物流分野でESG経営に取り組むべき理由3選

Pen Iconこの記事の執筆者

朝比奈 実央

船井総研ロジ株式会社
ロジスティクスコンサルティング部

昨今、ESG経営に取り組む重要性はますます高まっています。実際、世界的にサステナブル投資額は2018年から2020年までで15%増加しています。(図1)しかし物流業界におけるESG経営は設備投資が高額という印象が強く、「余裕があるときにやればよい」「今はまだ現状維持でいい」という認識をお持ちの方も多いのではないのでしょうか。

(図1:GSIAより船井総研ロジ作成)

確かにESGの取り組みの中には初期投資が必要な設備導入も含まれ、今すぐに実践することが難しい場合もあります。しかしながらESG経営は企業の社会的責任というだけではなく、今後企業が市場競争を勝ち抜くうえで重要な競合との差別化要素になり、経済的メリットが見込める取り組みとなりつつあります。

そこで本記事では「物流分野でESG経営に取り組むべき理由3選」について、解説いたします

ESG経営に取り組む戦略的メリット

1. 物流コスト削減

1つ目のメリットは、物流コスト削減につながるという点です。ESGというと新しい取り組みのように思いがちですが、これまで自社で行ってきた物流改善活動がESGの取り組みと一致する場合があります。ESG経営がコスト削減につながる例の1つは、共同配送です。

共同配送では複数の物流企業の荷物をまとめて積載・輸送するため、各企業・事業所が荷物の量に関わらず荷物を輸送でき、積載率が上がります。積載率が上がると1回の配送で運べる荷物の量が増え、車両の稼働台数や配送時間を削減することができます。車両の稼働台数や配送時間を削減できると、ドライバーの人件費や燃料費といった物流コストを削減することができます。

一方ESGの観点からは、車両の稼働台数や配送時間が削減されることで車の走行中に排出されるCO2排出量を削減できるため、環境に配慮した輸送の実現に繋がります。このように共同配送の取り組みはコスト削減の観点からも、ESG経営の観点からも意味のある取り組みといえます。

ただし、共同配送にはクリアすべき懸念点もあります。その懸念点とは、以下4点です。

  • ・臨機応変な対応が難しい
  • ・荷物の追跡が難しい
  • ・配送料金の統一が難しい
  • ・企業の利益や都合の優先

①臨機応変な対応が難しい

共同配送では複数の荷主企業の荷物を混載で運ぶため、一部の企業の都合で予定を変えることができません。そのため、出発直前の荷物の追加や時間指定などの柔軟な対応ができず、サービスの利便性が低下する可能性があります。

②荷物の追跡が難しい

共同で荷物を運ぶため、自社の荷物を追跡しにくくなるおそれがあります。仮に他社とシステムの共有や自社のシステム改修等で荷物の追跡が技術的に可能だとしても、自社が持つ情報を他社と共有するリスクを考慮すると実現は難しい恐れがあります。

③配送料金の統一

配送料金の算出方法は企業によって異なります。そのため、共同配送を運用するには企業間で配送料金の算出方法を統一する、またはそれぞれの請求方法を構築する必要があります。その過程で自社の機密情報(配送費など)がパートナー企業に伝わってしまうリスクがあります。

④企業の利益や都合の優先

 共同配送は複数の企業が協力して成り立つシステムであるため、参加者全員が意見統一する必要があります。しかし、企業の利益や都合が優先されることがあり、意見がまとまらなくなる可能性があります。

以上の懸念点をクリアできれば、共同配送はコスト削減と環境取り組みの両方を実現できる有効な手段となるでしょう。

2.人材確保に有利

2つ目のメリットは、人材採用で有利になるという点です。ESGのうち「S(社会)」の取り組みに含まれる「従業員が働きやすい環境づくり」を例に挙げます。「働きやすい環境づくり」の実現のためには、物流企業、荷主企業の双方からのアプローチが必要となります。物流企業がやるべきこととしては、倉庫の空調管理・お手洗いや休憩スペースの確保といった倉庫作業員の職場環境(設備)の改善などが挙げられます。荷主企業がやるべきこととしては、ドライバーの手積み手降ろしの排除・待機時間短縮といったドライバーの労働環境改善が挙げられます。

こうした労働環境の改善ができているかどうかは、求職者が求人に応募する際に重視するポイントになります。特にドライバー採用では、待機時間が長い、手積み手降ろしの作業があるなど、ドライバーに負担のかかる職場には応募が集まりにくい傾向にあります。慢性的な人手不足にある物流業界では、ドライバーに負担のかかる労働環境のままでは、ますます人材確保は困難になっていきます。

そのため、物流企業・荷主企業の双方が働きやすい環境づくりを進めること(ESGのうちS(社会)の取り組み)によって、人が集まりやすくなり、人手確保が困難な物流業界において人材確保で他社より一歩リードできる可能性が高まります。

3.他社との差別化要素としてのESG

3点目のメリットは、「ESG経営への取り組みが新たなビジネスチャンスに直結する」という点です。例えば、E(環境)の例を挙げます。GHGプロトコル(注2)によると、CO2削減はスコープ1から3までのフェーズがあり、このうち物流業界でのCO2排出はスコープ3にあたります。(図2)

(図2:環境省「グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム」より船井総研ロジ作成)

スコープ1や2の排出主体である製造業は、CO2削減の取り組みが比較的進んでいると言われていますが、スコープ3のCO2排出削減はいまだ進んでおらず、ESGにおける今後の課題といわれています。そのスコープ3の領域において、CO2削減削減の取り組みを推進することで、ESG経営の視点から新たなパートナー(提携先)を探している企業との新たなビジネスチャンスにつながる可能性が高くなると考えられます。

また、ESGのE(環境)面だけでなく、S(社会)やG(ガバナンス)に関しても同様に、ESG経営に取り組んでいるかどうかがパートナー選定基準の1つとなりつつあり、ESG経営に取り組む重要性はますます高まっています。

ESGで注意すべきポイント

ここまで、ESG経営に取り組むことの戦略的メリット3選を解説いたしました。しかしESG経営には注意すべきポイントもあります。最後に注意すべきポイント2点についても解説いたします。

グリーンウォッシュ

注意すべきポイントの1点目は、企業経営を見かけだけクリーンに見せる「グリーンウォッシュ」と呼ばれる行為です。グリーンウォッシュは実際には環境に十分配慮していない商品やブランドについて、パッケージやPRなどを通じて「エコ」「環境にやさしい」といった誤った印象を与える行為のことで、海外(イギリスやフランスなど)ではガイドラインの作成や、グリーンウォッシュを規制する法令の整備が進んでいます。(注3)日本ではまだ規制整備は進んでいませんが、自社のESG取り組みがグリーンウォッシュと判断されるとコンプライアンス上のリスクとなります。

例えば、外資系のアパレルチェーンA社では、実際は環境に配慮していない商品を「サステナブルな素材を少なくとも50%使用」など消費者の誤解を招くマーケティングを行ったとして集団訴訟が行われ、同社は企業としての信頼を大きく損なう結果となりました。このように自社の取り組みが「グリーンウォッシュ」であると判断されないよう、対外発信は慎重に進める必要があります。

第3者機関による評価+対外発信の必要性

注意すべきポイントの2点目は、第3者機関による評価と対外発信です。ESG経営は自社だけで完結できる取り組みではなく、第3者の客観的な視点から見た評価評価によって、ESG投資市場における自社の立ち位置が決まります。そのため、自社でESG経営を推進する際は実際の取り組みと併せてESG評価機関(注4)などを活用していく必要があります。

まとめ

ここまで、ESG経営は企業にとって社会的義務であると同時に、経済的リターンも見込める新たなチャンスであることをお伝えしました。前回記事(「物流業界でESG経営が進まない理由」)でご紹介したとおり、物流業界ではまだESG経営が進んでいないという現状がありますが、業界として取り組みが進んでいないからこそ、先進的に取り組んだ企業では新たなビジネスチャンスや経済的メリットを得る可能性が高まります。

ぜひ本記事を自社のESGロジスティクスを推進するきっかけにしていただければ幸いです。

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<参考文献>
注1:ESGに関連する補助金一覧
①「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」 経済産業省
②「需要家主導による太陽光発電導入加速化補助金」 経済産業省
③「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」 経済産業省
④「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業」 環境省
⑤「グリーンリカバリーの実現に向けた中小企業等のCO2削減比例型設備導入支援事業」 環境省
⑥「既存建築物省エネ化推進事業」 国土交通省

注2:世界環境経済人協議会(World Business Council for Sustainable and Development:WBCSD)と世界資源研究所(World Resource Institute:WRI)が共同で作成した、事業者の温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gasの略称)を算定・報告するにあたっての標準ガイドライン

注3:グリーン・クレーム・コード(環境対策をうたう企業や商品の表現に関するイギリスのガイドライン)

注4:「ESG評価機関等の紹介」日本取引所グループ

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