物流DXの事例 ―DXでリードする中国物流企業の取り組み―

社会や人々の消費行動がめまぐるしく変化しており、企業はそれらの時流変化に対応することが求められています。その中で不可欠だとされているのがデジタル化による組織・ビジネスモデルの変革を意味する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

物流DXの事例 ―DXでリードする中国物流企業の取り組み―

DX:デジタルトランスフォーメーションとは

DX(Digital Transformation)について、経済産業省はデジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(2018年9月7日公表)のなかで、以下のように説明しています。

あらゆる産業において、新たなデジタル技術を使ってこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起ころうとしています。こうした中で、各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)をスピーディーに進めていくことが求められています。

DXとは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス・ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織・プロセス・企業文化や風土を変革し、競争上の優位性を確立することを指します。企業は、日進月歩の市場の中で生存と発展を求めて、新しい戦略、新しい発展の道を探さなければなりません。

DXはテクノロジーに基づいたものであり、闇雲にデータ連携を図るのではなく、適切なテクノロジー活用を採用することによってのみ成果を得られます。その中で最も重要なのは、企業や公共サービスがこれらのテクノロジーを最大限に活用することだと考えられています。

物流業界のDX

顧客のニーズがより多様化およびパーソナライズされ、サプライヤーの数が毎年増加するにつれて、顧客のロジスティクスに対する要求も複雑化しています。そのためB2BとB2Cの両分野の物流において、DXの推進が求められています。

今後5年間で、物流・ロジスティクス業界のデジタル化は大幅に進むことが予測されています。しかし、他の業界と比較して、物流・ロジスティクス業界のデジタル化プロセスは依然として大きく遅れをとっています。また、倉庫の無人化や自動運転車の分野においては、法改正などの対応が必要な場合があります。

Digital Transformation Spending in Logistics Marketレポートでは、デジタルトランスフォーメーション支出の市場規模について、以下のように説明されています。

分析期間(2020年~2027年)に9.4%のCAGR(年平均成長率)で成長する見通しで、2020年の453億米ドルから、2027年には846億米ドルに達する。また、分析セグメントの1つであるハードウェアは、分析期間に10.3%の年率で成長し、449億米ドルに達する。

中国物流企業の物流DXの取り組み

物流業は物流というサービスをキーに各産業と取引関係にあり、経済全体のインフラを担っています。中国国内を見ると、今回の新型コロナウイルスの影響で、大量の航空便の欠航、企業の休業および一部の国の入国規制措置・輸入政策の変化があり、中国の航空貨物市場全体に深刻な打撃を与えました。2020年1月には、中国全土の貨物輸送量は60.6万トンで、前年同期比9.8%の下落でした。このうち、中国国内線は同11.1%減、国際線は同6.7%減となりました。

しかし、中国の2020年4-6月期のGDPは成長に転じました。コロナ禍の全四半期(1-3月期)からの復活だけではなく、昨年の同期比で3.2%の成長となったのです。2020年11月現在、中国経済は回復の局面に入り、市場の平常化にともなって、物流も徐々に回復状態に向かっているとみることができます。

事例(1)アリババの物流を支える菜鳥ネットワーク

コロナウイルスが海外で感染拡大した後に、世界規模で断航が発生しました。一部の物流プラットフォームは倉庫を閉鎖し、越境物流は寸断されました。この影響により、企業は海外受注のキャンセルで大幅な売上減少、従業員の休業で業務も滞り、在庫過多など、大きな課題に直面しました。その中で、菜鳥は独自の国際物流ネットワークを維持し、毎日数十万の商品パッケージを出荷し、ヨーロッパ・北米など、世界の重点地域への輸出態勢を維持していました。

菜鳥の国際物流ネットワークは全部で4つの特徴があります。

1つ目は物流のインテリジェント化です。フロントエンドのピックアップクーリエから最後の配達クーリエまでのインテリジェンス、中間貨物チャーターフライト、中国とヨーロッパをつなぐ列車、商品の保管倉庫など、運送はすべてアルゴリズムによるロジスティクス要素を組み合わせて、最適なソリューションが選択されます。2つ目は物流の可視化です。消費者と店舗は物流の全過程で情報を追跡することができます。3つ目はネットの安定性です。平常時、イベント開催期間、コロナ禍でもネットの安定運行を保証し、実際に現時点で問題は発生していません。4つ目は価格です。企業は物流コストを抑えることができるため、製品価格を下げて販売することができます。

上記の優位性に基づいて、新型コロナウイルスの感染拡大後、菜鳥は先のアルゴリズムを通じて、3月と4月だけで200機のチャーター機を確保し、緊急で複数のチャーター便の航路を開設しました。また、アリババ独自のeWTP物流(世界電子貿易プラットフォーム)や国際トラックネットワークを活かして、全世界の物流ネットワークを維持したのです。

事例(2)菜鳥の最大ライバル―JDL京東ロジスティクス

デジタル経済(情報通信技術ICTによって生み出された経済現象を指す)の発展に伴い、サプライチェーンの最適化が企業競争力を高めるポイントになっています。サプライチェーンのDX化は急務と言えるでしょう。

JDLのサプライチェーン改革は消耗品、アパレル、家電、家庭といった業界の共通性と特性を結び付けて考えることから始まっています。需要管理、コンペ・サプライヤー管理、セルフサービスECモール、契約履行協同、財務決算の「六つの管理機能」を一体に集め、便利・高効率・透明性・コンプライアンスを重視したサプライチェーン管理を実現しています。

 JDLのサプライチェーン責任者は、今回の新型コロナウイルス蔓延を通じて、JDLの強い適応力が発揮されたと発言しています。JDLの緊急物資のサプライチェーンを管理するプラットフォームは、政府が保有する物資の全チェーン情報をリアルタイムに把握し、政策決定と応急処置のサポートを実現しました。政府・支給側、供給側において、データ通信・情報収集を行ないアルゴリズムに基づいて最適化されたプラットフォームを構築し、報告・調達管理・倉庫保管・生産監視・物流管理・調達配分など、全ての流れを可視化して管理することを実現しました。JDLは、これまでの伝統的な物流をアップグレードし、5 G+IoT+AI技術の融合応用を通じて、人員・車両・セキュリティ・生産・運営および維持の5つの分野の管理能力を全面的に向上させ、「高知能、一体化」の特徴を持つ物流DX企業へ転換することを標ぼうしています。

事例(3)中国家電量販大手の蘇寧易購集団

実店舗とオンラインを融合させたモデルを確立してきた蘇寧易購は、家電量販店の実店舗とECサイトだけでなく、スーパー・生活雑貨・コミュニティショップ・ベビー用品・スポーツ施設などを展開し、様々なジャンルの商品を取り扱っています。また、2017年に農村部を中心とした小型フランチャイズ店「クラウド型店舗」をスタートしました。加盟店は蘇寧が取り扱う家電製品・各種商品の販売、決済システムや物流ネットワーク、サプライチェーンを活用できる画期的なサービスです。

新型コロナウイルスの感染拡大後、感染予防措置強化として、人や車両の出入りを制限する通告が中国全土に向けて発表されました。配達員は居住区に入ることができないため、配達物を居住区管理者が指定した場所に置き、利用者が受け取りに行く仕組みを採用しました。こうした状況下で、自動倉庫や無人で配送を行う宅配ロボットに注目が集まるのは必然です。

2020年8月、蘇寧易購は中国南京市内のスマート5G無人倉庫を公開しました。5G無人倉庫は、無人フォークリフト・無人搬送ロボット・ロボットアーム・自動梱包機など、多くの最先端テクノロジーを統合した最先端の物流倉庫です。商品の集荷から棚入れ、管理、補充、そして注文を受けた商品の取り出し、梱包、ラベル貼り、仕分けまで、全プロセスの無人化を実現しました。1台のロボットが商品を取り出すスピードは1時間あたり600個に達し、人が作業した場合の5倍の生産性です。商品の注文を受けてから出荷まで、最短20分で完了できます

日本企業が中国物流企業から学ぶこと

現在、DXに乗り遅れた日本企業は辛酸をなめ続けています。リアル店舗の売り上げがアマゾンに奪われているだけでなく、BtoBパッケージ型システム市場を見ても、先進的な海外企業が次々と日本市場を侵食しています。

日本能率協会が全国主要企業の約5,000社を対象に行なった『日本企業の経営課題2020』 調査結果 【第2弾】 DX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組み状況によると、すでに5割以上の企業がDX推進・検討に着手済みで、4割が担当役員・部署を設けています。DXの目的は業務プロセス効率化が最も多く、推進のためには人材不足が課題となっているという結果です。取り組み状況は、「すでに始めている」「検討を進めている」がともに28%で、推進・検討をしている企業が5割を超えています。特に従業員数が3,000人以上の大企業では、すでに始めている企業が51%、検討を進めている企業が32%であり、8割以上に達しています。従業員数300人以上3,000人未満の中堅企業では推進・検討に着手済みが56%、検討意向を示しているが35%でした。中小企業ではそれぞれ、34%、43%という結果がでています。中堅・中小企業でもDXへの関心が高くなっていることが伺えます。

そのような中、日本の物流業界の課題を見ると、主なものとして、小口配送の増加・人手不足・従業員負担の増大が挙げられます。課題点を解決するため、下記5つのDXへの取り組みが求められています。

・自動化による倉庫の省人化
・商品管理のデジタル化
・幹線輸送のトラック自動運転
・データベースを活用した顧客情報の蓄積と分析による配達リスクの削減
・配送ルートの最適化による業務効率の向上

中国の物流DX取り組み事例を見ると、どの企業もデジタルトランスフォーメーションを「顧客提供価値創造」&「システム化」として捉えていることが分かります。逆に、日本企業のDXの話題は、システム導入に偏りがちです。

まとめ

中国物流業界の企業家の多くは、データを取ったとしても、それをすぐ売上に繋げるよりは、しっかり顧客の体験価値として返していく姿勢を持っています。日本企業に目を向けると「データは財産である」となり、データを持っていてもお金がかかるだけなので、それをいかにソリューションとして使える形にするかが大事だと考えられています。

今後、日本企業は物流DXへ踏み出せない状況を打破、新しい価値を生み出さなければならないでしょう。

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