第34回 物流M&A(13)
今週は、DCF法によるケーススタディの2回目です。前回、買収ターゲット企業の(1)将来FCF(2)割引率まで計算しました。次のステップ、現在価値の計算から説明します。
(3)FCFを割引率で割り引き、現在価値を計算
1年目現在価値=1年目FCF53×1/(1+割引率0.038)1乗=52
2年目現在価値=2年目FCF60×1/(1+割引率0.038)2乗=56
3年目現在価値=3年目FCF66×1/(1+割引率0.038)3乗=59
上記の総和167百万円が、今後1〜3年目に見込まれる収益を、現時点で評価したものです。
なお、3年目以降も事業継続するはずですから、3年目以降の事業価値も見積もる必要があります。
ここでは、3年目のFCFが、永続的に毎年生み出されると仮定して、以下の計算をします。
企業の残余価値=予測最終年度のFCF66/割引率0.038=1749
この考え方は、例えば、毎年66百万円の収入を生む永久債券があったとして、それが3.8%の利息にあたる場合、この債券の額面はいくらか、という計算をしたことと同じです。次に、これを現在価値に割り引きます。
残余価値の現在価値=残余価値1749×1/(1+0.038)3乗=1564
○○運輸社の事業価値は以下の通りです。
事業価値の総和=3年目までのFCFの現在価値167+残余価値の現在価値1564=1731
(4)事業価値から株式価値を算出
さて、企業の全株式を譲り受けた場合、当然、借入債務も引き継ぎ、返済します。
ただし余剰現金の分は負担が減るので、最終的な株式価値は次の結果になります。
株式価値=事業価値の総和1731−有利子負債1200+現預金100=631
○○運輸社の純資は300百万円なので、年3%成長を続け、かつコストを現状レベルに維持できれば、2倍のプレミアムがつく計算となりました。
さて、これまで、企業価値の評価方法を3つ、紹介してきました。会社の価値はいったい何が正しいのか、というのは難しいテーマであり、誰もが絶対に認める万能な方法はありません。
重要なのは、選択した評価の手法と要素が、評価の対象となる企業の実態に即したものか、という点でしょう。
例えば、車輌など資産をもたず、効率的な配車業務に特化している運送会社は、資産の額は少ないが、ノウハウそのものが収益の源泉です。
この場合、アセット・アプローチを使った評価の重要度は低くなります。
財務諸表から算出される価値とその企業本来の価値は適切な財務評価とビジネスデューデリジェンスによって総合的に判断することが肝要です。
とくに、ノンアセット型の3PL事業者の価値評価は、将来産出すであろうキャシュフローへの投資とも考えられます。