物流オピニオン 2017.10.16

運送約款改正による物流業界への影響

1.運送約款改正が与える影響

標準貨物自動車運送約款の一部改正が平成29年11月4日に施行される。今回の改正で重要なポイントとなるのは、「普通」と「特別」が分離され、料金定義が細分化される。これまで、荷主と物流会社が締結してきた運送契約における運賃とは、なんとも曖昧な内容のままで取り扱われてきた。輸送と作業が一体となり、それに費やす時間的な束縛は、ほぼ無視されてきたのが実情である。 トラック事業者にとっては、極めて不利益な取引内容だが、それは以下5点の理由による現状の実態である。

①荷主が圧倒的優位な立場である
②元請及び3PLの存在が曖昧さを増長している
③多重下請け構造による弊害
④規制緩和によるトラック事業者数の余剰
⑤過当競争による料金水準の下落

サプライチェーン上における一般的な取引関係は、川上から川下へ向かって行く程立場が強くなる。例えば、消費者に一番近いCVSやGMSの影響は絶大であり、彼らの要望や要求は卸売業を経て製造業へと伝わる。ところが、トラック事業者に関しては川上の輸送であっても川下の輸送であっても、その立場は変わらない。サプライチェーン上の頂点に君臨する消費者へ配送する宅配会社であっても、強大な荷主の前には従わざるを得ない状況が久しく続いていた。

2017年は物流業界における大激変の一年となる。そのひとつのトリガーが運送約款改正になるのではないか。今回の改正は、「普通」と「特別」が分離され、料金の規範が明示された。これまで一括りとされていた輸送に付帯する「積込料」「取卸料」「待機時間料」が別料金であると国土交通省により明確に規定された。これまでも、個別契約においては運送と作業を別途取り決めることはあるにはあった。しかし、実際の運送契約において作業費が別料金となっているのは、かなり特別な作業でありレアケースである。
※例えばバルク車のタンク洗浄や指定納品場所への搬入作業などの特別作業だったり、容器回収・代金引き換えなど

輸送業界においてワンマンドライバーは今や一般的。運送契約とは、そもそも発地から着地への輸送業務であり車上での積込み、車上での荷下ろしが原則である。但し、積込みや荷下ろし作業は通常の付帯業務となっている。一方で、ドライバーによるリフト操作や荷下ろし後の棚入れなどは、あきらかに通常の付帯業務以上の負荷がドライバーにかかっている。

特にドライバーが荷受人所有のリフトを操作して荷下ろし作業を行うことは、コンプライアンス的な観点・安全作業・業務責任・人身事故発生時の求償問題など大きなリスクを伴った実態であることを認識しなくてはならない。そして極めつけは、待機時間問題。積込み時もさることながら、荷下ろし時の長時間待機はドライバーの拘束時間や生産性及び精神衛生を著しく阻害する。政府が主導する働き方改革は至極当然のことながら、ドライバー職にも求められている。

現行ではドライバーの拘束時間は293時間/月が限度だが、その実態は300時間超が決して少なくはない。この問題へメスを入れたのが今回の「待機時間料」となる。今後荷主は、自社の輸送実態を明確に把握する必要がある。自社が依頼している輸配送実態を「普通」と「特別」に区分する。何が普通で何が特別なのかの定義を決める必要があるが、定義区分は市場(マーケット)が必然性を持って確立していく。
※待機時間は2時間以内が限界だと待機時間料発生の水準は形成されつつある

自社の取り決めるによる定義は、これからは通用しなくなることも理解しておく必要がる。3PLも同様な立場にいる訳だから、現場の実情を正しく荷主へ伝え、適正な状態へ改善することが求められる。何故なら、2017年以降は「選ぶ立場」から「選ばれる」立場へ物流業界は変革していくからである。今流行りの言葉で言うと「ドライバーファースト」が求められている。

2.ドライバー不足問題

平成26年度総務省「労働力調査」によるとトラックドライバーは約83万人である。このうち、55歳以上の就業者数は約35%。25歳未満の就業者数は約8%である(※厚労省及び総務省の統計から弊社が分析した数値)。
この統計から言えるのは、少なくてもあと10年後には約27%のドライバーが今より少なくなることである。10年以内には、22.4万人のドライバーがいなくなるのである。輸送するべき貨物量の推移は、微減ではあるが27%もの物量が減少することは無い。

今や社会現象ともなったドライバー不足は、統計でみる限り自明の理である。荷物があっても運ぶドライバーがいなくなる。一方で、世の中はダイナミックに変化し続けている。プロドライバーが減少する中で、セミプロドライバーやアマチュアドライバーが台頭する。社会構造も変化し、副業を認知する企業も少なくはない。働き方改革によって、勤務時間が少なくなり所得が減少したサラリーマンが帰宅後に自宅付近の宅配アルバイトを行う。町の自営業者がセールス(ご用聞き)を兼ねて宅配を行う。新聞配達員や生保レディが宅配を行う。このように、プロドライバーから非プロドライバーへ宅配従事者はシフトされることが予想される。

「1億総宅配時代」が来ることも全く無い未来図とは言い切れない。不在問題にしても、今年のヤマト運輸騒動によって消費者の意識が変わった。昨年までと今年になってからは、ドアチャイムのピンポン後のレスポンスが目に見えて早まったらしい。宅配ロッカーの設置は、今後の新築住宅では標準機能となるのではないか。宅配業界においても「普通」と「特別」が区分される。1度の配送で完了することが「普通」と定義され、不在再配達は「特別」となるので、今後不在再配達は別料金化が想定される。一方で、BtoBにおいてはプロドライバー以外が活躍する姿はあまりイメージできないし、現実的ではない。

工業製品や付加価値の高い商品は、プロのトラック事業者に委ねられる事は今後も変わらない。激減しているプロドライバー不足のこの時代、 荷主は、「選ぶ立場」から「選ばれる立場」へ逆転していく事を理解する必要がある。区域便・路線便・宅配便・中長距離便・チルドフローズン便など、全てのドライバーが今後不足していく。

3.多重構造の弊害

物流業界は超の付く多重下請け構造となっている。荷主、物流子会社、元請物流会社、地域元請、実車会社と5階層はまだ良い方である。東京から大阪への大型車による幹線輸送。荷主が支払う運賃は、9万円。実車会社が受け取る運賃は6万円を切ることもある。約3万円もの中抜きが当たり前の物流業界。多重構造であるが故に荷主と実車会社の壁は厚い。

今後は、仕事はあっても運ぶべきドライバーがいない。特に、中長距離ドライバーは平均年齢55歳以上とも言われ、今後10年間で運び手が大きく不足する。積込み時の待機時間が2時間を超える物流センターも少なくはない。荷下ろし待機も同様である。特に、路線便と言われる特積事業者の幹線輸送は、朝の荷下ろしピーク時間がほぼどこも同じ時間帯となっている。前日の夜出発した幹線車は、早朝5時から7時の荷下ろしがピークとなる。

なぜなら、午前中配達を実行するには、遅くても7時には到着店のプラットフォームへ荷物が仕分けられていないとならない。ローカル便(同一地域)を除くと、ほぼ全国の発店から朝7時を目指して幹線輸送車が集中する。路線便は積込み時に発店プラットフォームへ18時ぐらいから着車する。出発時間が21時だとしても約3時間は積込み作業時間として拘束される。

幹線輸送を終え、到着店に付いても大渋滞のため、なかなか荷下ろしが出来ない。結局東京~大阪間は約12時間から14時間の拘束が日常となっている。ここでも、選ぶ立場から選ばれる立場への変換が発生し初めている。路線会社の幹線ドライバー、昔は花形、今は高齢化の最たる職種となっている。 

4.マーケット変曲点

2017年は物流マーケットの変曲点となる。物流センターで活用できる物流ITの進歩は目覚ましく、自動ピッキング装置やAI搭載WMS・自動パレタイザーロボなどが続々と自動化製品が商品化し量産化されている。しかし、輸配送においては、まだまだ自動運転が本格導入されるには時間が必要である。「働き方改革による労働時間規制」「ドライバー不足」「納品リードタイムの厳格化」「少子高齢化」「メガ・リージョン化」など、どのキーワードを見てもトラック輸送環境は悪化するばかりである。

国土交通省がこのタイミングで放った「運送約款改正」は、まさに時流を見極めるための荷主企業への試金石とも言える。このままドライバー不足の決定的な改善施策が出ないまま2020年の東京オリンピック・パラリンピックを向かえることは脅威である。ひと夏の短い期間であるが、準備期間を含めると世界中から多様な物資が東京へ運び込まれる。

あと3年足らずであるが、日本の物流大動脈はこのまま維持できるのであるだろうか?国策とも言える五輪大会は是が非でも成功させなくてはならない。 そうすると犠牲になることがあれば、民間であり時流を読み損ねた荷主群であることが想定される。

5.あるべき姿へ向かうこと

荷主企業は今回の運送約款改正は対岸の火事と軽視せずに、真剣に向きあうことが肝要である。自社の輸配送実態が、「普通」と「特別」に区分することでどのような影響が起こるのか?トラック事業者も生き残りをかけている。ドライバーへの負担はドライバー採用・確保・安定雇用の最大の妨げとなる。先ず言えることは、既に宅配便や路線便は実行に移しているが、「運賃」は確実に上がる。

さらに、「普通」に加えて「特別」に区分された付帯作業や待機時間もオプションコストとして不可欠な存在となる。理由は、現行の運賃相場のままではトラック事業者はドライバー雇用を維持できないからである。ドライバーの平均所得は全産業と比較して約15%程度低い。このままでは、加速度的にドライバーはいなくなってしまう。前述した自然淘汰される約27%以外に他業界への転職や若手の非選択など、かなり厳しい状況であることを荷主は正しく認識しなくてはならない。

ドライバー確保を困難にさせる取引条件は必然的に切り捨てられる可能性がある。輸送体制の安定的な確保・維持は全ての荷主が考えていることだが、これまでのやり方では安定的な確保・維持は難しい。荷主は、物流会社を選ぶ時代から選ばれる時代へと突入した。これまでの業界商習慣や過剰サービスの追求など、荷主側の問題も山積している。荷主企業は、適正料金を支払い、適切な物流サービスを提供し、元請け物流会社任せにしない輸配送体制を再構築することが焦眉の問題となっている。今からでも遅くはない。自社の物流大改革は、近い将来の行き残り戦略となる。

Pen Iconこの記事の執筆者

赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

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