物流取引における”レピュテーションリスク”はありませんか?
2024年6月6日に公正取引委員会が、2023年度に実施した「物流取引に関する調査」の結果を公表しました。荷主という優越的な地位を利用した結果、独占禁止法に違反する恐れがある行為が見受けられた事業者に対して注意喚起を行いました。
独占禁止法上の禁止行為の一つに「不公正な取引方法」の規制があります。この規制には「一般指定」と「特殊指定」と呼ばれるものがあります。「一般指定」は全ての業種に適用されますが、「特殊指定」は特定の事業分野を対象としています。物流取引においては、後者の「特殊指定」に該当し、「物流特殊指定」として取り扱われています。では、なぜ物流が「特殊指定」となっているのでしょうか。
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多重下請け構造に対応するための「特殊指定」
物流事業者の規模は多重した構造で、ピラミッド状になっており、末端にいくほど零細な事業者になります。このような状況から、物流業界における優越的地位の濫用を判断するには「一般指定」では機敏に判断・対応ができず、適正化を図ることが難しいといった背景から2004年に物流取引の分野を対象として適用する特別なルールとして「物流特殊指定」が導入されました。ちなみに、特殊指定は3つあり、そのうちの1つが物流特殊指定です。その他の特殊指定は
- ・新聞特殊指定・・・大手新聞社と全国にある販売店との間で問題が生じる際に適用される
- ・大規模小売業告示・・・ドラッグストア、スーパー、百貨店など一定の売上規模がある、大規模小売業者と納入業者との間で問題が生じる際に適用される
その他に過去には「教科書特殊指定」「海運特殊指定」などがありましたが、運用実績があまりない特殊指定は一般指定に統合され、廃止となり、現在では特殊指定は3つとなっています。
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適正な物流取引の実現には荷主企業側の行動も大切
物流取引、つまり、物流特殊指定上、問題のある行為として、公正取引委員会が行なった直近の調査結果と前回の調査結果を比較してみましょう。
違反行為の恐れがあるとして注意喚起を行った件数は、前年度917年に対して、直近の調査では687件となっており、前年度比25%減となっております。行為別でみると最も多いのは、前年度、直近の調査どちらにおいても、「買いたたき」となっており、前年度246件から直近調査239件となっており、前年度比3%しか減少していませんでした。
「買いたたき」とは、「価格交渉」のことです。荷主という優越的な立場を利用して、一方的に物流事業者に対して、価格を決定(据置きなど)することです。荷主としては、コストは抑えたい、値上げは受け入れたくない、と考えるのは当然のことでしょう。
しかし、人件費や燃料などの原価高騰は物流企業の自助努力だけでは対応できません。適正な物流取引、つまり、適正価格(運賃、作業料など)で取引できなければ、物流企業の経営自体にも影響を及ぼします。その結果、荷主企業には、「荷物が運べない」というリスクや、「価格交渉に応じてくれない荷主」というレッテルをはられ、最悪の事態では社名公表というリスクも孕んでいます。
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最後に
ESGロジスティクスの実行において、G(ガバナンス)の観点から、物流取引の適正化、コンプライアンス遵守をすることが必要です。意外と、自社は価格交渉をしているから問題ない、と思っていても、適正な交渉がなされていなければ、社名公表リスクは残っています。
「何をしたらよいか分からない」といった状況の場合、まずは荷主自ら物流事業者に対して、取引内容や価格に関する申し入れや意見交換をする場を設けるところから着手してみてはいかがでしょうか。まずは行動に移すことが、リスク回避の第一歩です。
【参考】
公正取引委員会 令和4年度および令和5年度 荷主と物流事業者の取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について
・https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/jun/230601_buttokuchousakekka.html
・https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jun/240606_buttokuchousakekka.html
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