中国サプライチェーン事情(2020年)

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呂 天嬌

船井総研ロジ株式会社

中国サプライチェーンの現状

2017年以降、中国政府はサプライチェーン業界の発展に寄与し続けています。

サプライチェーン業界に対する指導だけではなく、自動車・電子部品・工業機械等、多くの分野へサプライチェーンに関する政策を打ち出し、サプライチェーンの応用プロセスを推進してきました。

また、中国のサプライチェーンには「大分散、小集中」という特徴があります。

業界ごとに「サプライチェーン」に違いがあり、業界をまたいだ競争は難しい状況です。
そのため、1つのサービス業者がその業界あるいは複数の業界のサプライチェーンを独占しています。

さらに、過去10年間のeコマース市場の急激な成長により、中国の物流は黄金発展期を経験しました。

各業界の市場規模が急速に拡大したため、収益力が高い超優良企業が出現し、革新的なモデルチェンジが行なわれました。

中国物流は単なる貨物輸送からサプライチェーンへと発展したのです。

しかし、システム導入の遅れ、インフラの重複建設、業界整合度の低さ等、改善が必要な点も多く残っています。

中国国内のeコマース市場を継続的に拡大していくために、中国物流は新たな成長点を探しています。

従来の小売業態とは異なる「新小売(ニューリテール)」= 最新デジタル技術を活用した新しい小売業態の台頭が、中国サプライチェーン業界のモデルチェンジのきっかけになることが予想されています。

中国コールドチェーンの現状

前述の通り、中国のサプライチェーン管理は導入段階であり、「大分散、小集中」という特徴を持っています。

サプライチェーンサービス業者は1つまたは複数の業界に集中し、サービスを提供しています。

その中でも特に競争が激しい業界にコールドチェーン物流業界があります。

ここ数年来、中国eコマースの成長、農業構造の調整と住民の消費水準の向上によって、生鮮製品の生産量と流通量は年々増加しています。

そのため、消費者の食の安全と品質に対する要求は徐々に厳しくなっています。

特に生鮮農産物は腐りやすく、産地が分散しているため、生産地から消費者に届くまでのプロセスで手間がかかり、いかに鮮度を保つことができるかが重要な流通指標となります。

中国におけるコールドチェーン物流の発展は非常に重要な意義を持っています

しかし、物流業界に従事する人々の食の安全に対する認知度は低さ、設備導入の遅れ等が中国のコールドチェーン物流業界の発展を制約しています。

中国コールドチェーンの課題

中国視察後にまとめた、中国コールドチェーンが直面する課題について紹介します。

設備導入の遅れ、技術レベルの低さ

先進国と比べ、中国のコールドチェーン物流は、輸送設備・インフラの老朽化に加え、未整備の情報システムと鮮度管理意識の欠如等が要因で、コールドチェーン物流が発展していません。

コールドチェーン物流のインフラ初期投資には莫大なコストがかかります。スケールメリットが形成されていない時期の収益力はかなり低いため、参入障壁が高くなっています。実際、中国国内に三温度帯管理が出来るトラックはほとんど走っていません。

標準化が進まない

中国のコールドチェーン業界は、業務の標準化がかなり遅れています。中でも深刻なのは、「基準が守られない」ことです。

中小企業の多くは加工、保管、輸送、販売まで、全プロセスを網羅したコールドチェーンが未整備であり、比較的物流コストを安く抑えられるため、コスト重視のサプライチェーン体制となっています。

一方、大手企業は国家基準に従ってコールドチェーン物流を実行しているため、物流コストは比較的高い水準になります。

こういった事情は消費者には区別しにくいため、より安い製品を選択します。

中国政府から中小企業に対し、管理基準が発表されても、実際には実行しない企業が多く、標準化はなかなか進みません。

認知度が低い

コールドチェーンの最大のメリットは加工、保管、輸送、販売の全プロセスの低温保存を実現できることです。

中国のコールドチェーン業界はまだ発展初期のため、消費者はスーパー等で食品を買う時、ブランドや見た目だけに関心を持ちます。

しかし、運送、保管の途中でコールドチェーンが切れたら、食の安全は担保できないことを意識していません。

例えば、予冷を行っていない場合でも輸送中に冷蔵車を使って運ぶことで、外観は問題ないように見えることがあります。

また、多くの冷凍食品は常温の環境下で荷下ろしが行われています。

冷凍倉庫に入るまではコールドチェーンが完全に切れており、食の安全・品質を保障できているとは言えない状況が続いています。

オーナードライバーが主流

飲食業界では高専門性・低コスト・高品質といった優位性の高さから、3PL企業と連携する企業が9割に達しています。

飲食企業は物流業務をアウトソーシングすることで、料理開発や組織管理などのコア業務に専念することが出来るためです。

一方で、大手飲食企業は自社物流を特化しつつ、3PL企業との連携強化を進めています。

中国交通運輸省が発表した統計報告によると、2018年末時点で、中国国内のトラック台数は約1355万台、トラックドライバーは約360万人にいます。

約1355万台のトラックのうち、90%超がオーナードライバーの所有であり、企業が所有するトラックは10%に満たない比率です。

また、3PL企業が手配するドライバーはほとんどがオーナードライバーであり、全体の80%を占めています。

ただし、教育や管理が徹底されていないため、サービスレベルやマナー等、品質の低さに課題が残っています。

まとめ

中国におけるコールドチェーン物流は、転換期を迎えます。食の安全に対する意識改革が確実に広がっていきます。

現在のところ、一定の水準で温度管理が実現できているのは日系コンビニやその他外資系ファストフードチェーンぐらいです。

しかし、中国国内企業でも新興ベンチャーなどで食の安全を重視したサプライチェーンを実現できている企業も少なくはありません。

船井総研ロジは、昨年から中国サプライチェーン・ロジスティクスの構築支援コンサルティングを開始しました。

現在のところ、数百店舗~1,000店舗規模のチェーン展開をしている本部が顧客ですが、今後は更に創業期100店舗未満のチェーンへもコンサルティングを提供していきます。

(注)本レポートは、当社の独自取材によって、概況についてまとめたものですが、正確性・完全性を保証するものではありません。
なお、無断での複製・転写・転送等はご遠慮下さい。

監修:船井総研ロジ株式会社 取締役常務執行役員 赤峰誠司

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呂 天嬌

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