改正物流総合効率化法が参院本会議で可決・成立

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普勝 知宏

船井総研ロジ株式会社 ロジスティクスコンサルティング部
チームリーダー チーフコンサルタント

製造業や通販企業などの荷主企業に対し物流の改善提案を行い、物流拠点の見直しや物流業務委託先の再選定(物流コンペ)を進めてきた。物流拠点の見直しでは、コストやリードタイムだけでなく拠点BCP等のリスクも加味した提案を行っている。
また、物流業務委託先選定ではRFPの作成支援・コンペ事務局などを実行し、定量・定性両面での物流会社評価を行う。現在は物流現場の作業生産性向上や保管効率向上、5Sの導入による倉庫管理の改善に注力しており、各社の物流現場に合わせた改善手法の提供を行っている。​​

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政府は2005年10月に施行された物流総合効率化法(物効法)の改正案を2016年2月2日に閣議決定し、国会に提出しました(2016年5月2日、参院本会議で可決・成立) 。
施行から10年が経ち、その間に物流業界を取り巻く環境は大きな変化を迎えました。労働力不足の深刻化・ドライバーの高齢化・ECの発展・運送会社の運賃値上げ要求など、挙げればキリが無いほど数々の事態が生じました。物流に関わる各事業者にとって活用しやすく、メリットを享受しやすい、且つ実情に即した法改正を目指すものであると言えます。

そこで今回は年内に成立の見通しである、この物効法について概要と改正内容をお伝えします。

物効法

物効法とは物流を総合的かつ効率的に実施することにより、物流コストの削減や環境負荷の低減等を図る事業に対して、その計画の認定、関連措置等を定めた法律です。

物流において、国際競争力強化のためには国内物流システムの総合化と効率化が急務となっている一方で、京都議定書が発効し運輸部門における温暖化ガス(二酸化炭素)排出量の削減を求められています。また雇用の創出や地域経済の活性化といった観点から物流拠点整備が進められることが期待されています。

※総合化…輸送、保管、荷捌き及び流通加工などを一体的に行うことで、物流サービス水準を高めること
※効率化…物流拠点施設の集約化や共同配送、モーダルシフト、車両の大型化、営自転換などで輸配送の効率を上げること

物効法では様々な優遇措置を講じ、荷主企業・物流企業による物流効率化を促進し、上記2つの目的を実現することを目指しています。

優遇措置

物効法を活用すると企業はどういった優遇措置が受けられるのか、大きなものとして以下の4つを挙げることができます。

①事業許可等の一括取得

流通業務総合効率化事業を実施しようとする者が、倉庫業法による登録、貨物利用運送業法による登録、貨物自動車運送事業法による許可等を必要とする場合に、総合効率化計画の申請時に各業法の登録・許可等の申請に必要な事項を記載し、添付書類を併せて提出することにより、総合効率化計画の認定と同時に各業法の登録・許可等を受けられる

②営業倉庫に関する税制特例

総合効率化計画について認定を受けた営業倉庫等の施設や設備に対し、一定の要件を満たせば、法人税等の割増償却や固定資産税、都市計画税の課税標準と特例措置を受けることができる

③施設の立地規制に関する配慮

市街化調整区域において特定流通業務施設に係る開発を行う場合、開発許可についての配慮がなされる
※市街化調整区域での施設整備を想定されている場合には、総合効率化計画の申請時に、地元自治体との開発許可に係る事前調整が大切です

④資金面の支援

中小企業信用保険の付保限度額の同額別枠化、普通保険のてん補率の引き上げ、保険料率の引き下げの特例を受けることができる

その他、「港湾法の特例」「工場立地法による事務の実施についての配慮」といった物流拠点施設の設備に関わる措置、「中小企業投資育成株式会社法の特例」「食品流通構造改善促進法の特例」といったメリットも享受できるものになっています。
大手企業だけでなく中小規模の物流関連業者にとっても活用しやすい法律であると言えると思います。

税制特例の具体的な効果

税制特例を受けた場合の減税額は、建物の取得価額10億円(評価額7億円、附属設備3億円)の普通倉庫を取得した場合、約3,600万円の減税が受けられるとされています(国土交通省による試算)

◆法人税の減税額 約660万円(10%の割増償却・5年間)
◆固定資産税・都市計画税の減税額 約3,000万円(課税標準1/2、3/4・5年間)

改正概要

これまで流通業務総合効率化事業の認定を受けようとする際には「一定の規模及び機能を有する物流施設を中核とすること」が必須となっていましたが今回の改正案では、この要件を削除し新たに「2以上の者が連携して行う」ことを前提条件としました。これは効率化支援方策を、物流拠点をはじめとする「施設整備」から複数事業者による「連携」へシフトチェンジしたものです。

方針の変更は、物流事業者や荷主などの関係者が連携して物流ネットワーク全体の総合化・効率化を更に進め、省力化を図っていくことが必要であると判断したことが要因です。これはモーダルシフトや共同配送等の多様な取組みを後押しすることが狙いであるといえます。この改正に伴い、総合効率化計画は2以上の者が連携して作成することが求められることとなりました。

さらに改正案では、国の認定を受けた事業のうち、海上運送法、鉄道事業法等の許可等を受けなければならないものについては、これらの関係法律の許可等を受けたものとみなす等、行政手続きの特例を追加することが明記されました。

認定対象事業イメージ

物流分野の労働力不足への対応強化と流通業務の省力化に焦点を当てた今回の法改正は、具体的にはモーダルシフト、地域内配送の共同化、輸送網の集約が認定対象となっています。

①モーダルシフト推進

トラックによる輸送に代わり、鉄道・船舶等の大量輸送機関を活用
⇒より少ない人員での大量輸送を実現

②地域内配送共同化

積載率や運行頻度の改善により、無駄のない配送を実現
⇒荷主や地域も巻き込んで、貨物混載・帰り荷確保等の共同輸送を加速し積載率を向上

③輸送網集約(輸送機能と保管機能の連携)

流通加工も行う総合物流保管施設にトラック営業所を併設、予約システムの導入等の輸送円滑化措置を講じ、待機時間の少ないトラック輸送を実現
⇒現在45%のトラックが1時間以上の手待ち時間となっている現状を改善

他には、一部で実験的に取組みが始められている貨客混載などが促進されることが予想されます。

改正の背景

今回の改正の背景には、
・物流分野における深刻な人手不足
・ネット通販の拡大による荷主・消費者ニーズの高度化・多様化
・トラック積載率の低下
といった近年の物資流通における経済的社会的事情の変化が挙げられています。

トラックドライバーの人手不足と高齢化は歯止めがかからず、むしろ深刻化の一途をたどっています。国内物流が滞りかねない状況の中で国際競争力を強化させるには、物流効率化を更に推し進め省力化・少人化を目指すことが急務と言えるでしょう。荷主企業と物流企業、または倉庫業者と運送業者などといった物流に関わる全事業者が連携を図り、この状況を打開していく必要があります。その連携を実現させるための支援・後押しとしての本法律を活用し物流業界全体の活力としていきたいものです。

※「認定対象となる計画かどうか」「各業法との関係に不備は無いか」「認定基準を満たしているか」など、認定を受けるにあたっては最寄りの運輸局等の物流担当窓口に事前相談を行い、確認と助言を求めることをお勧めします。
【参考資料】改正物流総合効率化法案を閣議決定(国土交通省HP)

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また、物流業務委託先選定ではRFPの作成支援・コンペ事務局などを実行し、定量・定性両面での物流会社評価を行う。現在は物流現場の作業生産性向上や保管効率向上、5Sの導入による倉庫管理の改善に注力しており、各社の物流現場に合わせた改善手法の提供を行っている。​​

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