ロジスティクス・アンケートから読み解く荷主企業の物流思考 その2

船井総研ロジ

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物流コンサルの船井総研ロジ

   
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2012年に当社が実施した「荷主企業におけるロジスティクス・アンケート調査」の結果を紹介します。この調査は、特に4つの特定業種(アパレル、メディカル関連、機械・電機、通販・小売)に対して実施したものですが、その結果は同業だけでなく他の業種にも共通する物流課題が抽出されました。その中で、前回は下記設問の回答とそこから読み取ることができる傾向や問題点を検証しました。

・現在の物流運営体制について
・今後の物流運営体制について
・物流を主に管理している部門について
・物流拠点数について
・物流委託先の見直し頻度について

今号は前回に続いて、荷主企業のあるべき姿とそれに至るまでのポイントを当社視点でまとめました。各読者の立場で読みこなしていただき、今後の活動ヒントとして活用いただければ幸いです。

前回の記事:ロジスティクス・アンケートから読み解く荷主企業の物流思考 その1

設問6 委託先に対する満足度

概ねの企業が満足と答える中、アパレル5%、メディカル7%、機械・電気17%、通販・小売15%が委託先に対して不満を持っていると答えています。業界計で見ると全体の10%は不満を持っているという結果になりました。

ロジスティクス・アンケートから読み解く荷主企業の物流思考 その2

委託先について不満と回答した企業の具体的な内容としては以下のような内容が多く挙げられました。

・委託先との意思統一が難しい
・自主的な改善活動を行っていない
・委託先からの改善提案が無い
・オペレーションレベルが低い
・業務の精度が低い
・物流機能が不足している
・委託先のサービスレベルが企業によって異なっており、会社としてお客様に一律のサービスレベルを提供することができない

結果を見ると、不満の大半は荷主と物流企業のコミュニケーションギャップから生じており、荷主の改善要望に物流企業が応えきれていないことが想像されます。荷主の不満を大きく大別すると下記の2通りに区分できます。

(1)“改善”という抽象的なニーズを持っている荷主
(2)物流企業の提供する“オペレーション”“精度と機能”に対して不足を感じている荷主

コストダウンニーズの高い荷主企業と、物流を受託することで収益拡大を図る物流企業は常に「利益相反関係」にあります。その中で、「改善」を考える機能は荷主企業独自に保有しなければ物流企業任せになり、最終的に「改善提案が無い」という不満の言葉となって現れます。ここに荷主企業のアウトソーシング体制の問題点を見ることができます。

また、(2)のような具体的な不満を持っているにもかかわらず、解消されないという現象はコミュニケーション不足といえます。不満解消のためには荷主企業の制約を緩和しなければならない部分と、物流企業の大胆なサービス調整が求められるケースが多くみられます。しかし、必要なコミュニケーションが不足し、制約解消されない状況が続くことが、荷主企業にとって「要望が放置され、不満として残る」ことにつながることは間違いありません。

設問9 物流について改善などの取組を行う場合、どのような手段で情報を入手しているか

最も多かった回答は「⑥委託先から情報を入手している」であり、93回答中、28回答で全体の30.1%を占めます。この情報経路は委託先の偏った情報である可能性が高いため、それを理解したうえで参考にするべきといえましょう。

次いで「セミナーや同業界会合で情報を得ている」という(4)(5)の回答があわせ26.8%を占めています。外部の第三者情報を得ることで検討の範囲を広げることができ、新たな着想の材料として外部からの情報を基に自社で検討するという仕組みで動いていることがわかります。

ロジスティクス・アンケートから読み解く荷主企業の物流思考 その2

物流改革や改善に着手する時に必要な情報は、業界内、他業界、一般的な物流情報など多岐に亘ります。欲しい情報によってその調達先を使い分け、あるいは独自の情報網を構築することが重要といえるでしょう。

例えば、下記のような分類で独自の情報源を作ることも考えられます。

1.業界内情報物流業のセールス担当、同業他社ネットワーク、コンサルタントなど
2.他業界情報取引先物流企業、物流業のセールス担当、コンサルタントなど
3.時流・改善ネタ取引先物流企業、コンサルタントなど
4.物流業界の新物流サービス物流業のセールス担当、コンサルタントなど

 

いずれにしても、委託先との偏った情報を基に物流改革や改善などの新しい取り組みに臨んでも、その領域が格段に広がらないことは想像に難くありません。複数の情報源を独自に保有することが相場観を養い、新しいロジスティクス施策の着想の元となるのです。

設問11 貴社の物流において今後どのような取組が重要になるか

ロジスティクス・アンケートから読み解く荷主企業の物流思考 その2
※取組の重要度合いに次の様に点数をつけている。
非常に重要である5点、重要である3点、どちらとも言えない0点、あまり重要ではない-3点、重要ではない-5点を配点している。
ロジスティクス・アンケートから読み解く荷主企業の物流思考 その2
※取組の優先順位ごとに次の様に点数をつけている。 実施済み又は現在実施中5点、6ヶ月以内3点、1年以内0点、2~3年以内-3点、実施の予定無し-5点を配点している。

まず重要度からみると、下記の5項目が挙げられます。

NO.1:在庫の圧縮によるコスト削減
NO.2:輸配送単価・委託作業費の見直し
NO.3:物流センター内オペレーションの改善
NO.4:情報システムの見直し
NO.5:自社管理体制・組織・人員の見直し

全体の傾向として、短期的に収益良化を目的とした取組が上位になり、設備・マテハンや拠点配置見直し、委託先見直しなど、大きな取り組みは下位に位置しています。
まずは自社で取り組むことが可能な範囲内で委託先との交渉や改善推進強化が重要と考えられていることがわかります。

次いで、実施済み又は現在実施中で最も多かった取組み項目は“(1)在庫の圧縮によるコスト削減”であり、2番目の取組み項目に1.5倍以上の点差をつけています。在庫圧縮によるコスト削減が企業において喫緊の課題であることが判る結果となりました。
傾向として、担当者が単独で実施できる取組みについては優先順位が高くなっており、反対に、経営判断が必要なものや、他の部署にも影響がある取組みについては優先順位が下位に位置づけられています。

設問12 物流改善における推進体制

物流改善の推進体制は「(1)自社で計画・立案し、実行する」が最も多く、全体の82社中42社の51.2%を占めています。次いで「(2)物流会社からの提案を活用し、物流会社とともに実行する」が26社で、31.7%の回答でした。

約半数は自社で物流改善を計画~実行している反面、半数は他社を活用しながら実行しており、その実行方法も物流会社との協力で実行している企業が過半数となっています。物流会社の専門性に期待し、提案を受ける姿勢が見て取れるが、結果としてこの提案レベルが前述の委託先への不満足につながっていると推察されます。

ロジスティクス・アンケートから読み解く荷主企業の物流思考 その2

まとめ

今回のアンケートからの考察として、当社は以下のポイントに着目しました。

・具体的な改善策を策定している荷主企業は少数派であること
・改善の情報源を物流企業(委託先・それ以外)から得ることが多いこと
・社内改善を実行できる組織を自社内に保有しているのは半数に留まること
・改善のテーマはやはり「在庫削減」「コスト削減」であること
・既存委託先へ不満を持っている企業は10%程度であり、その不満の原因はコミュニケーション不足に起因すると考えられること(情報源は物流企業という反面、お互いの制約解消に至る調整まで交わされていない)

上記5つのポイントを見ると、矛盾や原理原則に合致しない部分が見えてきます。物流企業と荷主企業が利益相反関係になることは避けられません。その事実は認識しながらも荷主企業は委託先物流企業を自らの物流情報源とし、自社で独自施策を練ることなく、物流企業からの提案を採用して自社のロジスティクス施策としている一連のストーリーが見えてきます。
これに当てはまる荷主企業は要注意です。結果的に取り組みが硬直化して小さな改善レベルの活動に留まってしまうことで競合他社と比較して高コストとなり、競争力が低下していることに気付かない可能性があるからです。

我々の考える「荷主企業のあるべき姿」は以下にまとめることができます。

・客観的に自社を評価する「情報源と評価基準」を持っていること(外部・顧客など)
・自社の中期事業計画を実現するための「ロジスティクス戦略」を持っていること(短期だけでなく中期でやるべきことが明らかになっていること)
・ロジスティクス戦略を「実行できるノウハウ」を自社内に保有していること
・中期計画の進捗に合わせて計画を調整できる「マイルストーンを設定し、各部門に対しての調整機能」を果たせること
・上記実行を可能にする「専門組織」があること

この5つの要件を実践した企業こそが、下記の好循環が可能になるのです。

自社の精緻な現状把握ができる

それを元にした客観的な評価が可能になる

あるべき姿を描くノウハウを持っている

客観評価した現状の姿とあるべき姿のギャップが明確になる

中期事業計画のマイルストーンを設定することでロジスティクス戦略の軌道修正タイミングも明確になる

ロジスティクス課題が短期と中期で明確になり、やるべき施策を常に自社で策定し、物流パートナーと連携して実行できる

日本経済は、段階的なインフレに突入するとの期待感が高まっており、株価上昇を通じた不動産価格への影響も予測されています。
これまでにない経済トレンドが醸成されようとしつつある状況下では、企業経営のあり方として、変化に対応する柔軟な体制構築、それを迅速に決断できる事前の想定が一層重要度を増します。

荷主企業にとってロジスティクス運営はその巧拙によって、成長へのドライブにもなり、足枷にもなり得ることは言うまでもなく、これまで以上にコストセンシティブであること、そして時勢の変化にも対応できる物流ノウハウを確実に自社保有することが、求められているのです。

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