日本における“ハラール物流”の現状

船井総研ロジ

Pen Iconこの記事の執筆者

張 嘉逸、郁 萌

船井総研ロジ株式会社

この記事では、あまり知られていないにもかかわらず国際化が進むことで重要性が高まっている「ハラール物流」について詳しく解説しています。日本の発展と国際化は切っても切り離せないため今後もアラール物流の重要性が増してくるでしょう。ハラール物流について詳しく知りたいといった方やハラール物流のサービス提供を検討されている方は参考にしてください。

日本におけるハラール×物流

-ハラールの概要からハラール物流について解説-

ハラールとは

ハラールとは、イスラム法において合法なもののことです。逆に禁止されているものはハラームと呼ばれます。その対象は、すぐに思いつくものは豚やアルコールといった食に関するものがありますが、食材や料理、肌に直接触れる化粧品やトイレタリー製品、サービスなどイスラム教徒のムスリムが日常生活で口にするもの、身につけるものになります。

ハラール認証とは

ハラール認証は、厳格に定められた法に則り生産された商品やサービスのハラル性を保証するもです。
ハラル認証を取得している場所で製品を製造・加工された生産された製品にはハラルマークが与えられます。

ハラール認証書とは

ハラール認証書とは、輸出相手国のハラール認証機関から正式に承認を受けた国内認証団体が発行した認証です。それ以外のものはハラール製品として認められません。
ハラール認証制度が法的に運用されている国々へハラール製品を輸出する際にはハラール認証書が必要になります。

NPO法人日本ハラール協会(JHA)は、マレーシア、インドネシア、シンガポール、湾岸諸国(UAE、サウジアラビアを含む)のハラール認証機関から相互承認を受けており、各機関で定める監査を受けたのち、それらの国々へハラール製品として輸出する際に有効となります。

ハラール認証対象(図2)については、食品(加工食品、屠畜、食品添加物、サプリメント含む)、化粧品、医薬品、物流サービスなどを対象としています。

出所:日本ハラール協会

ハラール物流とは

ハラール物流とは、ハラールに対応した物流のことです。ある行為・物のハラール性(イスラーム教-イスラーム法に基づく規範)を確保するためには、関連する全ての行為・物に関してハラールである必要があります。そのため、ハラール性の確保は、原材料、加工方法、包装、貯蔵、物流、陳列など全てのサプライチェーンに及びます。そのため、物流においてもハラールに対応した取り組みが必要になります。

ハラールであるために商品を運搬・保管する際に、非合法なものが接触・混入しないように隔離します。例えば、倉庫で保管するときに、豚や豚に由来するもの、アルコールと一緒に置かないようにしないといったことです。
ハラール物流では「ハラール認証済み倉庫」と「ハラール認証トラック」があります。

ハラール食品のサプライチェーン

図1のように、ハラール食品を取り扱うには、サプライチェーン全体のハラール性を確保する必要があります。原材料段階の隔離飼育、加工段階で動物性油脂不使用の包装資材の使用と流通段階での隔離輸送と陳列の配慮が必須です。

出所:農林水産省(平成30年)

日本のハラール物流の現状

ムスリム訪日人口の増加とハラールビジネスの拡大により、国内ではハラール認証を受けた飲食店が増加し、また認証済みの物流企業と物流センターも増えています。
現在、日本ハラール協会に認証された企業について、五つの企業が認証済みになりました(船井総研ロジ調べ)。
日本通運の記事により、東京の倉庫だけではなく、福岡、大阪の物流倉庫にも認証されました。
また、Logistics todayで掲載された記事により、ニッコングループは2017年にN&Aハラルロジスティクスというハラール物流会社を創業し、ハラール食品に特化したマーケティング・営業を行っています。
山九株式会社は倉庫内のハラール専用スペースが認証されました。
また、兵機海運の物流倉庫とキョクレイ株式会社の山下物流センターは2015年と2016年に認証されました。

ハラール倉庫の代表例として日本通運のハラール倉庫は注目されています。日本通運のハラール倉庫の特徴は「ハラール認証済み倉庫」と「ハラール専用トラック」です。
東京のハラール倉庫の流れから見ていくと、ハラール商品は海外から輸入して、輸入手続きが終わったら、東京の認証済みのハラール倉庫に入庫します。そして、倉庫から出庫する場合は、専用トラックによって、各店舗へ配送することです。ハラール物流の物流フローから見ると、認証済みの倉庫・専用コンテナ・専用ボックスが必要です。

日本でハラール物流が広がる背景

オリンピックでムスリム訪日人口の増加

近年、訪日外国人のなかでムスリム観光客数は着実に伸びてきています。
主要20市場( JNTO;日本政府観光局)のデータからは、全世界からおよそ150万人のムスリム観光客が来日していると推測されます。
年間3,000万人以上の訪日外国人全体と比べてまだまだ小さな割合ですが、今後伸びるポテンシャルのある市場なのです。

全世界のムスリム人口は2020年では19億人になると推計されており、そのうちの10億人がASEAN圏で暮らす人々だとされています。この数字を見ても、ムスリムの訪日客数の成長の余白は非常に大きいと言えます。

ここで重要なのは、東京オリンピック・パラリンピックです。両オリンピックにおけるムスリム・アスリートの人数は、2012年のロンドン・オリンピックでは、全アスリート約1万500人に対し、ムスリム・アスリートの方は4,000人で38.0%でした。2016年のリオ・オリンピックでは、全アスリート約1万1,000人に対して6,000人の54.5%と、2,000人も増えています。
東京オリンピック・パラリンピックは全アスリート約1万2,000人に対し、8,000人~9,000人のムスリム・アスリートの方が来日すると予測されています。選手本人だけでなく、同伴する家族やスタッフもムスリムであることが多いので、全体ではさらに大きな規模になると思われます。

受け入れる日本においてムスリム対応は必須と言えるでしょう。訪日外国人だけでなく、東京オリンピック・パラリンピックでも確実にムスリム対応が求められます。

ASEAN諸国の日本食ブーム

近年、ASEAN諸国では日本食レストランの普及が進んでいます。日本食品の輸出とともに、ASEAN諸国では日本食ブームとなっています。
しかし、ASEAN諸国への飲食店出店は難しいのが現状です。その理由としては、日本にあまり馴染みのないイスラーム教文化の国は、飲食において厳しい戒律「ハラール」を守らなければいけないことが挙げられます。
代表的なものだと豚やアルコールなどの飲食は原則禁止されており、出店の際もハラールの戒律に沿った営業をしている証明として「ハラール認証」を取得する必要があります。

日本の飲食産業にとって今、海外進出のチャンスが大きく広がっていることは間違いないでしょう。
しかし、実際に海外進出する際には、国や地域によって食文化が異なるため、人気の日本食も異なってきます。場所によっては宗教の関係で、禁止されている食材もあります。そのため、飲食業の海外進出では、宗教と文化の違いを理解することが非常に重要なこととなります。

ハラール物流の課題

ハラール物流が浸透してきた一方で、近年は色々な課題が出てきました。

ハラールに関する専門知識不足

多くの日本人・日本企業はこれまでイスラーム教に触れる機会が少なく、理解することがあまりありませんでした。そのため、戒律に沿ったムスリムの習慣を理解することが難しい状況となっています。ハラール物流についても、ハラールに関する専門知識がないため、認証された物流企業は少ないのが実情です。

ハラール物流コストが高い

ハラール物流は「保管・運送」において、専用容器・専用コンテナ・専用トラックの専用機器を使用することが条件となりますので、一般商品の物流コストより、保管コストと運送コストが高くなります。また、ハラール商品の運送量が一般商品より少ないため、ハラール商品の積載率は低くなってしまうという課題があります。

ハラール認証機関の乱立

ハラール認定には国際的な認証基準がなく、豚やアルコールが禁止されることが共通していても、細則になると国や宗派で微妙に異なっています。一般社団法人ハラル・ジャパン協会によると、日本だけでも実績が確認できる認証機関が9つもあり、それぞれ認証基準や対応可能な国が違います(図3)。大抵の日本物流企業は認証申請したい場合、どのハラール認証機関に申請するのか分からないため、日本ハラール物流の発展に対し、大きな課題となっているのです。

出典:船井総研ロジ調査まとめ

今後の考察

オリンピックの開催やハラールビジネスの拡大により、今後ムスリムの訪日人数が増えると見込まれています。それに伴い、ハラール食品の需要が増加すると考えられているため、ハラールサプライチェーンの構築が求められてくることが想定されます。

ハラールサプライチェーンの構築において、日本国内では専用ボックス・専用トラック・専用容器といったハラール物流体制が非常に重要となります。しかし、日本企業では、ハラールに関する専門知識不足が大きな課題となってしまいます。これに対し、知識と経験がない企業へのハラール物流の構築と現場設計が求められるでしょう。

またハラールビジネスが急速に成長しているとはいえ、まだハラール商品の運送量が一般商品より少ないため、専用トラックで運送すると積載率が低く、物流コストが高いのも実態です。今後の課題としては、保管や荷捌きといった倉庫業務だけでなく、「ハラール商品の共同配送」を構築し、ハラール物流を各企業が一丸となることで物流コストを抑えることが必要でしょう。

当社では今後を見据えた物流コンサルティングの目線でハラール物流の荷物及び配送条件を整理し、合致する配送網を選定してまいります。ハラール物流の構築以外においても第三者の視点から物流コストの抑制や品質向上の切り口をご提案していきます。

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