第281回 ドライバー不足時代の物流会社経営(3)

Pen Iconこの記事の執筆者

赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

今年もあと2週間程度となりました。

年初の運賃改定(値上がり)ブームは収束に向かい、輸送各社は物量確保を重視する傾向が散見されます。

このままのトレンドで進むと、来年は逆改定(値下げ)の波が来る予感がします。

さて、物流会社のケイパビリティとは何でしょうか?

投資家(投資ファンド)や証券アナリストの方が、物流会社の評価をする時に必ず聞いてくるフレーズが「赤峰さん、この会社のケイパビリティは何でしょうか?」なのです。

ケイパビリティとは、企業が全体として持つ『組織的な能力』です。

これは、経営戦略上とても重要な概念であり、競争優位を確立させるために欠かせない要素でもあります。

運送会社に求められるケイパビリティは、

(1)収益の確保 

(2)安全の確保 

(3)人員の確保

といった3点が主なものです。

とりわけ(3)人員の確保は、今後企業によって大きく差が出る企業能力です。

今後も前号に引き続き「ドライバー不足が発生しない運送会社」の事例をご紹介します。

神奈川県にあるA社。
車輛台数は100台を超え、仕事の確保以上に経営者はいつもドライバー不足に悩んでいました。
そんなある日、ふとしたキッカケでドライバーの会社に対する評価が急上昇するこになります。

それは、社長自身が長い間、喫煙愛好家だったのですが、あることを理由に禁煙することになりました。
一定期間が過ぎ、禁煙は成功しました。
日々の生活もそれほどストレスにならなくなった年末の出来事です。

この日は、最繁忙期でありどうしても車が回らないと配車担当者からSOSがあり、急遽応援のため社長自らが実車することになりました。

禁煙してから初めての実車です。

まず感じたことは「車内がとてもタバコ臭い!」ことです。

更に、タバコ以外に別の匂いがする。。。

よく見ると、社外から見ると何かわからない未整理な車内に、とても不快感を覚えたそうです。

A社は、直ぐに車輛管理担当と配車配車者を交えて『車輛ローテーション』実施に向けた緊急会議を開きました。

翌年から、A社が保有する全ての車輛はローテーション制となりました。

車輛ローテーションを実施するにあたり、以下の区分を設定しています。

(a)禁煙女性

(b)喫煙女性

(c)禁煙男性

(d)喫煙男性

配車担当からはバランスが取れないので、困難との申し出もありましたが、とにかくやってみようと合意形成を図り、トライアルを開始したそうです。

それから1年。

既存のドライバーもさることながら、新規で採用したドライバーから絶賛されたそうです。

「こんな運送会社は見た事がない!」と。

ドライバー採用も今では順調に進み、ほぼ困っていないとのこと。

A社は、結果的にダイバーシティ対応を実践したことにより、従業員モチベーションが上がり、人員の採用・安定といった能力に対して”ケイパビリティ”が発揮されました。

業界慣習である1人1台の概念を大きく打ち破った施策です。

過去の習慣にとらわれることなく、新しい取り組みを考え実践する経営のお手本ともなる事例です。

この施策がベストか否かはそれぞれの企業によって違います。

A社が取り組んだ車輛ローテーション施策は、年初来よりお伝えした『パラダイムシフト』のひとつであると筆者は感じました。

今年も最後まで気を引き締めて、皆様が無事な年末を迎えることを心より祈念しております。

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赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

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