世界の物流業界 UAEの魅力と課題

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中東はユーラシア大陸とアフリカ大陸をまたがる地域であり、西アジア、エジプト(北東アフリカ)、トルコ、イランが含まれます(いくつかの定義があります)。
中東の最も重要な経済の中心地は7つの首長国が含まれるアラブ首長国連邦(UAE)です。

現状と特徴

UAEは、中国とインドに次いで、2020年の世界の新興物流市場指数で3位にランクされています。 主な要因として、急成長しているEC、フリーゾーン設置、鉄道ネットワークを中心とした大規模なインフラ投資により物流業界の成長が牽引されています。以下この要因について説明します。

ECの成長

UAEは、新しいビジネスやスタートアップを奨励し、中東のECハブを目指しています。UAEのEC市場での収益は2020年に5,321百万米ドルに達し、世界で30位にランクされています。
(出所:https://www.statista.com

消費者はオンラインショッピングを信頼し、オンラインで多くの時間を費やしています。 また、この地域では、Google PayやApple Payなどのモバイルウォレットの利用も増加しています。

消費者はECの成長の中で柔軟性と選択の多様性を求めています。最近では「翌日配送」への興味も深めています。
企業は、消費者を満足させるために、より短いリードタイムで商品を届けるシクミを作ることが必要になってきています。

フリーゾーン(自由貿易地帯)

フリーゾーンは中東でグローバルビジネスを後押しするために設計されました。
JETROによると、「UAEで会社を設立するには、原則として51%以上の現地資本の参加が必要だが、フリーゾーンでは原則として業種を問わず外資100%の会社設立が可能である他、様々なインセンティブが提供されている。各首長国の法令に基づき設置されたフリーゾーンは、会社法の枠外に置かれており様々な優遇制度があるため、外国企業の立地に適している。1985年設立のジェベル・アリ・フリーゾーン(ドバイ)には、国内外企業7,000社以上が進出している。」
出所:https://www.jetro.go.jp/world/middle_east/ae/invest_03.html

UAEには約45のフリーゾーンが存在し、毎年新しいフリーゾーンが設置され、フリーゾーン数が増加しています。
ドバイのジェベルアリフリーゾーン(Jafza)は1985年に19社で設立され、現在ではグローバルフォーチュン500の100社近くの企業を含む7,500を超える企業が進出するまでに成長しました。
ジェベルアリ港とアルマクトゥーム国際空港の間に位置するJafzaは、優れたマルチモーダル接続を提供し 、オフィス、倉庫、従業員の宿泊施設などの施設を併設しています。
JAFZAは、国の対外直接投資全体のほぼ23.9%に貢献しています。
出所:http://jafza.ae/

輸送インフラ

2019年版の141か国をカバーする世界競争力報告によると、UAEは輸送インフラ項目で8位にランクされています。 輸送インフラの柱には、道路インフラ、鉄道、航空および海上輸送が含まれ、UAEはこれらのカテゴリのほとんどで上位20か国にランクされています。
出所:http://www3.weforum.org/docs/WEF_TheGlobalCompetitivenessReport2019.pdf

UAEのインフラ開発の注目すべきプロジェクトの1つは、エティハド鉄道(Etihad Rail)ネットワークです。2016年に開始され、1200 kmの鉄道構築でUAEの7つの首長国すべての接続が可能となることを目的にしたプロジェクトです。
この鉄道ネットワーク構築の大きなメリットは、道路交通によるガス排出量の削減に大きく貢献し、地域全体の開発を改善し、2028年までにGDPを非石油部門から50%以上に増やすアブダビの目標を支援できるということです。
出所:https://www.ecouncil.ae/PublicationsEn/economic-vision-2030-full-versionEn.pdf

もう1つの大きなプロジェクトは、アブダビとドバイの間を走る超高速輸送システムである世界初の商用ハイパーループの構築です。全長約150キロメートルと推定されており、都市間の移動は現在車で1時間半かかるところが12分に短縮されます。プロジェクトは2021年に完了される予定です。
今年2月に、UKのBeemCar Ltdと契約を結び、最新テクノロジーに基づいて構築されたスカイポッドの開発を計画しています。
プロジェクトの第一フェーズとして乗客向けのロープウェーに似たようなポッドを作り、第2フェーズでコンテナやバルク輸送を含む貨物に適応した輸送手段として作られる予定です。

中東物流の課題

ここまで読むと、中東の様々な長所を知り、とても近代的なイメージを持ったかと思います。
一方でEC成長と密接に関連するラストワンマイルにおいてはいくつかの課題があります。

曖昧な住所システム

UAEやその他中東の国では郵便番号が存在せず、住所欄には地区名とビル名のみが記載されています。このような状態では宅配便の業務完了までの過程において、宅配便会社に大きな負担がかかります。
UAEでは配送失敗率は15%~30%と割合は高く、ドライバーが届け先を見つけられないことが典型的な原因です。ドライバーは届け先に電話をして、案内をしてもらうことが多発しており、電話が繋がらない場合は再配達コストがかかってしまい、効率低下の原因となっています。

明確な住所の欠如が問題を解消するため、One Click、Fetchrなど複数のスタートアップは、ドライバーが分かるようにお届け先のロケーションを示すアプリなどのソリューションを開発しています。

このようなアプリを使用することで、配送失敗率、商品の返品率が低下し、顧客満足度を上げる可能性があります。
ただし、一つの懸念として、そのようなアプリを複数持つと、それぞれダウンロードし登録をする必要があり、クライアントにとって混乱を招く可能性があるということです。将来的には、統一されたソリューションの検討が必要になってくるかもしれません。

今後自動化が進むことを考えると、郵便番号など明確な住所でなければ、方面別の優先順位付けをはじめとした倉庫での業務合理化が難しくなる可能性もあります。

代金引換(COD)

UAEではオンラインショッピングの支払いの70%以上が代金引換となっています。キャッシュレスの支払い方法への信頼の欠如とクレジットカードまたはデビットカードを保有できないユーザーの存在が、過去数年間の代金引換率の高さの一因となっています。
代金引換は、EC販売者にとって有益ではない場合もあります。例えば、顧客が購入後に突然気が変わり、キャンセルしたり、パッケージの受け取りを拒否したりすることが発生しています。
また、CODは、ドライバーにとって安全リスクでもあり、場合によっては顧客のドアからトラックまで現金を数百メートルの距離を運ぶこともリスクになります。
一方で、オンライン決済に対する消費者の信頼は高まっています。さらに、新型コロナウイルス感染拡大により、Amazonをはじめとした一部の企業は、より安全な取引のために代金引換を一時停止しました。このきっかけで今後はキャッシュレス化が進む事が期待されます。

ラマダン

中東ではラマダンは、小売業にとってチャレンジの大きい一ヶ月であり、物流面からも注意を払うべきです。この一ヶ月でオンラインショッピングは増加しますが、労働時間は短くなります。そのため、需要に対する納品業務の完遂が難しくなります。
顧客ニーズを満たすのに、数か月前に販売計画を立て、倉庫保管を用意し、人気のある商品を予測する必要があります。
また、労働時間短縮のため、臨時労働者の雇用も必要になる場合があります。
最後に、スムーズな運用のためには、サプライチェーンの中で適正にコミュニケーションを取ることがとても大切です。

これからの物流

コールドチェーンの需要

UAEで伸びている輸送部門の1つはコールドチェーンです。 その背後にある推進要因は下記の項目が挙げられます。
・人口の増加と輸入食品への依存度の高さ(食品の約80%が輸入されている)
・温度に敏感な医薬品のニーズの増加

UAEの暑い気候のため、コールドチェーンは高いサービスレベルを持ち、適切に管理する必要があります。課題と改善点がいくつか残っていますが、UAEには経済を成長させるユニークな方法が存在すると思います。フリーゾーンなどを通じて外資系企業と地域の経済の双方にメリットのある環境ができています。

また、ハイパーループの様な未来の配送インフラへの現在の投資により、配送業界に大きな変化が起こることが期待できます。UAEでの新しい輸送技術の成功に基づいて、日本や他の国々も将来的にそれらの技術を実装する可能性があるため、進捗状況をウオッチし続けることが世界の物流関係者に必要と思われます。
こうして世界の物流を見渡しみると、日本はまだ物流先進国とは言えない状況だと思われます。

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