために心がけるべきことは何ですか?
〈阿部本部長〉
「僕が新人さんに必ず伝える言葉は、「人生で2週間だけ我慢をしてほしい」というものです。この2週間はスポーツで言うと筋トレ期間だと思っています。収入がある筋トレ期間ですね。(笑)
2週間以上経つとドライバーは少しずつ地理感覚が身についてきます。そうすると、宅配では配達担当エリアがおおよそ決まっていますので、住所や配達先の名前を見るだけで道がわかるようになってきます。配達業務に加えて再配達の依頼で電話がかかってきたり、メールが届いたり新しい環境で混乱することもあります。
また、精神的にもつらいことも多いかと思います。しかし初めの2週間を超えれば、それらの負担が殆ど無くなってくるので、2週間だけ我慢してほしいと伝えるということです。今、直面している課題を少しの間我慢することで自然に仕事を覚えていき効率の良い配達ができるようになります。」
ドライバーは地域の顔
<二瓶社長>
「そういった意味で我々ドライバーは町の顔ですから、とても神経を使います。町を走っていると町の方から手を振られます。僕は相手の顔がわかりませんが、向こうは毎日来るドライバーの方だということで顔を覚えてくれているんです。みんな自分のことを知っているので言動に注意して稼働しなければいけませんね。
10年くらい前はそのような意識やモラルを持ち合わせていないドライバーも宅配業界には数多くいたので、一部のドライバーの振る舞いによって業界全体のイメージが悪くなるのは気持ちがいいことではありませんでした。今はそのようなドライバーは減ってきてはいますが、そのような方もまだいます。自分たちからそのような意識の改革を行って変えていかなければなりません。宅配業を行っている人たちに「自分たちは地域の顔であり、とても重要な仕事をしているんですよ」と伝えてあげたいですね。」
<阿部本部長>
「確かに、そのような態度は自分の首を絞めるだけですからね。各ドライバーが担当している地域は自身の稼ぎ場所です。そこで悪い態度をとってクレームにつながると、その地域では仕事ができなくなるわけですから。その地域で働いて、自分は地域の顔なんだという意識をもっておかなければラストワンマイルの仕事は成功し続けることが厳しくなると思います。」
情報共有がドライバーを成長させる
ドライバー一人だけで仕事をしていると自分の行動が良いのか悪いのか判断基準が難しくなるようにも思えます
<阿部本部長>
「そうですね。一人で配達しているとなかなか良し悪しに気づきにくいですね。なので、ドライバー同士の情報共有を行っていくことで、自分の行動を振り返るきっかけとなり良し悪しを判断できるようになります。情報共有がなければ、たとえ悪い行動をとっていたとしても気づかないですから直すことなくそのまま仕事をしてしまいます。そうした点でも情報共有は大切だと感じています。宅配業を行っているサービスプロバイダーの皆様も会社単位で情報共有を行ったほうがいいのではと思います。」
後編「1日200件配達のコツ・再配達/人材不足のベストな対策」はこちらから
今回取材させていただいた企業
株式会社吉祥寺総合物流
- 本社営業所
- 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-31-11 KSビル
- 創業
- 平成16年4月
- 代表取締役社長
- 二瓶 直樹
- コーポレートサイト
- http://kissyou-exp.jp/