第172回 物流アウトソーシングの落とし穴(5)~物流アウトソーシングのコツ~
■物流システムの要件定義書は荷主企業のノウハウ(その2)
自社システムで倉庫や配送センターの運営を行っている企業が、物流アウトソーシングを実行する際には、物流管理システムを持ち込むケースと、物流企業へシステムを含めた範囲で委託するケースに分かれます。
自社の基幹システムと連動した物流管理システムは、開発時に要件定義を行い業務フローを作成した後にシステムフローへ落とし込みを行います。
この場合、物流管理に必要な要件定義書は荷主企業のノウハウとして残ります。
その一方で、物流企業へシステムも含めたアウトソーシングを行う場合は、開発や設計に携わることもなく、全てを物流企業へ委託してしまうことが多いようです。
物流オペレーションは、分業施策によって専門会社へ委託しますが、物流管理は荷主企業へ残された重要な役割です。
荷主企業が物流システムの保有を止めて、オペレーションとシステムを一体化アウトソーシングすることは時流といえますが、ここに大きな”落とし穴”が潜んでいることに気付かない企業は少なくはありません。
自社で物流システムの保有をしないという理由で、システム開発に関する要件定義書の作成を物流企業へ一任すると、アウトソーシング後に管理ノウハウも流してしまうからです。
センター運営の作業は分業しても、ナッレジ部分は自社に留めておかなくてはなりません。
将来何らかの事情で委託先物流企業との間に不具合が発生し、委託先変更や自社運営に戻すことが起こった場合、センター運営に関するノウハウが社内に無くなってしまうからです。
荷主企業のリスクを設定するうえで、作業の分業とナレッジの分業は別である旨を十分に認識しておかなくてはなりません。
■物流アウトソーシングのコツ
アウトソーシング後のWMS(ウェアハウス・マネジメント・システム)は、委託先物流企業の資産となります。
不測の事態によって委託先変更を余儀なくされた場合、自社の業務フローや物流システム概要設計図などがあれば、想定される被害も最小限で防げます。
しかし、アウトソーシング後に物流オペレーションに関するノウハウが何ら社内に残っていない場合は、極めて大きな混乱が予想されます。
稼動しているWMSのソフト・ハードは物流企業の資産となりますが、開発時は自社の物流管理ノウハウを提供する訳ですから、システムとして完成するまではそのノウハウを共有しておくことが肝要です。
物流アウトソーシングにおいて、オペレーション(作業)とナレッジ(ノウハウ)は切り離して考えることが荷主企業の失敗しない”コツ”であり、リスクヘッジとなります。
次号に続く。