第148回 物流企業のブランド戦略(4)〜可視化が変える!信頼ブランド〜

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赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

物流企業が提供するサービスは、相対的な関係において主観的なイメージが先行します。

配送に関する情報を可視化することによって、企業イメージを向上させ宅配便概念を定着化させたヤマト運輸の事例を参考に、ブランドとの関わりを述べてみます。

ヤマト運輸の宅急便は、TVCM等で「全国翌日配達」をPRし宅配便の不明快な配達日イメージを、翌日配達という表現で可視化したものです。

「宅急便=翌日配達」の広告は、その他の運輸会社が手掛ける「宅配便」をも「=(イコール)翌日配達」であるとの認識を与え、差別化戦略であった翌日配送サービスが、業界標準サービスとして伝わっていくことになりました。

これは個人向け宅配の不統一な配送リードタイムが、『翌日』という擬似数値表現により可視化され、物理的な距離と時間の関係をわかり易く簡素したヤマト運輸のオリジナルコピー(広告)と言えます。

この広告が浸透するに従い、運輸事情に明るくない多くの消費者は、「宅配便は翌日着くもの」といったバイアス(偏見)が作用します。

ヤマト運輸以外の宅配サービスを利用し翌日配達が成されなかった場合、その運送会社への非難とともに、ヤマト運輸への安心・安全感が強くイメージされ絶対的な評価と繋がります。

この当時の宅配便業界では、とても考えられない配送リードタイムの告知戦略は、その後の市場寡占化に強く弾みを付ける要因となりました。

更に決定的なヤマト運輸の可視化戦略は、「配送時間指定サービス」による絶対的な価値の提供でした。

当時「時間指定サービス」は、他の宅配便事業者も手掛けていましたが、個人向け配送においては、「不可能」な領域であり効率化を妨げる最も取組みたくないニーズでもありました。

個人宅向けの配送における「不在率」は約30%超といわれ、100個持ち出した荷物は70個しか配達完了されず、残り30個は「再配達」という二度手間が発生していました。

不在対応における電話受付事務や配送実務を軽減するべく打ち出された「時間指定サービス」は、地域内におけるルート配送の不合理が発生します。

しかし、再配達に関わる諸々の不合理(コスト)が大きく軽減される画期的なシクミとなりました。

その後マーケットが指向するサービスに抗うことは出来ず、各社追従することとなりましたが、パイオニアとして取組んだ宅急便の信頼は、神話的な支持を得られることに成功しました。

配送サービスの「可視化」による戦略は、その運用を行う企業力が根底になければ実現不可能ですが、「ブランドの定着化」を成すうえでは具体的であり、信頼性を得る最上の方策であると考えられます。

物流サービスにおいて安心感や信頼性の表現は、明確な事実と顧客に対する利便性の向上を追及することが必要であり、本質的に利用者(顧客)の心の満足が映し出せるものが本物の「ブランド・イメージ」と言えるものでしょう。

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赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

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