伸びゆくインドの最新物流事情(2017年)

はじめに

2014年に誕生した新政権による経済改革、いわゆる“モディノミクス”による規制緩和と海外資本の呼び込みにより、新興国が軒並み減速する中、引き続き年7%以上の経済成長を続ける人口12億人の超有望国がインドです。日系企業も自動車・電機メーカー・総合商社を中心として既に1,200社以上が進出しています。
最近ではその大消費市場を狙った日系企業の投資も相次いでいる一方で、インフラの整備途上や州により異なる税制などまだまだビジネスを行うには課題が山積みです。
今回はこの玉石混交のインドの最新物流事情を取り上げます。

物流事情

インドは29の州と7つの直轄領(デリー含む)で構成され、州によっては言葉も文化も異なります。インドは一つ国ですが実は欧州のような複数国の共同体と見ることもできます。そんなインドには主に6つの巨大経済圏がありそれぞれの主要都市・港間を国道と鉄道で結んでおります(以下、地図参照)。中でも主要都市ニューデリー・ムンバイ・チェンナイ・コルカタの4拠点、5,800キロを結ぶ物流網は『黄金の四角形』(Golden Quadrilateral)と呼ばれ同国内の貨物輸送量の60%以上がここを通ると言われております。
好調な経済に牽引される形で物流市場も成長を続けており、例えば主要な輸送手段である海上コンテナ輸送の荷動きも2000年代の年10%以上の成長は鈍化しているとはいえ引き続き年3-7%の成長を続けています(以下グラフ参照)。物流市場は今後もGST導入(下記詳細)などに引っ張られ毎年6-7%の成長が見込まれております。
 
このように堅調な成長を続けている物流市場ですが港湾、道路、鉄道などインフラの整備がその成長にまだまだ追い付いていないのが現状です。
需給逼迫による港湾混雑は慢性化しており、1日に1万車以上が行き来する最大港ナバシェバ港では狭い道路網、限られた駐車スペースや通関の遅れなどで大渋滞が起こり、トラック業者が貨物を搬出入する為に最大12時間かかることもあるようです。
また内陸への主な輸送手段でもあるトラック輸送は幹線道路網が整備されたとはいえ都市では渋滞が激しく道路も決して良い状態ではありません。中には牛が歩いていることもあり、州を跨ぐ輸送の場合州境での検査に時間が掛かるなど不安定です。一方もう一つの主な手段である鉄道輸送も旅客列車との併用が多いディーゼル車が時速20-30キロ程度で運行されておりスケジュールは安定しません。
 
この状況を改善させる為、インド政府は第12次5ヵ年計画にて総計2,200億米ドルものインフラ投資を掲げており、また日本のODAも入り現在建設中の貨物専用鉄道建設(ムンバイ・デリー及びデリー・コルカタ間)も2020年には全線開通予定です。これらが進めば現在ボトルネックとなっている港湾混雑や幹線道路の未整備が大幅に改善されると思われます。事実、世界銀行が発表する2016年の物流パフォーマンス指標では昨年の54位から35位に上昇するなど序々にではありますが改善を見せています。
 
以下が弊社取材により取り纏めたインドの主要経済圏及び海上コンテナ貨物量の荷動きの推移となります。

①グレターデリー(デリー準州+ハリヤナ州)

主要都市ニューデリー、グルガオン、ノイダ
概要事実上首都機能が置かる大産業集積地。スズキ、ホンダ、自動車部品や電機メーカー、その他商社、銀行など日系企業400社以上が進出する。
進出物流企業 日立物流、南海エキスプレス、日本通運、山九、内外トランス、トレーディア、鈴与、近鉄エキスプレス、鴻池運輸、日新、郵船ロジ など

②グジャラート州

主要都市アーメダバート
主要港アーメダバート
概要デリーとムンバイの中継点。ムンドラ、ピパパブなど良港が多く州政府の政策も革新的。インフラ整備も進む。ホンダの二輪工場があり、スズキの新四輪工場が来年稼働予定。
進出物流企業 日立物流、近鉄エキスプレス、山九、郵船ロジ、日本通運 など

③マハラシュトラ州

主要都市ムンバイ
主要港ナバシェバ
概要インド最大都市で南アジアの中心であるムンバイが主要都市。国内最大級のナバシェバ港がある。日系企業も200社以上が進出。ビジネスコストは割高。
進出物流企業 日立物流、近鉄エキスプレス、日本通運、日新、郵船ロジ 内外トランス、トレーディアなど

④カルナータカ州

主要都市バンガロール
主要港ニューマンガロール
概要主要産業は農業だが、中心都市バンガロールはIT企業が集積するインドのシリコンバレーと言われる。多国籍化が進みトヨタの生産拠点もある。
進出物流企業 日本通運、日立物流、近鉄エキスプレス、日新、西鉄、郵船ロジなど

⑤タミル・ナードゥ州

主要都市チェンナイ
主要港チェンナイ
概要南インド中心都市チェンナイは国内2番目の貨物取扱量を誇り、また南アジアのデトロイトと呼ばれ、日産、ヤマハ発動機、いすゞ自動車も進出する。
進出物流企業 日立物流、近鉄エキスプレス、鴻池運輸、名港海運、 日本通運、日新、西鉄、内外トランス、トレーディア 山九、郵船ロジなど

⑥西ベンガル州

主要都市コルカタ
主要港コルカタ
概要バングラディシュと隣接、インド第3位の人口を誇るコルカタは東インド経済の中心都市。
進出物流企業 日新、日立物流、近鉄エキスプレス、日本通運 内外トランス、トレーディア、郵船ロジなど

物品・サービス税(GST・Goods and Service Tax)導入と物流への影響

モディ首相の肝いりで進められている改革の中で今最も注目すべきは物品・サービス税(GST)の導入による間接税1本化です。これは2017年4月の導入を目指し中央政府で可決後、現在は各州議会で承認待ちの状態ですが、仮にGST導入が決まればこれまで各州で異なっていた間接税が1本化され複雑だった税の申告・納税、州境の検査の簡素化が進むことから、敬遠されてきた州横断の取引やその物流の大幅な増加が見込まれております。
これに伴いこれまで同じ州内に限定されていたサプイライチェーンも州横断で全国に拡がり効率化が進むことから物流費の大幅な削減が見込まれており、特定地域の地場業者主体であった物流業界に再編が起こる可能性もあります。逆にこれまでの税制を前提に各州に拠点配置していた企業はその集約などサプイライチェーンの最適化の検討が必要と思われます。
またGST導入と同時に税システムのIT化(GST Network)も検討されており、これが進めば将来は税の管理がネット上で行われ、その申告のペーパレス化やE-Invoiceのみでの州境の通過、またGSTNと税関システムの共有による関税申告の簡素化も可能になると言われておりますが、各企業にとっては新システムの対応も求められます。

GST導入により考えられる物流への影響:
1)複雑な税制の簡素化
2)州境検査の簡素化
3)輸送時間の短縮
4)州横断物流の拡大
5)サプイライチェーンの効率化
6)物流費削減 (倉庫維持費、在庫の効率化、燃料費など)
7)物流企業の再編

終わりに

2020年には中国を越え人口世界一になる大消費市場インドは今後もモディ首相による改革の下、安定した内政運営が続くと見込まれております。物流市場も規制緩和とインフラ投資による効率化が見込まれておりこれまであった参入障壁も徐々に低くなって参ります。
当社は引き続きインドの物流市場を追って参ります。

(注)本レポートは、当社の独自取材によって、概況についてまとめたものですが、正確性・完全性を保証するものではありません。
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