ESGロジスティクス モーダルシフトの効果と課題

井上真希

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井上 真希

船井総研ロジ株式会社 ロジスティクスコンサルティング部
チームリーダー チーフコンサルタント

製造業・小売業・ECを中心とした荷主企業に対して、物流倉庫の改善提案・在庫の適正化・管理の提案を行っている。また、物流子会社の評価や在庫管理・分析を得意とし、分析を軸にした物流改善にも従事。近年は、サステナビリティ・ESG領域における専門的な物流コンサルティングにも取り組んでいる。​

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物流業界では、輸配送による環境負担を軽減するための取り組みとして「モーダルシフト」が注目されています。今回は、モーダルシフトの導入のメリットと課題について解説します

モーダルシフトとは

モーダルシフトとは、主にトラックで行われている輸送から、環境負荷の少ない(Co2排出量が少ない)鉄道や船舶などの輸送手段に切り替えることを指します。トラックで直接目的地まで運ぶのではなく、拠点間で輸送モードを鉄道や船舶に切り替えて輸送を行います。

例えば、下記図表のようにトラック輸送から鉄道輸送にモーダルシフトした場合、発工場からコンテナ貨物駅までトラックにて輸送し、コンテナ貨物駅間を貨物列車にて輸送します。

鉄道輸送の仕組み

(図表1)

コンテナ貨物駅から納品先までをトラックにて配送するような鉄道とトラックを組み合わせた複合一貫輸送となります。(図表1) 鉄道輸送の運賃に関しては、集荷料(集荷、取扱に関わる料金)、鉄道運賃、配送料(配達、取取扱に関わる料金)、附帯料金(待機料、余剰資材など)が含まれます。トータル運賃に関しては発の運送会社が請求権を保有しています。

モーダルシフト導入メリット

トラック輸送と、船舶、鉄道それぞれで輸送する場合のCo2排出量は下図のようになります。同じ1トンの貨物を1km運ぶ際に排出するCo2は 船舶ではトラックのおよそ6分の1、鉄道ではおよそ11分の1と大幅にCo2排出量を削減することができます。このような理由から、環境問題対策としてモーダルシフトは有効な手段と言えます。(図表2)

(図表2)

その際の重要なポイントは「輸送距離の長さ」です。鉄道や船舶での輸送は距離が長くなるほど割安になる傾向がありますので、トラックで輸送している距離が長いほど、モーダルシフトのコスト削減効果が期待できます。なお、実際の輸送コスト削減効果は、物流拠点とコンテナ貨物駅や港との位置関係などによる為、一概に提言できませんが、一般的には500km以上の距離帯ではモーダルシフトによるコスト削減が期待できると言えます。

モーダルシフトが抱える課題とは

モーダルシフトは環境問題や労働力不足といった社会課題の解決に繋がりますが、その一方でモーダルシフト化への道には以下のような壁が立ちはだかります。

  • (1)リードタイムが延びる

鉄道や船舶は決められたスケジュールに従って運行されます。運行スケジュールに合わせた輸送となるため鉄道や船舶のリードタイムは、トラックよりも長くなります。リードタイムが延びることによって、顧客へのサービスレベル低下にもつながりかねません。

  • (2)輸送距離によってはコストアップになる

長距離の場合にはモーダルシフトはコスト削減になりますが、短距離の場合には現状の輸送費よりもコストアップになってしまう傾向があります。また、モーダルシフトを検討する際には納品先までの距離や立地(コンテナ物駅や港からの距離)も鑑みる必要があります。

  • (3)利用できるルートが限定的

船舶にモーダルシフトする場合、就航している港・航路は限られています。航路がない地域では当然、船舶によるモーダルシフトは不可能です。鉄道輸送の場合も同様の問題が生じます。集荷場所と納品先の立地によってはモーダルシフトの実現が難しい場合もあります。

今後もトラックは重要な輸送機関であることに変わりませんが、現実問題として物流業界ではトラックドライバーの長時間労働と、それに見合わない安価な賃金に支えられています。よって、鉄道や船舶による輸送をこれまで以上に活用することは、単に環境負荷低減やエネルギー消費の削減だけでなく、物流環境全体をより良くすることにもつながります。そのような意味でも、モーダルシフトのさらなる推進が期待されます。

【前回の記事】物流業界でESG経営が進まない理由とその解決策

次回につづく..

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