第33回 物流M&A(12)

Pen Iconこの記事の執筆者

赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

今週・来週と2回にわたり、DCF法を使った簡単なケーススタディをします。

◆◆物流会社は、新たな地域進出の機会を狙っています。そんな折、ある大手服飾メーカーが、子会社である○○運輸社を売却する方針、という情報を掴みました。

この企業は非公開ですが、事業シナジーが期待される筈です。早速、○○運輸社を買収するとしたら、どれ位の価値になるのか、◆◆物流の財務担当はDCF法を使い検討したいと思っています。

分析にあたり、以下の情報を入手しました。簡便的に、事業予測の期間は3年とします。

<○○運輸社 B/S 抜粋> 単位 100万円

現預金・有価証券 100 買掛金ほか  200
売掛金ほか  500 社債・借入金 1200 
固定資産 1100 自己資本  300
総資産 1700 負債・資本 計 1700

<○○運輸社 P/L 抜粋> <前提条件>

売上高 1200 ①○○運輸社は5年間、年3%の成長を継続して
原価  840    おり、今後も持続すると仮定
販管費  300 ②原価/売上は現行通り、70%とする
(うち減価償却費 100) ③減価償却費・販管費は現状レベルで変化なし
営業利益   60 ㈬設備投資は、毎年80百万円と想定

④現在の長期国債金利は、1.7%

(1)FCFを予測する

下記の式に従い、まず1年目のFCFを計算しましょう。

FCF=税引後営業利益+減価償却費−設備投資額−運転資金増加額

営業利益=売上高(1200×1.03%)−原価(1236*70%)−販管費300=70.8

税引後営業利益=70.8×(1−0.4)=42

次に、運転資金は、売掛金500から買掛金200を差し引いた300と考えます。

通常、売上が伸びるにつれ運転資金も増加するので、売上成長に比し運転資金も3%増えると想定すると、1年目は9百万円の増加となります。

FCF =税引後営業利益42+減価償却費100−設備投資80−運転資金増加額9=53

このようにして、2年目は60百万、3年目は66百万と得られます。

(2)割引率を計算

割引率計算には、下記の式を使います。利回りは悩むところですが、昨今の株価上昇なども考慮して、3%と仮定しましょう。

また、○○運輸社は非公開なので固有のβはわかりませんが、公開他社の値を調べると、およそ0.7が平均のようでした。

割引率=無リスク金利(A)+期待する利回り(B)×β値(C)

割引率=1.7%+3%×0.7=3.8%

(3)FCFを割引率で割り引き、現在価値を計算

最後に、(1)で計算した1〜3年目のFCFと(2)の割引率を使い、各年度FCFの現在価値を計算します。合算したものが、この企業の今後3年目までの事業価値となります。

現在価値=N年度FCF×(1/1+割引率)N乗

さて、この○○運輸社の価値は最終的にどのくらいになるか、実際に計算してみて下さい。

エクセルを使えば簡単です。来週、回答をお伝えします。なお、企業価値算出のテーマについてご紹介するのも、来週が最終回です。

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赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

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