株式会社日立物流 執行役グローバル第二営業開発本部長 福本和哉 氏
製造業や物流業、投資ファンドなど多様な業界の皆さまへのインタビュー記事です。
業界内外の様々な観点から「物流業の今後や期待すること」「成長の基軸」などについて、自由に語っていただきます。
今号では、株式会社日立物流 執行役グローバル第二営業開発本部長 福本和哉氏にお話を伺います。
3PL業界の先駆者でありリーディングカンパニーとして圧倒的なポジションを有する同社は、「日本発グローバルBtoB物流」として2015年に売上高7,500億円・営業利益450億円という目標を掲げ、さらなる高みを目指し挑戦し続けています。
今回は、激しさを増す競争環境のなか、どのような戦略をもってグローバル市場に挑んでいくのか、また、今後の物流業界の方向性について感じられていることなど、お話を伺いしました。
目次
- コアサービスなど概要紹介及び、貴社の強みについて教えてください。
- 13年度第二四半期決算では、増収減益となりました。3月期決算に向けて、現在の景況感に関してはどのような印象をお持ちでしょうか。
- そうした外部環境下で、ビジネスを拡大推進するにあたり、国内・海外でどのような戦略・方向性をお持ちでしょうか。
- 貴社が掲げる基本方針「日本初グローバルB to B物流7,500億円企業」の達成に向けての戦術についてお聞かせください。
- 業界では、約1年にわたり路線会社による運賃値上げが行なわれました。貴社にとっての影響をお聞かせ下さい。また、3PL事業者にとって、路線企業各社との最適な関係について、どうお考えでしょうか。
- では、御社が特積み事業者や区域の路線会社を次のM&Aテーゲットにする、ということもあり得るのでしょうか?そうすることで、ほぼ全ての物流機能を貴社一社で網羅できます。
- 設備投資に対する考え方をお聞かせ下さい。
- 今後の物流業界におけるトレンドなど、何かお感じになっていることがあれば、お聞かせ下さい。
- 取材後記
コアサービスなど概要紹介及び、貴社の強みについて教えてください。
弊社は、「スマートロジスティクス」という『世界中どこにいても均質で、人と地球のことを考えた次世代物流ソリューション』を推進しています。具体的には、弊社のコア事業である3PL(システム物流)事業、重量機工事業、フォワーディング事業の三位一体で、ご提供する安全・安心・グリーン・グローバルなワンストップな物流サービスを行うことです。
例えば、国内製造企業が海外進出する際に、工場設備の輸出、現地での搬入据付、現地での物流体制の構築が必要となったとします。弊社であれば、国内実績のある3PL、長年のキャリアに支えられた重量機工事業、豊富なネットワークがいきるフォワーディング事業の三位一体で、多様な物流サービスメニューが実現するワンストップなサービスをご提案いたします。
次に弊社の強みですが、家電はもちろん自動車部品や重機建設機材、小売業(食品スーパー・ドラックストア)、医薬や化学薬品、アパレル、といった様々な業界顧客の運営実績にもとづくノウハウを蓄積し、これを基軸に営業展開していることだと考えています。
13年度第二四半期決算では、増収減益となりました。3月期決算に向けて、現在の景況感に関してはどのような印象をお持ちでしょうか。
第二四半期決算については、オーガニック(※1)の領域では売上高では国内外ともプラス成長を達成しました。減益に関しては、新規案件の立上げコスト、国内及びアジアにおける自動車関連事業の落ち込みが足を引っ張った結果です。但し、既に自動車メーカー各社より生産・販売台数大幅回復のリリースがあったように、下期に向けては物量回復を見込んでいます。
景況感としては、アベノミクスの政策導入や東京オリンピック開催などによって、景気が良化しつつあると言われておりますが、現在のところ実感は大きくありません。
(※1)オーガニック バンテックグループを除く日立物流グループ
そうした外部環境下で、ビジネスを拡大推進するにあたり、国内・海外でどのような戦略・方向性をお持ちでしょうか。
弊社では、「国内」「国外」で戦略を分けていません。「日本も含めたグローバル市場」でのメジャープレーヤーとなるために、主に以下3つの共通戦略を掲げています。
まず一つ目に、「スマートロジスティックによる他社との差別化」を推進することです。
具体的には、親会社である日立製作所と連携したビックデータを活かした物流センターの運営や、海外調達混載プラットフォームサービス等、新たなビジネスモデル・ツールの開発を推進していく方針です。また、今後成長が見込まれる社会インフラ・イノベーション分野(鉄道車両や電力関連事業など)の受注拡大を目指していこうと考えています。
二つ目は、「プラットフォーム事業を中心とした国内事業の拡大」です。
既存のプラットフォーム業界に加えて、これから成長が期待できる業界については、どんどん営業攻略していきます。最近では、日立電線ロジテック株式会社の株式譲受によって、ケーブル業界におけるプラットフォーム事業を開始しました。こうしたビジネスモデルは、顧客基盤の多様化が実現し、景況の影響をダイレクトに受けにくい体質づくりにも繋がります。
三つ目として、「ネットワーク連携強化によるグローバル事業拡大」を目指します。
顧客の調達から販売まで、国内外一貫受託を徹底強化します。そのインフラとしては、北米・欧州・中国・アジアという4極地域内の幹線ルート確立が重要だと考えています。
なお、グローバル展開は各エリアによって手法が異なると考えています。例えば、北米・欧州は、各地域・国において固有の物流の仕組みが確立しているという特色があります。よって、こうした地域では、M&Aによって統合した現地企業が有するノウハウを基軸とした事業拡大を図ります。なお北米地域は自動車産業が主力産業であるという視点から、バンテック社との連携強化も大きな柱となります。
一方アジアにおける物流は未成熟であり、日本主導型で物流ノウハウを注入・移植しながら拡大を図る方針です。
貴社が掲げる基本方針「日本初グローバルB to B物流7,500億円企業」の達成に向けての戦術についてお聞かせください。
M&Aをレバレッジとした成長が、基本的な戦術となります。
一方で、これまでM&Aを行い統合した企業とのシナジー効果を創出していくことが最も大切だと認識しています。国内外ともにグループ企業間での業務重複が顕在化しており、統廃合によるコスト削減やノウハウ集約を進めなければなりません。
業界では、約1年にわたり路線会社による運賃値上げが行なわれました。貴社にとっての影響をお聞かせ下さい。また、3PL事業者にとって、路線企業各社との最適な関係について、どうお考えでしょうか。
弊社としては、なるべく多くの路線会社様とお付き合いしながら、業務や地域に合致した事業者様と、幅広くお取引頂いております。運賃値上げの対策に関しては、プロジェクトごとに対応をしていくと思いますので、当社として決まった方針はありません。
ただし一つの方策として、自社便を増やし、自社で配送可能なエリアを増やしていくことで業務遂行上のリスクヘッジを図る、という考え方は有効でしょう。
では、御社が特積み事業者や区域の路線会社を次のM&Aテーゲットにする、ということもあり得るのでしょうか?そうすることで、ほぼ全ての物流機能を貴社一社で網羅できます。
現状では、そうした事業者様を対象としたM&Aは議論されておりません。特別積み合わせ事業などネットワークインフラ事業は固有のノウハウや仕組みに支えられたビジネスであり、弊社としてはこれまでどおり、専業の企業様と広くお付き合いさせて頂きたいと考えています。
設備投資に対する考え方をお聞かせ下さい。
現在は、専業の物流不動産専会社やファンドによって、マルチ対応型の施設が市場投入されており、アセット戦略の選択肢が柔軟な時代です。但し、既存の施設ではどうしても理想的なオペレーションが実現できないケースもあります。
例えば、大型ワンフロアで先端的設備を誇る物流センターであっても、TC利用しようとすると、非常に使いづらい場合があります。
弊社としては、拠点を自社で用意した場合と、外部委託した場合の運営コスト比較を行なったうえで、立地から戦略的に望ましいと判断される場合は、今後もアセット投資を行っていきます。その場合でも、マルチテナント型施設よりも、得意先と一体となって建設していくBTS型施設を推進する方向性だと思います。
今後の物流業界におけるトレンドなど、何かお感じになっていることがあれば、お聞かせ下さい。
メーカー系物流子会社のM&Aを含めた再編は、今後も行われていくと思います。そうしたニーズ・トレンドに対し、当社がどうお役に立てるか、また、いかに機動的に対応出来るかが経営に関る重要なイシューと捉えています。
また、物流業界全体の課題として人材不足が挙げられます。現状でもドライバー不足は深刻化しつつあり、庫内作業員についても確保が難しくなっています。外国人スタッフの登用プログラムを、行政が主導して行なうべき時期がきていると考えます。将来的には、外国人ドライバーや作業員が大半を占める、といった状況もあり得ると思います。
取材後記
ここ一年、物流業界に大きな波紋を呼んだ大手路線各社の値上げによって、多くの3PL事業者が「自社で何とかコスト吸収する努力をするか」「荷主へ価格転嫁するか」という判断を迫られました。B to B物流にとって欠くべからざる輸送機能を安定的に調達できないことが、一括元請を標榜する3PL事業運営にとってのボトルネックであることが露呈したといえます。
こうしたリスクへの処方箋としては、今回のインタビューで伺った自社便の整備・増便も一つ挙げられます。また、区域物流事業者をつなげて面展開する方策も検討されています。ノンアセット・ライトアセット型を目指してきた3PL各社にとっては、大きな経営判断を迫られるイシューであるはずです。
いま、物流業界は、業種や国境を越えてかつてない規模で変動していると感じます。
国内では、圧倒的貨物ボリュームを武器に、アマゾンや楽天物流など異業種からの業界参入が相次ぎ話題を呼びました。
物流業界では、機能をより広幅化させ、元請として荷主の事業運営により深く入り込む総合型3PL事業者が力を増しています。今回取材した日立物流様はそのフロントランナーとして、明快な事業戦略と積極的なM&A展開によって成長のステージを登り続けています。
将来的には、あらゆる物流機能を一社で網羅し、さらに付加価値までも追及した「日本版物流インテグレーター」が誕生する日はそう遠くないかもしれません。
-
株式会社日立物流
- 商号
- 株式会社日立物流
- 創業
- 1950年2月
- 資本金
- 168億円
- 上場
- 東証一部(1989年二部 1990年一部)
- 売上高
- 5,475億円(2012年度)
- ネットワーク
- 海外 73社 343拠点 (日立物流含む)
国内 27社 364拠点
合計 100社 707拠点 - グループ総人数
- 日立物流 1,959人
グループ会社 20,834人
連結人員 22,793人
持分法適用会社 2,175人
パート・派遣社員他 21,556人
グループ総人員 46,524人