貨物鉄道輸送の現状とこれから

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朝比奈 実央

船井総研ロジ株式会社
ロジスティクスコンサルティング部

小売業や卸売業、製造業(自動車、化学品、機械など)といった幅広い分野におけるコンサルティングに従事。特に物流コスト適正化や現場改善、物流リスク評価などを得意としている。

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モーダルシフトを検討する際、ますます関心が高まっているのが貨物鉄道輸送です。実際、環境問題への懸念の高まりに伴い、貨物鉄道を利用したモーダルシフトの取り組みは年々拡大傾向にあります。

そこで今回はモーダルシフトのうち貨物鉄道輸送について、メリットやデメリット、導入の際に注意すべきことなどについて解説していきます。

貨物鉄道輸送のメリット

貨物鉄道輸送を導入するメリットは、以下4点です。

①CO2削減効果

貨物鉄道輸送は、全輸送手段のなかで最もCO2排出量が少ない輸送手段です。(下図参照)実際、ある国内の小売事業者は、トラック輸送から鉄道輸送に転換したことにより、6か月でCO2排出量の87%削減を実現したという事例もあります。このことから、貨物鉄道輸送は特にCO2削減効果が高い輸送手段であることが分かります。

脱炭素経営の取り組みが企業に求められる今、多くの荷主企業にとって貨物鉄道輸送は重要な選択肢の1つとなっています。

日本内航海運組合総連合会「内航海運の活動」 より船井総研ロジ作成 ※二酸化炭素排出原単位:貨物の輸送量1トンキロあたりのCO2排出量

②トラックによる長距離輸送削減

貨物鉄道輸送は、トラックによる長距離輸送の代替となるというメリットがあります。昨今、ドライバー不足や、働き方改革によるドライバーの拘束時間短縮などにより、トラックによる長距離輸送の継続が困難になりつつあります。

そこで大量輸送・長距離輸送が可能な鉄道輸送の需要が高まっています。
ただし、貨物鉄道は長距離輸送では割安になりますが、中・近距離の輸送では逆にコストアップになる可能性があります。モーダルシフトの効果を最大限発揮するためには、工場や倉庫などの拠点を鉄道駅の近隣に移転するなど、拠点の再編成とセットで検討することをお勧めします。

③安定した輸送の実現

渋滞により遅延が発生しやすいトラック輸送と異なり、貨物鉄道輸送は運行時刻が決まっているため、日々安定した輸送が可能となります。日本貨物鉄道によると、2021年の定時運行率は91.6%となっており、貨物鉄道が安定した輸送能力を有していることが分かります(注1)

ただし後ほどご紹介するように、鉄道輸送は天候不順等の影響を受けやすいため、運行が停止した際の代替輸送手段などを事前に検討しておく必要があります。

④利用ハードルの低さ

貨物鉄道は、トラックの輸送ロットと同等の輸送ロットで配送が可能なため、今まで通りの輸送単位を維持しながら輸送モードを変更できるというメリットがあります。例えば貨物鉄道で使用する31フィートコンテナは、大型トラック(10トン車)と同等の積載容量となっています。

一方、内航船の場合は、20トントレーラーでの輸送が主流となるため、まとまった荷物量を確保する必要があります。荷物量の確保(ロットアップ)には工場の再編や倉庫レイアウト、リードタイムの変更などが必要となり、導入コストが高くなってしまいます。

このように比較的利用ハードルが低い貨物鉄道輸送は、ESG経営が求められる荷主企業にとって、より身近な選択肢と言えるでしょう。

貨物鉄道輸送のデメリット

一方、貨物鉄道輸送を利用する際に注意すべきは、「リードタイム」と「BCP」の2点です。

①リードタイムの悪化

鉄道輸送ではトラック輸送と比較するとリードタイムが長くなります。これは、貨物駅でコンテナの積み替えや入換作業(貨物列車到着後、機関車で架線のない荷役線(注2)までけん引する作業)が発生するためです。また貨物鉄道では、運行時刻が決められているため、鉄道の運行時刻に合わせたオペレーション変更(庫内作業のスケジュールや納品日、発注締め時間の変更など)を併せて検討する必要があります。

図1:鉄道貨物輸送の流れ

②BCP

貨物鉄道輸送は、自然災害などの影響を特に受けやすい輸送モードです。例えば、2022年8月3日に発生した東北地区の大雨に伴う土砂災害等により、東北地方の奥羽線等が65日間不通となり、貨物輸送も停止する事態となりました。(注3)このように、自然災害により線路に障害が発生すると復旧に時間を要することがあり、必要な荷物を長期間お客様にお届けできないという事態が発生する可能性があります。

こうした事態を受け、貨物鉄道は以下のような取り組みを進めています。

  • ①最寄りの中間駅でコンテナを取卸し、トラックによる代行輸送を手配
  • ②長期間線路が不通になる場合には、不通区間を迂回する列車を運行し、貨物の輸送ルートを確保(注4)
  • ③貨物駅をクロスドック拠点として活用(注5)

このような対策は徐々に進んでいますが、商品の安定供給を実現するには、輸送モードを複数確保しておくなど、荷主側の準備も欠かせません。

まとめ

内航船と同様に、トラック輸送と比較すると鉄道輸送のリードタイムが長くなり、荷主視点では利便性が低下する傾向にあります。導入を検討している荷主企業はリードタイムの緩和が可能な商品がないか、自社の物流体制と併せて確認したいところです。商品の出荷頻度や商品特性を考慮し、リードタイムの緩和が可能な商品を選別し、関係各社との調整を図る必要があります。

また、貨物鉄道輸送は災害等からの復旧に長期間運行停止になるリスクがあります。そのため、完全に貨物鉄道輸送にシフトするのではなく、トラック輸送と鉄道、鉄道と内航船など、輸送モードの複線化によってリスク分散しておくことも重要です。ぜひこうした視点を自社のモーダルシフト推進に活かしていただければと思います。

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<参考文献>
注1:「モーダルシフトとは」/日本貨物鉄道株式会社
注2:荷役線とは、荷役のみを行う路線のことです。反対に、列車の発着を行う路線は「着発線」といいます。通常、着発線には架線(電線)があり、荷役を行うフォークリフト等が接触する可能性があるため、荷役のみを行う路線として架線のない荷役線を設けています
注3:「豪雨被害の東北鉄道、運休長期化も 奥羽線は10月再開へ」/日経新聞
注4:危機管理への取組み/日本貨物鉄道株式会社
注5:「災害時の鉄道コンテナ輸送に関するバックアップ体制の構築について」/日本貨物鉄道株式会社
大規模な災害等で鉄道輸送網の一部が寸断した際、物流の安定供給を図るため、全国の貨物駅をクロスドック(商品を荷受けして直ちに需要先に仕分けして発送する、積み替えを中心とした物流拠点)として活用しています。クロスドックで積み替えられたコンテナは、列車が運行している区間の貨物駅までトラックで代行輸送されます。この取り組みにより、鉄道コンテナ輸送のサプライチェーンの維持が可能になっています。

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