メキシコの最新物流事情(2017年)

はじめに

米国のトランプ大統領就任とその政策で注目を集めたのがメキシコです。1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)発効以降、大商業圏の米国と地続きであり南米へのアクセスも可能な地理的優位性と低賃金で豊富な労働力を目当てに、外資の自動車・電機メーカーからの投資が加速し経済は安定成長を続けてきました。現在では日本やEUを含め45ヶ国以上とFTA(自由貿易協定)を締結し貿易を拡大、日系企業の進出も自動車産業を中心に1050社を超えました。一方昨年11月の米国新政権誕生後、その政策により安定的な成長に不透明感も出始めております。今回はそんなメキシコの最新物流事情を取り上げます。

物流事情

メキシコの主な輸出品目はテレビ・パソコンなどの電気機器、原油や農産品がありますが中でも自動車が最も大きなシェアとなっております。その自動車生産の歴史は古く1960年代にGM・フォード、クライスラーといった米系に加え日産自動車が進出し主に米国市場向けに生産を開始致しました。現在では欧州系、韓国系、そして主要日系メーカーも進出しております(以下地図参照)。

 貿易相手国は米国が圧倒的に多く実に輸出の80%以上(金額ベース)を占めています。続いて欧州・カナダ・中国が続きます。その米国への輸送の80%以上はトラック輸送で、主に米国テキサス州ラレドやエルパソ、アリゾナ州ノガレスを経由し陸送されます。中でもラレド経由が最も多くその30%に上ります。

 それら米国の玄関口とメキシコ国内の主要都市間・港湾間を結ぶ幹線道路網は高速道路として整備されており比較的スムーズな輸送が可能ですが、主要都市エリアに入ると慢性的な渋滞が起こり、場所によっては治安の悪化による貨物の盗難事件が起こることもあるようです。その幹線道路網に沿うように主要物流拠点と都市を結ぶ貨物鉄道網も張り巡らされておりますが、トラック輸送と比較して輸送時間やスケジュールは安定しておりません。

 トラック輸送に続いて主要な輸送ルートである海上輸送の主な玄関口は、西岸に3ヶ所(マンザニーロ、ラザロカルディナス、エンセナダ)、東岸に2ヶ所(ベラクルーズ、タンピコ)あります。西岸は主にアジアや米国西岸向け、東岸は欧州や南米、米国東岸向けに利用されておりますが、例えばコンテナ貨物量の70%が西岸経由となっております。そのコンテナ船での輸出入量は2000年から2015年の期間でおよそ4倍にまで増加しており各国との貿易協定を基に安定成長を続けているのが見てとれます(以下グラフ参照)。

 輸出入に関するメキシコ独特のルールがあるのが通関です。通関手続きは必ずメキシコの通関免許を持った業者が行わなくてはなりません。例えば輸入の場合通関手続き前の通関業者による事前検査とその申告手続きにおよそ1週間を要する為(一部例外あり)、メキシコに着いてからも港から搬出されるまで多くの時間を要してしまいます。

主要港湾・道路網と日系自動車メーカーの生産拠点マップ

輸出入コンテナ物量(TEUs)とGDP成長率の推移

(出典:世界銀行データ及びメキシコ大使館商務部)

米国新政権(トランプ大統領)の影響

今回メキシコ大使館を始め、メキシコに進出されている荷主・物流企業に取材を行いました。メキシコ政府はあくまでNAFTA前提で話しを続け、既に進出している企業は米国政府の明確な政策が決まるまでは冷静に受け止め、様子見している状態です。米国新政権の対応も当初はNAFTA脱退や国境税導入といった政策を声高に掲げ、メキシコへ新たに投資する自動車メーカーを名指しで批判し一部米系自動車メーカーは進出を中止しましたが、足元ではNAFTAを終結させないことでカナダ・メキシコと合意するなど現実路線をとり始めております。

 依然NAFTAの再交渉に含みを持たせるなど短期的には不透明感は残りますが、これを機にメキシコはFTA先進国として欧州やアジア・南米といった米国以外の市場開拓を推し進めており、今年からそれら米国以外の国々との貿易量は増加傾向に入りました。加えて豊富な人口を抱える国内市場自体の成長も期待され、トランプ政権後も見据えた長期的視点で見れば、メキシコは引き続き成長していく国だと考えます。

終わりに

2019年にはいよいよトヨタが年間20万台の生産能力のある工場の稼動を開始します。それに伴いいわゆるTier1(自動車部品サプライヤー)も動き出し、今年から来年にかけてはその設備輸送が活発になりそうです。

(注)本レポートは、当社の独自取材によって、概況についてまとめたものですが、正確性・完全性を保証するものではありません。
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