荷主企業との契約単価に合致した生産性の把握


2019年10月より最低賃金の引き上げが実施されました。

東京都、神奈川県はついに1,000円の大台を超え、労働集約型産業である物流業界としては甚大な課題に直面しています。
特に物流センターを運営し、多くのパートスタッフを雇用している現場から、時給引き上げによる原価上昇に苦慮する企業の声が多数届いています。

最低賃金の上昇率から見る物流センターの原価上昇

下表は厚生労働省が開示している今回の都道府県別最低賃金の一覧に上昇率を追加した表となります。

都道府県別最低賃金2019


全体的に3%前後の引き上げとなっていますが、この上昇率をそのまま荷主企業に受け入れてもらえるケースは少ないのではないでしょうか?

荷主企業は「物流のプロ」である物流企業に業務を委託していると考えているため、原価上昇に改善対策を講じないままに価格転嫁されることは、委託自体の意味を考え直す機会になります。

つまり、業務を請け負う物流企業は原価上昇を抑制する生産性向上に具体的に動かなければ、荷主からその存在意義を問われることになるのです。

契約単価に合致した生産性の把握

では皆様の管理されている現場では、現行契約単価に対してどれだけの生産性を発揮する必要があるのかを具体的な数値として把握されているでしょうか?

工程別に契約単価と生産性を管理されている企業や現場は少なく、トータルで管理されている倉庫が多くみられます。

しかし、それでは倉庫作業のどの工程で収益があっていないのか?荷主と物流企業で話し合わなければならないのかが見えてきません。

物流コスト上昇が厳しくなる中、どんぶり勘定で価格交渉する時代は終わったのです。

生産性の逆算手法

下記に荷主企業との契約単価から必要となる生産性を逆算する手法をご紹介します。

荷主企業から収受する作業単価で、物流現場は以下の費用項目を賄わなければなりません。

  1. 作業者人件費(法定福利費込の会社が負担する費用)
  2. 作業スペース費
  3. 事務作業費
  4. 現場社員人件費
  5. 販売管理費、その他諸費用

上記5項目から一定の利益を残すための時間当たりの生産性を算出します。

まずは会社、現場として残すべき利益率を設定します。
契約単価に利益率を乗じて利益額を算出し、契約単価から差し引いた額が原価【A】となります。
1~4の総和が算出した原価【A】となるための、当該作業1件あたり処理時間【X】(秒)を算出することが今回のゴールになります。

上記を算出するために、秒あたりの原価を把握する必要があります。

1の作業者人件費は作業者へ支払う時給ではなく、法定福利費等を含んだ会社の総負担額を適用してください。

また、作業者は常時生産的な作業に従事することはなく、移動や指示、清掃なども並行して行います。

そのため、アイドルタイムの割合を予め設定することで、設定原価に余裕を持つ必要があります。

会社負担の時間当たり費用にアイドルタイムを加味したこの時給(負担時給×(1-アイドル比率))を3600秒(60分×60秒)で除すことで、秒給を算出します。・・・【B】(円/秒)

2の作業スペース費は作業に使用する坪数を設定し、坪当たり単価を乗じた費用が月間のスペース費用となります。
月間のスペース費用を稼働日×日次稼働時間×作業人数で割り込むことで、作業者一人当たりの時間当たりスペース費用を算出できます。

こちらも同様に3600秒で除すことで秒あたりのスペース費用を算出します。・・・【C】(円/秒)

3~5は物量(業務量)による影響を受けない固定費となるため、年間の想定売上に対する構成比率を算出し、単価に対する割合で把握する必要があります。

1と2は秒あたりの数値に対し、3~5は単位が異なるため、予め契約単価に固定費のパーセンテージをかけた費用【D】を使用できる原価【A】から差し引いてください。

以上で算出した値から、(【A】-【D】)÷(【B】+【C】)で計算した値が、1件にかけられる作業時間【X】(秒)となります。

3600秒を【X】で割ることで時間当たりの生産性も算出できます。

最低限必要となる利益を確保するための生産性や目標とする利益に必要な生産性などを把握し、現場に展開してください。

現場に数値目標を落とし込むだけでも、作業者全員に目標が生まれ、一人ひとりの作業性が向上します。

最低賃金の逓増や労働力不足による採用コスト増など、現場運営面では厳しい環境にあります。
作業性向上策を明確な数値目標を持って示すことで、倉庫現場の収益改善の一歩にしていただきますと幸いです。

以上

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