株式会社きくや美粧堂

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田代 三紀子

船井総研ロジ株式会社 執行役員 兼 コンサルティング本部 副本部長

製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い、物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして、脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。

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 今回は株式会社きくや美粧堂 サプライチェーン部サブリーダー阿部梨香様(写真左)、同部 深瀬友美様(写真中央)、同部 青木瑠衣様(写真右)にインタビューを実施しました。
 同社は美容室向け化粧品および美容機器を取扱う専門商社です。取扱いをしている商品の多くが化粧品ということもあり、商品を取扱う物流センターで働く従業員(アルバイト含む)は女性が多数を占めております。
 「物流女子」を推進している中、活躍されている女性社員の方々にお話しを伺いました。

“アルバイトからのスタートで正社員になりました”

-入社から現在に至るまで、経緯について教えてください

(阿部様)「私と深瀬は2009年にアルバイトとして入社し、2015年に正社員へ登用され、現在に至ります。アルバイトから正社員への登用制度がありますので、正社員を希望される方には常に正社員になるチャンスが与えられている形になります。しかし、実はアルバイトから正社員になったのは私と深瀬が初めてでした。物流という業界がそうなのかもしれませんが、自ら何かをやる、考えるといったことをあまりやりたがらない人が多いのかもしれません。 アルバイトで入社したとき、“正社員登用制度有”ということを知っていましたが、そのことを頭の片隅に置いたまま時間が過ぎていました。チャンスがあるのであれば、正社員登用へチャレンジしようと思い、正社員登用の試験を受けました。」

(青木様)「私は2016年12月に入社したばかりです。実は弊社を受けるまで、公務員を目指して勉強をしていたため、入社するまではアルバイト生活でした。 周囲の人たちが社会へ出て働き始める中、友人から“働き始めるとこれまでの環境が違い、考えが変わるよ”と言われていました。正社員として社会で働きたいという気持ちもあり、色々と企業を調べている中で弊社を知りました。もともと美容に興味があったので、入社試験を受けました。」

(深瀬様)「私は美容学校に通っていましたので、学生時代から弊社のことを知っており、興味があり、まずはアルバイトとして入社をしました。」

“掲示物の作成により誤出荷防止対策”

-現在はどのような業務に従事していますか?

(阿部様)「作業面では商品の検品・梱包、アルバイトの方へ作業面の指導をしています。あとは事務面で採用活動や求人原稿の作成を行っています。
作業は商品の入荷・管理・出荷・返品・取り寄せといった業務毎に担当社員がおり、アルバイトへの指導をしています。私は出荷を担当していますが、アルバイトは業務毎に担当が割り振られているわけではないため、当日の物量によって業務の割り振りをしています。アルバイトとして自分が作業面で経験したことを、今度は社員としてアルバイトへ指導や改善を進めていく立場になりました。過去の作業を思い出しながら、ここを改善したらよかったな、と感じたところの改善を進められる立場になっているので、やりがいを感じます。」

深瀬様が中心となり作成された掲示物です。誤出荷防止に努めています

(深瀬様)「私は商品管理と取り寄せの対応をしています。商品管理は、棚の配置決め、商品の補充です。あとは環境整備と呼んでいる作業ですが、例えば出荷時に2つで1セット出荷する商品を分かりやすくするため、間違いが起きないよう掲示物の作成をしています。
取り寄せは在庫品ではない商品の入荷から出荷までを担当しています。商品管理、取り寄せ、各々の作業バランスを見ながら行っています。」

(阿部様)「掲示物は、ほぼ深瀬が中心となって作成しています。掲示物の改善は常に行っていますね。」

(青木様)「私は当日の出荷量に応じて、アルバイトの方々へどの作業を行ってもらうのか指示をしています。出荷のピークは月曜日と火曜日ですが、出荷が確定するのは当日なので、ふたを開けてみないと分からないということがあります。過去に出荷量が多すぎて、人の割り振りがうまくいかず、人手が足りなくなって苦労したこともありました。」

(阿部様)「青木が知っているレベルはまだ甘い!(笑)青木が経験した以上に人手が足りないときもありました。しかし、今は大分落ち着きました。物量は確実に増えていますが、人が定着していることで、作業効率がアップし、その結果、残業も大分減りました。」

“クロストレーニングによる作業効率アップと目安箱設置による意見の吸い上げを実施”

-作業の効率アップ・人の定着率アップにあたり、何か取り組まれたことはありますか?

(阿部様)「現在も継続していますが、作業効率アップのためクロストレーニングを実施しています。全員が全ての作業をできるよう、トレーニングをしています。あとは、“資材の最適化プロジェクト”において、無駄を省く取組をしました。例えば、梱包時のテープは1本で行う、緩衝材やダンボールサイズの変更等、作業や資材を一つ一つ見直して、無駄を省くことで作業効率が上がりました。
定着率アップについては、残業が減ったという点が大きいと思います。弊社はとにかくにぎやかなんです。みんなが、“こうしてほしい”といった意見を出してくれるので、その意見に対して可能な限り改善を進めているところが定着率アップにつながっていると思います。現場では、業務で感じたことを口に出してくれる文化が定着しています。極端な例ですが、分かりやすく言うと、“次にこれをやってください”と指示をすると、“なんで?これ、やりたくない”と(笑)。この点に関しては、人の割り振りをしている青木が一番苦労していると思います。
自由に意見がしづらい環境の場合、嫌な想いを持ち続けたままで、気づいたらいなくなっていた、という方も過去にはいました。そのようなことを防ぐためにも、アルバイトの方へ契約更新時期に面談を行っています。事前アンケートとして、不満に思っていることや、今年の自分のパフォーマンスは何点か、といった評価を記入してもらいます。そういった中で色々なことを聞きながら解決をしていきます。

休憩室に設置している目安箱。働く人の意見を積極的に取り入れています。

あとは、休憩室に目安箱を設置しています。何かあったときは、意見を書いて投稿してくださいといったものです。これまであった意見としては、“フロアが暑いので、なんとかしてください”といったフランクなものから、作業の中で気になったことを意見として投稿してくれました。職場環境を含め、働いている方の意見は重要ですね。」

“グッジョブ表彰によるアルバイトの評価制度を作りました”

(阿部様)「アルバイト時代、アルバイトの働きを評価される機会はないな、と感じました。そのため、正社員になってからアルバイトの方を評価するのは難しく感じました。もちろん時給アップが直接的な評価ではありますが、毎年時給アップもなかなか難しい状況です。何か違う形でアルバイトの方へ評価をできないものか、と思っていました。その経験を踏まえ、“グッジョブ表彰”と称してアルバイトの方々を表彰する制度を設けました。基本的には社員の推薦により表彰され、実績賞・精勤賞・努力賞の3種類の表彰を行っています。実績賞は名前のとおり、作業のスピードが速い、嫌がられるような仕事を率先してこなしている等の視点で評価します。精勤賞は休まずに出勤した人に、努力賞は実績賞には少し足りないが、実績賞にほぼ値するような賞になります。実績賞は表彰される人数も限られていますので、あともう一歩頑張れば実績賞に該当する方が表彰されています。
毎朝9時から朝礼があり、そのときに表彰式を行います。表彰式に忙しい合間を縫って社長が参加したときもありました。表彰制度は3ヶ月に1回行っています。働いている方の中には、黙々と作業をしている方も多いので、その中でちゃんと自分のことを見てくれている、と感じてもらえると仕事のモチベーションも変わってくると思います。」

お客様に喜んでいただけるよう季節に合わせたダンボールをデザインしました。お客様から大好評でした!

“商品の取扱い知識を深めるための勉強会を開催”

(阿部様)「センターで取扱うメーカーさんが多岐にわたるため、定期的に各メーカーさんにセンターへ来ていただき、商品に関する勉強会を開催しています。業務終了後の30分程度ですが、アルバイトの方を含め多くの方が参加しています。

ある商品の説明会の時にはネイリストの方に来ていただいて、希望者全員がネイルの体験をしました。このような活動は定期的に開催している社内販売にもつながります。

また日々ピッキングや梱包をする中で、どのような用途で使用する商品なのか、どのように取扱えばいいのか、化粧品を取扱う仕事をしているので、せっかくだから勉強をしてみよう、と積極的な方も多いです。」

ジェルネイル体験勉強会の様子です。
商品説明を受けた後は、お待ちかねのジェルネイル体験。自分の順番がくるまで楽しみにしながら待っています。

“アルバイトの方々とコミュニケーションを取れるか不安でしたが・・・”

-仕事上の成功談、嬉しかったことはなんでしょうか?

(青木様)「入社したばかりのころ、アルバイトの方より私のほうが年下でした。そのような環境の中で、アルバイトの方々とコミュニケーションを取れるのか不安でした。しかし、業務で色々な人と関わることで話す機会も増え、入社したばかりの頃“この人たちとは話せないだろうな”と思っていた人たちと、よく話せるようになりました。センター内のアナウンス(放送)を担当していますが、私の言葉遣いが変で、アルバイトの方から“さっきのアナウンス、変だよ”と笑って話しかけてくれたことがありました。特別なことをした自覚はありませんが、仕事上でたくさん話しかけたり、話しかけてもらったりする中で、自然と人間関係ができたように感じます。」

(深瀬)「美容学校に通っていたこともあって、センターで取扱っている商品知識は豊富です。 社内販売があるのですが、そのときに“どれを買ったらいいかな?おススメは?”と聞いてくれるので、そういったところで頼りにされつつ、周りの方々とコミュニケーションを取れていると感じます。」

休憩室にセンターで取扱いをしている商品のサンプルを展示しています。
休憩中は社内販売のときにどれを買おうか、作戦会議が開かれています。

-逆に失敗談、苦労したことはなんでしょうか

(深瀬様)「商品のチラシを作成したとき、商品名(アルファベット)の大文字・小文字の表記を間違えてしまったことです。チラシを印刷した後に気づきました。細かいことなので、気づかない人もいましたが、私にとっては非常に気になりました。同じようなことを繰り返さないように、今では確認作業を徹底して行っています。」

“ミルフィーユ梱包、モンブラン梱包?!”

-物流現場における女性視点や、女性ならではの気づきはなんでしょうか

(阿部様)「梱包作業の指導をしていますが、梱包方法に名前をつけています。 “ミルフィーユ梱包”や“モンブラン梱包”といった名称をつけて皆さんに注目してもらいつつ、楽しみながら作業をしてもらいたい、という想いから名前をつけました。」

ミルフィーユ梱包のマニュアルです。名前を聞いただけでお腹がすいてきそうです

“作業し易い台車、華奢凛(キャシャリン)の導入”

(阿部様)「作業用台車をオリジナルで作成しました。 脚立がついていますので、高い場所でも商品を取ることができます。また空きダンボールを畳んで収納するスペースがあります。ピッキングに想定される作業がこの台車1台で対応できますので、作業の効率化にもつながります。“華奢な女性でも凛とした姿勢で作業ができる”といった意味をこめて“華奢凛”と名称がつけられました。」

オリジナルマテハン「華奢凛(キャシャリン)」
スプリングにより、台車天板が商品の重さで昇降し、最も取りやすい高さで作業が出来、腰への負担軽減となります

“もっとキレイでおしゃれな物流センターにしたい”

(青木様)「私たちが働いているセンターは“倉庫の仕事”という印象が強く出ていると感じます。女性が多く働いていますが、倉庫というイメージが強すぎて、何も知らない方からすると、入りづらいのかなと思います。もう少し、キレイでおしゃれになればと。」

(阿部様)「他のセンターを見学する機会がないので、私たちの基準がここのセンターになります。美容関連のセンターで、この倉庫?と思っていますが、他のセンターの様子も気になります。」

(深瀬様)「細かいところからいうと、フロア全体の見た目をよくしていきたいです。例えば、棚の中で商品同士の間を仕切る棚枠は、全部ダンボールで作っています。手作り感満載なところをもう少し手を加えておしゃれにしたいなと考えています。」

出荷単位が分かるように仕切り板を使用しています。カラフルな仕切り板ですね。

取材後記

 アルバイトの方々を含めた教育体制、表彰制度は非常によい取組だと思います。「誰かが、自分のことを見てくれて、評価してくれる」と感じてもらうことが、仕事へのモチベーションアップにつながります。人の確保がますます厳しくなる中、いかに定着率をアップするかは、どの企業においても課題となります。人の取り合いではなく、今働かれている方に長く働き続けてもらうためにはどうしたらよいか、気持ちよく働ける職場とは何かを考え、企業全体として取り組むことが重要になってきます。

  • 今回取材させていただいた企業

    会社名
    株式会社きくや美粧堂
    設立
    1956年1月
    資本金
    4300万
    代表者
    代表取締役社長 増保 利行
    従業員数
    400名
    事業内容
    美容室向け毛髪化粧品および美容機器等の専門商社
    URL
    https://www.kikuya-bisyodo.co.jp/

Pen Iconこの記事の執筆者

田代 三紀子

船井総研ロジ株式会社 執行役員 兼 コンサルティング本部 副本部長

製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い、物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして、脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。

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