変革迫られる物流子会社のあり方

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渡邉 庸介

船井総研ロジ株式会社 エグゼクティブコンサルタント

製造業、卸売業、小売業には自社物流戦略再構築支援プロジェクト、業務改善コンサルティングを推進。物流企業に対しては荷主企業のコストダウン要求にこたえるコスト体質強化を中心に活動している。特に中長期の成長戦略を支える物流体制構築に注力し、拠点配置の見直し・SCM構築などの中長期物流戦略立案から倉庫業務改善や契約内容の見直し・業務の見直しなどの実行まで従事してきた。​​

2011年は、未曾有の大震災や史上最高値をつけた超円高など、日本経済を取り巻く環境が激変し、製造業をはじめ 多くの荷主企業は成長の軸足を海外に求め、急速に構造転換を図りつつあります。その影響として、国内の総物流量は今後も縮小することが予測され、物流企業に及ぼすインパクトも計り知れません。

製造業・卸売業・小売業などの物流機能を分社した物流子会社は、とりわけその影響が色濃く出ることが推測され、早急に現実を反映した即効性の高い戦略を構築する必要があります。

物流子会社のあり方にスポットを当てて、考察いたします。

物流子会社のなりたち

日本では、「物流子会社」を保有している製造業・卸売業・小売業が数多く存在し、企業数は国内で約1,000社以上と言われています。配送や倉庫での保管・流通加工機能は、段階的に物流企業へ外部委託されていました。他の管理部門(経理・人事・情報システムなど)がBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の流れの中で外部委託される中、物流も同様にその機能を分社し、個別の企業として構えることで、ノウハウを生かした独立採算を期待され、設立されていったものと想像されます。

日本でBPOが始まったのは、1960年代と言われています。情報システム分野から始まり、経理や人事へと広がりました。その考え方は、自社に無い高度な機能を外部に求め、業務自体を委託していったのが始まりです。業務や機能を外部に出す企業があれば、それを受ける企業があり、特定業務に特化した専門企業が創出されることになります。

物流も然りで、親会社で培った特化した物流サービスや管理体系を、自社グループ以外の外部企業に提供することで対価を得ることが可能であろう、という思考が背景にあったと想像できます。

現象

こうして、自社で構築した物流機能が、事業として独立採算が成立すると考えた製造業・卸売業・小売業は各々、物流子会社を設立しました。その狙いは、

社内業務で培ったノウハウを複数企業でシェアすることで、新たな収益源とする(プロフィット目的)
間接部門としてローコストオペレーションを追及する(コストダウン目的)
という2つの方向性がありました。

物流子会社は、一般的に、次の5つのステップを経て、段階的な成長を遂げるものと考察します。

成長STEP1

まず、「内販(親会社・グループ企業の物流業務)の100%獲得」と「物流コストの削減」に取り組みます。

成長STEP2

内販業務で培った、親会社の属する業界に特化した物流ノウハウと、その物量(ベースカーゴ)を基に、「同業界の外販獲得」へステップを進めます。この段階では、既知のノウハウを活用でき、ベースカーゴが有効にはたらく小規模な企業にアプローチすることになります。

成長STEP3

内販業務、及び外販で獲得したノウハウ・取り扱い物量をベースとして、新たな業界の貨物を獲得するための営業活動を展開します。

成長STEP4

親会社の海外案件を足がかりとして、海外での機能整備(現地法人設立・外資企業とのアライアンスなど)を拡充します。国内外を繋ぐ一貫物流機能の提供を目指します。

成長STEP5

海外での内販業務・物量を基盤に、ネットワーク充実を図りながら、国際一貫物流サービスの外販営業を積極展開します。

外販獲得への「壁」

物流子会社がその業種・業界を広げるには、業界特性・商品特性への深い理解を基礎とした、業務スキル習得が必須です。

また、ある程度の物量を保有する荷主企業になると、自社グループ内に物流子会社を保有しています。当然、そうした子会社は親会社の物流業務には精通しているので、簡単に他社に奪い取られるような事態は発生しません。なかには、自社の子会社に完全委託する方針をもつ企業もあります。親会社の物流を専業としてきた自社の子会社を上回るメリットを、他の物流子会社が提供することが至難の業であったことは、たやすく想像できます。こうして物流子会社の守備範囲は自ずと決まっていきました。

さらに、物流子会社を保有しない製造業・卸売業・小売業を外販のターゲットとした場合は、一般物流事業会社との対峙が待ち構えます。

一般物流事業会社は、まず、人件費で物流子会社と比べてコスト競争力があります。商品ノウハウについても、幅広い商品カテゴリーに対応しています。つまり、外販を志向する物流子会社からすると、親会社の影響力の及ばない、群雄割拠の市場で営業展開を行うことになるのです。

ここで、荷主の立場で物流業務を「管理」してきた企業文化と、物流を商いとして「オペレーションを実行」してきた企業文化のギャップが顕在化します。この壁は非常に高く、数多くの物流子会社が、前述の「成長STEP2」「成長STEP3」段階に停滞する要因のひとつである、と我々は見ています。

物流子会社のなかには、コスト競争力強化の目的で、親会社と同様の賃金体系を、業務に合致したものに見直したり、営業力増強策として、親会社の人材を受け入れるといった現象も見られるようになりました。

視点・分析

自社の強みを活かし、業種業界の壁を乗り越え外部顧客を獲得できる力を備えた物流子会社のみが、「自立経営を実現できる物流子会社」と言えます。それは、

・売上高に対する外販比率が内販比率(親会社とグループ関連会社)を超えていること
・親会社に継続的なコスト削減や配当などの形で利益還元していること
という点で見極めることができます。

しかし、そのような物流子会社は一握り、といっても過言では無いと認識します。 なぜこうした「自立経営型」の子会社は限定的なのか、我々は、この課題について次のように思料しています。

(1)営業機能の課題

物流業務を獲得する営業力(人材・ノウハウ・シクミ)に不足がある場合が多い。

(2)取り扱い商材ノウハウの偏り

親会社の扱う商材以外でのオペレーション経験が乏しい場合は、新たな物流領域についての設計・試算スキルに不足が不十分のため、企画提案の実践に結びつかない。

(3)提供機能の偏り

一般的に、親会社貨物のボリュームメリットは、輸配送単価において競争優位に働き、自ずと、倉庫内作業(入出荷業務や流通加工)と比較して、販売しやすい輸配送領域に傾倒する傾向にある。しかし、輸配送では絶え間なくプライス・バトルが展開され、新規顧客を獲得した場合でも、一定の利益を確保することは容易ではない。

(4)保守的な思考 そのⅠ

既知のノウハウが及ばない、未知の商材や業務、新規事業や設備投資などに対する、積極的な挑戦を回避する思考に偏りがちである。

(5)保守的な思考 そのⅡ

経営層が定期的に交代する場合が多く、任期中に策定した経営方針について、完遂することが難しいという構造的問題がある。

では、物流子会社が「自立経営型」へと歩みを進めるには、どのような施策が考えられるでしょうか。その検討にあたって、ここで、物流子会社のポジショニングを整理してみます。

外販比率及び営業施策、つまり獲得した外販の業務内容を軸にして、 以下の4類型に分類できると考えます。

類型ごとの、一般的な特性

変革迫られる物流子会社のあり方
外販比率と倉庫作業粗利からみる営業施策分類

(1)受け皿コストセンター型

親会社の物流に専念。定期的な親会社人員の受け入れも重要な役割。基本的に外販は行わない。

(2)ノウハウ不足型

内販の物量をベースカーゴとして外販を獲得。しかし、親会社の属する業界の物流から拡大できていない。そのため、最もスキルを要する倉庫内作業における粗利は低く、輸配送業務を安値受注。

(3)営業力不足型

親会社及びグループ会社の物流領域外にノウハウを広げ、倉庫内作業を通じた利益も捻出。しかし、営業力が不足し、ベースカーゴを超える外販獲得に至らない。

(4)自立3PL型

親会社及びグループ会社の属する業界を超えて外販を獲得できるスキルが定着。受託作業においても継続的な利益創出を達成、かつ、こうしたアドバンテージを活かす営業活動が良好に機能。

類型ごとに散見される課題

(1)受け皿コストセンター型

コストセンターという位置づけであるため、常にコストを比較される。最終的にグループ以外の企業と競合する場面では、コスト低減を追求できていない場合、親会社業務も外部企業に奪われる。

(2)ノウハウ不足型

親会社の業界外に進出する機会が見つけられないため、物量が増加しない。新たな業界の物流業務を受託した場合でも、オペレーションが安定せず、利益を残すことができない。既存業界での外販営業に取組むものの、既に棲み分けが定着し、新規受託が困難である。荷主からのコストダウン要求に、自社の利益を削って応えている。

(3)営業力不足型

ー部の人材によって、親会社の商材以外のノウハウが属人的に保有され、組織的に営業展開できる体制ではない。親会社の課題解決は真摯に取り組み、物流専業子会社としての役割を担っているが、外販では思うように利益捻出できず、内販業務で得た利益で、その赤字を穴埋めしているケースもある。

上述した(1)~(3)にポジショニングされる子会社を有する親会社においては必ず、「物流子会社はプロフィット部門なのか、コストセンターなのか?」という議論が表面化し、いまや看過できない重要な経営課題となっています。

結果・提言

「物流子会社はプロフィット部門なのか、コストセンターなのか?」という問いに対する模範的回答は、コストセンターでありながらプロフィットを創出する組織でしょう。他社と比較し、ローコストオペレーションが実現されなければ、委託の意味を問われることになります。最悪の事態を回避するためには、ベースカーゴを有するアドバンテージを武器に、競争力のある調達を実現し、オペレーション改善を重ねながら、スキルを蓄積することが必要です。

こうした業務運営はまた、外販を展開する際の強みとなり、かつ、自社に充分な利益をもたらす好循環へ繋がります。そして、外部顧客から獲得された利益は親会社に還元され、一層の貢献を果たすことに結実します。

この望ましい連鎖を生み出すために、考えうる成長の法則は、次の5つのポイントに凝縮されると思量します。

成長の法則
その1 既存の業界と異なる、新たな外販活動の展開
その2 注力すべき業界の見極めとノウハウ獲得
その3 組織営業の構築
その4 ローコストオペレーションを実行できる業務の定型化
その5 荷主への貢献を数値で把握するシクミ作り

成長の法則 その1 既存の業界と異なる、新たな外販活動の展開

物流という機能を親会社から見ると、コストのひとつである、と看做されることは必定でしょう。コストである限り、できるだけ廉価に、品質を保持した状態で提供されることを要求されます。

しかし、コストダウンにも限りがあります。「乾いた雑巾を…」という考え方もありますが、物量の増加がない限り、親会社が要望するようなコストダウン効果を捻出し続ける合理化策は、実行すべくもありません。
いくらコストセンターとしてコストカットに注力しても、一定以上の効果創出には、外販を通じた物量拡大を図らなければその継続は困難です。つまり、プロフィット機能を保有しなければコスト機能を全うすることができなくなるのです。物流子会社である限り、コストダウンとプロフィットとしての外販獲得は、企業として継続するための生命活動です。

企業によっては、明確に「コスト機能」と位置づけられている物流子会社もあります。しかし長期的な視点で捉えると、親会社への貢献及びコスト削減への対応力、独立した企業としての自律性を問われる場面が繰り返され、必ず「プロフィット機能」を持ち、発揮しなければいけない時期が来るといえます。

成長の法則 その2 注力すべき業界の見極めと計画的なノウハウ獲得

親会社の商材以外の知識を保有して新規獲得を行うには、幅広い知識と営業体制が必要です。また、獲得した業務において、利益捻出できるローコストオペレーション体制構築には、当該商材で高い生産性を発揮できる、現場設計能力と管理能力が求められます。その実現には、ノウハウを保有した人的リソースが必須です。

人から組織にそのスキルを浸透させるためには、一定の時間を要します。計画的な採用と教育、あるいはM&A・アライアンスも視野に入れるなど、中長期的に戦略を策定し、着実に実行する必要があります。

成長の法則 その3 組織営業の構築

営業に必要なノウハウが確保できた場合、販売展開するためには、次のような組織的バックアップが必要です。

ターゲット業界の動向を把握し、商品・売り方を試行錯誤する機能
恒常的に顧客にPRし、企業の存在を告知し続ける機能
顧客の商流と物流を理解して企画、設計、提案できる機能

成長の法則 その4 ローコストオペレーションを実行できる業務の定型化

物流子会社の競争力の弱さのひとつとして、人件費が挙げられるでしょう。高い人件費が悪い、というわけではなく、高い生産性を発揮する役割があれば問題ありません。ここで問題としてとらえるべきは、業務ノウハウが属人的であるがゆえに、高い人件費の人材が低生産性の業務に従事している状況です。商品知識が必要といえども業務定型化を図り、正社員以外でも対応できる業務内容に変えていくことが重要です。

我々の経験の中で、物流に関わる業務の約90%は定型化できます。非定型といわれる業務は、社員もしくは専門性の高い人材が関わる部分として残りますが、定型部分の業務構成比を増やすことで品質低下を抑え、ローコストオペレーションを実現することが可能です。いつまでも「うちの業務は特殊で…」などと言っていると、コスト競争力を失います。

成長の法則 その5 親会社への貢献を数値で把握するシクミ作り

一般的な物流事業会社と異なり、物流子会社が実践すべきことのひとつに、「親会社に対する物流貢献のアピール」があるでしょう。しかもグループ企業として財務状況をオープンにした中で、貢献具合を説明しなければなりません。その内容は、物流子会社として「ノウハウを活かしたもの」「製造、販売などの他部門と連携を取ったもの」「グループの情報システム連携を活かしたもの」「独自の企画や活動が実ったもの」が重要であり、その結果は、コスト・品質両面で数値に反映されていることが求められます。

子会社ならではの活動が奏功し一層の貢献がなされていること、それが数字で表現されていること、数値を根拠とした次のマイルストーンが提示されていること、が必要です。親会社に対しての貢献は、一般的な物流事業会社とは異なる視点が要求されます。

最後に

親会社の業務で培った品質意識の高さや緻密な管理視点は、独立系の物流企業には真似できない、物流子会社独自の能力です。また、相対的に高いと指摘される人件費は、秀逸な人材を雇用する武器とも言え、高度な企画力・設計力を持つことが可能な企業体といえます。その強みを活かし、すでに述べた成長に向けた5つの法則を、具体的戦術として実行できれば、「コストでありながらプロフィットを創出する組織」になりうるのです。

あらゆる業界で合従連衡や再編が世界規模で加速する中で、物流子会社の戦う土俵は刻々と変化しています。気がついたら土俵際に押しやられていた、という事態になる前に、今再び、自らの環境を見極め、競争優位な戦略を立案し、危機意識を持って早急に実行することが物流子会社に求められています。

Pen Iconこの記事の執筆者

渡邉 庸介

船井総研ロジ株式会社 エグゼクティブコンサルタント

製造業、卸売業、小売業には自社物流戦略再構築支援プロジェクト、業務改善コンサルティングを推進。物流企業に対しては荷主企業のコストダウン要求にこたえるコスト体質強化を中心に活動している。特に中長期の成長戦略を支える物流体制構築に注力し、拠点配置の見直し・SCM構築などの中長期物流戦略立案から倉庫業務改善や契約内容の見直し・業務の見直しなどの実行まで従事してきた。​​

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