荷主企業のギアチェンジ
物流業界の変革が急速に進んでいます。
ドライバー不足や作業人員不足とそれを補うための費用上昇、業務対応キャパシティー(処理能力)の低下が今後一層表面化することは読者の皆様も認識のはずです。そのような中、貴社の物流戦略は明確な方向性と、環境変化に左右されない安定した機能を保持できる選択がなされていますか?
これからの物流戦略において、アウトソーシング一辺倒では物流企業からの値上げ要請に対応することで手一杯となり、結果的に自社の物流競争力を低下させることになりかねません。
今回は「荷主企業の物流ギアチェンジ」と題して、荷主企業自らが自社物流を理解し、コントロールする重要性について提言します。
目次
物流コストUPの状況①:運賃値上要請
ドライバー不足が数年前から叫ばれています。しかし、この現象に抜本的な対策はなく、手を打ちあぐねているのではないでしょうか?
ドライバー不足の影響はこれから一層強くなります。第一種大型運転免許保有者推移を見ると、大型ドライバーが減少傾向にあることは明確です。特に年齢層別の構成比を見ると55歳以上の構成比が40%程度(平成17年度)であったものが、平成26年度には50%程度まで増加しています。大型ドライバーの減少は、長距離大量輸送の委託先の選択肢が減少することに直結しています。
また、中小型ドライバーにおいても運行管理上の問題が表面化しています。月間の残業時間が60時間以内の運行管理体制が必須となり、集配に費やすことのできる軒数が必然的に制約されます。一日あたりの業務量が減少し、より業務効率を追求せざるを得ない状況となっています。
上記のような人員不足、コンプライアンス強化など様々なコスト上昇要因によって、物流企業からの値上げ要請を拒みきれない荷主企業がほとんどでしょう。
物流コストUPの状況②:荷役作業料の値上げ要請
人員不足は物流業界にとどまるものではありません。
建設業界や小売業界など様々な業界で人員不足進んでおり、各業界で人員の囲い込みが激しくなってきました。小売業界では非正社員の正社員化を進めたり、店舗人員の採用を積極的に進めたりする企業も出てきています。
また、建設業界では外国人労働者の活用も含め新たな雇用対策を進めています。
一方、物流業界では抜本的な採用対策が講じられていません。倉庫作業人員のパート、アルバイトの雇用は一気に困難になっています。今後少なくとも東京オリンピックまでは雇用難は継続することが想像されます。
今後直面する問題
上記のような物流を取り巻く環境の中、次のような現象が顕在化します。
(1)輸配送依頼先の選択肢減少
ドライバー不足が起きるとドライバーの採用合戦が加熱します。採用競争の結果、魅力ある待遇をドライバーに提供できる企業に採用が集中し、その他の企業では採用が困難になります。
採用競争の激化は物流企業にとってのコスト上昇を意味します。採用コストが上昇し、給与及び福利厚生などの待遇の向上によって、物流費は上昇すること間違いなしです。コスト上昇は資金力の差による競争を呼び、競争力の無い企業は淘汰されることになります。結果、荷主にとっての選択肢は更に狭まることになります。
(2)輸配送コストの上昇
長距離ドライバーを中心に、ドライバー人口が減少傾向の中、物流企業が雇用対策を講じた後には「運賃の上昇」という形でそのコストが荷主企業に反映されることは容易に想像できます。
特に長距離輸送に対応できる輸送会社(車輌及びドライバー)は減少することが考えられ、需要と供給の関係からみても運賃の更なる上昇は時間の問題と考えられます。
(3)倉庫作業コストの上昇
倉庫作業員についても同様です。
労働者不足は小売業や建設業でも叫ばれています。物流業以外の業種が労働者にとって魅力ある雇用条件を提示することが、結果、倉庫作業コスト上昇に反映されるでしょう。
(4)物流パートナー再選定の失敗
上記のような物流コスト上昇傾向の中、委託先を再選定しようという荷主企業も出てきます。しかし、そのような荷主企業の中には物流業務をアウトソーシングしてから10年以上経過し、物流業務のノウハウが自社内に喪失しているということも少なくありません。
自社の物流業務がどのような内容か把握できていない状況で、委託先を変更しても混乱を招くだけです。そのような状況で必要な手順を踏まずに強引に見直しを実行すると、新しい受託企業は不透明(聞いていなかった)な業務対応でオーバーフローを起こすことがよくあります。
結果としてコスト上昇により、荷主企業に値上げを要求することになります。荷主企業も予算組み後に値上げを受け入れることもできず、双方が困り果てる状況がよく見られます。
結果・提言:今後、しなければならないこと
上記のように、後手に回った対応と結果を回避するために、荷主企業の物流部門は時流を読んだ物流マネジメントを実践しなければなりません。オペレーション業務(戦闘レベル)は委託するにしても、自社内で戦略、戦術を練り、物流をコントロールする機能は手放してはいけません。
外部委託するからこそ強化しなければならない強化ポイントは、下記5つに要約することができます。
1.自社物流の業務要件を整理する(RFP「要件定義書」作成のベース作り)
「アウトソーシング」≒「ノウハウの喪失」です。コスト低減とトレードオフの関係で、物流業務ノウハウは自社内から無くなってしまいます。その対策として最も有効な打ち手は、自社の物流実態を把握し直すことです。新しい委託先を選定するにも、自社の業務内容が説明できなければ受け取る提案も緩やか、かつ概算見積しか得られません。
しかし、RFPを作成しようにも、その全容は簡単には把握できません。いざとなって急ごしらえで対応するのではなく、日々の管理と来るその日に備えて準備することが肝要です。
2.実輸送会社との直接契約
輸配送を委託する物流企業は、自社便と傭車を使い分けています。(ここでいう①「自車」とは自社トラック、自社ドライバー。②「傭車」とは他社トラック、他社ドライバーのこと。)
今後のトラック不足を考慮すると「実輸送会社」との関係作りが必須になります。元請企業に任せきりで2次、3次下請けネットワークを活用するのは、いざという時の選択肢であり、まずはトラックを自社保有する会社を見つけ出し、直接取引(口座)する方策が求められます。そうすることで安定した車輌調達と、競争力のあるコストを引き出すことにつながります。
3.物流企業との交渉力強化
競争力のある価格及びサービスを享受しようと考えると、物流企業と対等に交渉できる知識が必要になります。
自社にとって必要か不必要か、そのサービスを見極め、そのサービスレベルに見合った対価を支払うのです。その対価を算出するロジックや相場感は自らが把握しておかなければ、そもそも交渉になりません。手にした情報の精査ができず、結果として妥当な着地点に導くことができません。自らの眼力を養うために、不断の情報収集と加工、習得が必要なのです。
4.作業設計と改善力の強化
物流企業の活用は輸配送のみではありません。在庫保管や入出荷作業、流通加工もパートナーに運営委託することがあります。その時も「専門家にお任せ」というスタンスでは高度化は図れません。
業務委託先に対して、その方向性、評価方法、具体的な改善施策や目標設定は荷主企業から指し示し、推進すべきことなのです。委託先に任せきりの状態では、期待する成果を想定したスピードで実現することは困難です。今後は、自らの物流の現状把握・問題抽出・改善策定ができるノウハウを荷主企業自らが持つことが必須といえます。
5.トータル物流デザイン及び管理(KPI:Key Performance Indicator)
物流の改善策定ができるノウハウが保持できれば、後はその動きが間違いなく成果を出せているのか?狙った方向に動けているのかを把握するためのKPI(重要業績評価指標)が必要になります。
その時々で問題は変化しますので、打つべき施策とそのKPIも都度変化させる必要があります。変化に合わせて物流をデザインし、それに合わせたKPIを設定し、改善推進できれば、デザイン~目標設定(KPI)~改善推進~デザインという一連PDCAサイクルが自社内で完結できるようになります。
最後に
今回は「荷主企業の物流ギアチェンジ」の視点をお伝えしました。
物流業界が大きく変わる中で、先んじて舵を切るためには荷主企業自らが物流戦略の軸を持ち、その具現化を可能にする物流ノウハウを自社内に育てるべきとの警鐘です。
時流から見ても、全ての企業がコスト上昇の危機に晒されています。
この時期は、物流コスト低減で営業利益向上に寄与するというよりも、物流コスト上昇による営業利益低下をいかに未然に防ぐかという視点が重要です。
そのような観点からも、物流はまさに企業活動のコア業務であり、そこに会社資源(人・物・金・時間)を費やすことは至極当然のこととなってきます。
危機感を持った企業は既に動き始めていますが、まだ少し先の話と捉えている企業の方が多いと感じます。どれだけ早く我が身のことと捉え、対策を打つかが求められています。
現場を見てください。今回お伝えした状況が少しでも顕在化していれば、自らの物流マネジメントで自社の物流を再構築する「ギアチェンジの時期」が来ているということです。