物流オピニオン 2019.05.22

物流会社のコンプライアンス違反は荷主の責任!! 「貨物自動車運送事業法」改正に伴う荷主への影響

1.はじめに

2018年12月8日に参議院において「貨物自動車運送事業法」の一部改正に関する法案が可決、成立しました。この法律は、平成元年に制定され貨物自動車運送事業者に対して事業の適正化や合理化を推進するとともに健全な発達を図ることを目的として施行されています。要するに運送事業者に対する法律です。しかし、今回の法律改正で荷主に対する事項も追記され、荷主も無視できない法令となりました。
そこで今回は貨物自動車運送事業法改正に至る背景と荷主に係る改正内容を解説していきます。

2.法改正に至る背景

今回の改正におけるポイントは「悪質な運送事業者の排除」と「荷主対策の強化」です。古くから物流業界のパワーバランスは「荷主>物流企業」でした。しかし、昨今の深刻なドライバー不足とEC市場の拡大をはじめとした配送業務の増加により需給バランスは大きく変化し、そのパワーバランスは逆転している状態です。
本法令の改正に至っては、働き方改革関連法案にある「罰則付き時間外労働規制」が大きく関係しています。運送事業者への規制適応は2023年からとされていますが、現状のまま上限規定が適応されると多くの事業者が遵守できない状態に陥ります。このことにより国内の物流機能が混乱、停止することを政府は危惧しています。そこでそのような危機的事態を防ぐためドライバーの労働環境を改善する目的で本法令の改正がなされました。
全日本トラック協会も長時間の時間外労働が常態化している現状を危惧しており、2023年までの4年間を通して時間外労働時間の削減プランを発表しています。

引用「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」(公社)全日本トラック協会

長時間労働の是正は運送事業者だけでは行えず、荷主の協力が必要不可欠です。いくら運送事業者の自社努力があっても、荷主の理解が得られなければ改善は見込めず、コンプライアンス違反となる運送事業者が後を絶たなくなります。このような「運送事業者保護」の観点から、改正内容に荷主の責任も明記されることとなりました。
既に本法律改正を受けて、大手商社や大手卸売会社が物流改善に乗り出しています。日本中の各荷主にこのムーブメントが押し寄せるのも時間の問題です。

3.荷主対策の強化

本法令改正では運送事業者が働き方改革や法令順守等を適切に推進できるように「荷主対策の強化」として荷主(元請事業者も含まれる)に関する下記3項目が規定されました。

①荷主の配慮義務の新設

・運送事業者が本法令を遵守できるよう、荷主の配慮義務を設ける

荷主(元請事業者も含まれる)が運送事業者に対して配慮することが義務化され、強制力が増しました。特に「過労運転」と「過積載の防止」について強調がされています。

②荷主勧告制度(既存)の強化

・制度の対象に貨物軽自動車運送事業者を追加
・荷主勧告を行った場合には、当該荷主の公表を行う旨を明記

荷主勧告制度に関しては、※貨物自動車運送事業法(改定前)第六十四条で規定されています。既存の規定では一般貨物自動車運送事業者もしくは特定自動車運送事業者のみに適用されていましたが、その適用範囲を拡大し軽貨物自動車運送事業者にも、この規定を適用することとなりました。これはEC事業の拡大により個人宅への宅配の件数が増加傾向であることに起因するところだと考えられます。
また、これまでは国土交通省から当該荷主への勧告だけでしたが、今後はその荷主の企業名が公表されることになります。コンプライアンス違反に対する社会の目が厳しくなっている昨今において、企業名の公表は大きな痛手となることは明らかです。

※貨物自動車運送事業法第六十四条とは
一般貨物自動車運送事業者もしくは特定自動車運送事業者が安全運行を著しく違反して業務を遂行していた際、その違反行為が荷主の指示によるところである場合、その荷主にも国土交通省から適切な勧告をすることができるという規定である。

③国土交通大臣による荷主への働きかけ等の規定の新設(時限措置)

・運送事業者の違反行為となるおそれのある行為を荷主がしている疑いがある場合
→国土交通大臣が関係行政機関の長と、当該荷主の情報を共有
→国土交通大臣が、関係行政機関と協力して、荷主の理解を得るための働きかけ
・荷主への疑いに相当な理由がある場合→国土交通大臣が関係行政機関と協力して要請
・要請してもなお改善がされない場合→国土交通大臣が関係行政機関と協力して勧告+公表

国土交通大臣は貨物自動車運送事業者が違反原因となる行為の疑われる荷主情報を各所管省庁と共有し、荷主の当該行為改善への働きかけや要請、改善されない場合においては勧告や公表をできるようになりました。また、独占禁止法違反が疑われる場合は公正取引委員会に通知することも規定されました。
※本規定は時限措置として2023年までの適応となっています

①「荷主の配慮義務」においては委託している運送事業者の労働環境等を荷主が確認する必要があります。もしドライバーの過労運転や安全な運行を担保できない環境であるならば、その原因が荷主にないか調査を行うべきです。その上で運送事業者が法令を遵守できる体制を作っていかなくてはなりません。

また、製造業をはじめとした荷主企業は国土交通省ではなく、経済産業省や農林水産省等が所管省庁となります。所管轄省庁以外の大臣が当該企業に対して勧告や改善要請、公表を受けるという②「荷主勧告制度」と③「国土交通大臣による荷主への働きかけ」は稀な規定であり、国全体で物流の環境改善に努める動向がうかがえます。

4.荷主のコンプライアンス違反

ドライバーの労働時間は1日原則13時間以内、最大16時間(月間293時間以内)と規定されています。加えて、「連続運転時間(4時間毎に30分の休憩とる)」等の規制があり、600km以上の長距離を一人のドライバーで運行することは難しいと言えます。運行時間から見て余裕を持った運行距離であれば一人のドライバーでの運行が可能です。

しかし、余裕を持った運行であれば必ずコンプライアンス違反が発生しないという訳ではありません。例えば、急な受注が入り東京の工場から名古屋の顧客(納品先)へ出発する直前に、営業担当者から「どうしても15時までに届けてほしい」との要求で10時に工場を発送します。ドライバーは荷主からの強い要求に答えようと、無理をして運行します。すると、下図のように連続運転時間の違反となり、荷主の責任を問われることになります。
注)荷主の責任になるのは強いプレッシャー(「間に合わなければ料金を払わない」等の高圧的な要求)があったことが認められた場合に限る

5.過剰な物流サービスを要求していないか

では、どのようにして自社(荷主)の責任を追及されない、物流体制を作っていけばよいのでしょうか。まずは、自社(荷主)が運送事業者に要求している物流サービスが過剰になっていないかを整理する必要があります。
弊社が荷主企業へのコンサルティングを実施している中でも、営業担当者がお客様との間で取り交わすサービス提供の約束が物流業務の負担となっているという実態が散見されます。
運送事業者の立場からすれば、「荷主から要求される配送条件を少しでも緩く設定してもらうだけで、運送コストを削減できる」という声もあります。また、顧客(納品先)は営業担当者から提示される高度な物流サービスに対して、「できるのであればお願いする(あるから使っているサービス)」というスタンスの顧客(納品先)が多くあります。
今まで当たり前のように荷主が享受していた物流サービスの中には過剰になっているサービスが含まれている可能性が非常に多くあります。荷主企業にとっては物流企業の負担を軽減することは取引先の選択肢を増やすことにつながり、ついてはコストにも影響を与えることになります。「本当に必要最低限な物流サービスとはなにか」自社の物流体制を見直す必要があります。

6.製版物一体の物流戦略

「本当に必要最低限の物流サービスとはなにか」を整理する際にはサプライチェーン全体を通して、製販物一体とした目線で情報を整理する必要があります。荷主企業の多くは、販売に重きを置いた「物流サービス」になっていることが多くあります。特に長期間見直しされずに継続されていきた販売発信の物流サービスは過剰サービスになっている傾向があります。先述した法改正やドライバー不足等を背景に今後、物流会社にやさしくない荷主は「運べない」状況に陥ります。その前に製販物一体とした物流戦略を構築して、まずは自社にとってどのような物流サービスが最低限必要なのか見直さなければならない時期であると言えます。

7.おわりに

平成元年以前では、ある栄養ドリンクメーカーのCMにあったように「24時間戦えますか?」というような労働環境でした。しかし、働き方改革関連法案制定により「労働者が働きやすいように保護しよう」という変化が社会全体で起こり、パラダイムシフトしています。このことから法令の整備によって社会全体が変わるということが見てとれます。物流業界を見ても同じことが言えます。先述の貨物運送事業法の改正により「運送事業者を保護する社会」へと転換する時期に差し掛かっています。その中で荷主は安定した輸送網を構築していく必要があり、運送事業者への働きかけと並行しながら自社の物流を見直すことが、今後の安定的な物流を構築する上で大切だと言えます。

もし、自社で製造・販売・物流全体を考慮した「物流戦略」の構築に課題を感じられる企業様がいらっしゃいましたら、船井総研ロジにお問い合わせください。「今後の環境変化を俯瞰した、競争力のある物流戦略」の構築をご支援いたします。

参照:貨物自動車運送事業法の改正(概要)/国土交通省

Pen Iconこの記事の執筆者

小柳 宜久

船井総研ロジ株式会社

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