荷主企業がトラック運送事業者と適正な運送料金水準を決めるにあたり検討するべきこと
2017年頃から運送料金の改定交渉が始まっておりますが、荷主企業とトラック運送事業者との間で取り交わされている契約料金は、時流に適った運賃水準になっていない場合が多いのではないでしょうか。
運送事業者全体(6万2,176社)のうち、約94%(5万8,189社)は中小零細規模のトラック運送会社(車両保有台数50台以下)となっています。
また、中小零細規模のトラック運送事業者では、9年連続の営業赤字からようやく脱却したものの、会社業績を表す営業利益率の全体平均値は1%以下というのが実態であり、料金改定による業績改善は限定的となっています。(全日本トラック協会 経営分析報告書平成28年参照)
この業績を示す指標が低いという実態と企業規模が中小零細であるという状況を鑑みると、トラック運送事業者が単独の経営努力だけで経営の安定化を図ることは相当厳しいと思われます。
今後、荷主企業が安定的な物流サービスを運送事業者から享受するためには、①実態に即した適正な運賃料金に改定することと②荷主が必要とする物流サービスの見直しの二点を検討していくべきだと考えています。
2017年後半より中小零細規模のトラック運送会社においても、荷主企業に対して運賃料金の改定要望を提案している会社が多くなってきています。
今回に関しては大半の顧客は運送料金の改定が実施されています。
しかしながら、運送料金の改定が実施されていたにも関わらず、トラック運送事業者の会社業績の改善がそれほど顕著に表れていない実態(船井総研ロジ運輸セクター分析による)を踏まえると、まだ適正な料金水準とは乖離していると想定されます。
そこで今回は、トラック運送事業者が荷主企業に提供している運送サービスに基づいた運送料金の適正性ついて検討していきます。
まず荷主企業は、今回のトラック運送事業者から運賃改定の要請を、単なる「値上げ」ではなく、「適正運賃」に向けた新しい取り決めをするものと意識する方が良いと考えています。
また、荷主企業が「適正な」運送料金を運送事業者に支払わない場合、今後はトラック運送事業者からの申し出によって取引を停止することが起こりうることが予測されます。
なぜなら、ほとんどのトラック運送事業者の経営基盤は脆弱であり、このままでは事業継続の危機に立たされる可能性があるからです。
また、労働力不足の問題に加えて、政府の働き方改革の一環で、8割超の運送事業者が労働法違反で労働基準監督署による指導を受ける可能性があると言われており、これらの対策を講じることでコスト増加要因となります。
これら何らかの理由で、トラック運送事業者が荷主企業との取引関係から撤退した場合、荷主企業は、運送事業者が提供する運送サービスを受けることができなくなり、最悪の場合は、荷主企業の経営継続にとって最大の危機となります。
では、どのようにして、荷主企業は、運送サービスを継続的に享受して経営の安定ができるのでしょうか。
その解決策を実行するには、次の三つ方法があると考えます。
(1)荷主企業は、物流効率化のために物流マネジメントを実施するべきです。物流への理解を深めて自社の物流体制にあらためて向き合うことが必要だと考えています。
(2)既存の運送サービスを明確に取り決めることが必要です。
(3)運送原価を把握した適正な運送料金の設定が必要になります。
(1)経営者がおこなう物流マネジメントの一例として考えられること
①経営者が物流を制してビジネスを制するために、物流について戦略的な思考で考える
②需要予測を分析しながら、計画的にトラックの確保をする
③物流の可視化をする(何が、いつ、どこから、誰がどれだけ運ばれているか)
④トラック配送の適正化について担保する
(2)運送サービス内容についてコストを明確にする
既存の運送サービスにおいては多種多様となっており、単なる輸配送だけではなく、付帯業務(検品や仕分け)も運送サービスの一環に含まれていることがあります。
ただ、付帯業務に必要な労働時間が運送原価に含まれていない場合は多々あり、これを是正する必要があります。
そこで、2017年11月に運送契約の基本となる運送約款が改定され、今後は、待機時間や付帯作業分のコストを運送料金と明確に切り分ける必要があります。
(3)トラック運送事業者の正確な運送原価を把握して、運送料金を設定する必要性
まず荷主はトラック運送事業者の経営状態を把握し、運送原価の構成要素別にコストを理解しなければなりません。
そして、条件付きの運送原価については、正確な運送原価を把握しなければなりません。
①荷主が委託しているトラック運送事業者の決算書を確認することが必要だと思います
②運送原価の構成要素とは、a)「車両」にかかわる原価、b)「保険料」にかかわる原価、c)「燃料油脂費」にかかわる原価、d)「修繕費」にかかわる原価、e)「人件費」に要する原価、f)その他運送費にかかる原価e)一般管理費などがあります。
③運送原価算出の留意点としては、たとえば、運送原価は「条件の設定次第」で単位あたり運送原価(距離別・時間別など)は変化することを理解しなければなりません。
このよう(1)(2)(3)の視点から、荷主企業とトラック運送事業者とは、双方の役割分担を明確にして、運送原価に基づいた適正な運賃水準を設定する必要があります。
そうすることで取引関係を維持継続して信頼関係を構築することができると考えています。